三条市から車で長岡へ。市街地を抜け、ギザギザした山稜のふところに入っていく。
周囲の田んぼは、田植えが済んだところもあった。新潟は例年、GWの5月に入ったころが田植えの時期に重なる。
長工新道のブナ林 [ 拡大 ]
|
鋸山の花立峠登山口に着く。まだ朝早いからか、広い駐車場には数台しか停まっていない。天狗清水で水を補給して出発する。
2回目の鋸山は、萱峠方面へ登り長工新道を歩く。なかなか長いルートである。鋸山は市民になじみの深い山だが、意外と足を使わせてくれる。
まず、萱峠登山口までは戻るように車道を5分ほど下る。スミレのたくさん咲く斜面を登っていく。朝のきりりとした空気がおいしい。沢沿いの道を進むうち、杉の植林に入った。この植林帯の道は結構長い。
杉もブナのように雪圧で根元曲がりしているものがある。長岡市といっても元は小千谷地区に近い、豪雪の地である。道も少し前まで雪があったように、湿っているところもある。林床にはイカリソウがたくさん花をつけていた。
植林を抜け、新緑の落葉樹の林に入ると雰囲気は一変。ハウチワカエデ、ウリハダカエデ、クロモジ、トチノキ、瑞々しいライトグリーンが目の前いっぱいに広がった。ホウノキの新葉が空に羽ばたいてく鳥のように見える。鳥のさえずりも耳に優しい。1本の枝から3枚ずつついた、菱形のやわらかい若葉はアズキナシだろうか。
三ノ峠山からの登山道が合流する。「三ノ峠山」をネットで検索すると、だいたい5,6年前までは山梨県の「三ツ峠山」の検索結果が表示された。すなわち、検索側が勝手に入力ミスと判断して自動修正していたのだ。新潟、長岡の人にとっては失礼な話である。
その後カタクリの山として、県外にも少しずつ名が知られるようになったのか、最近はちゃんと三ノ峠山の検索結果が表示される。
深紅のツバキの花もよく咲いている。雪国のツバキはヤブツバキではなく、低木化したユキツバキだと言われるが、花糸が黄色ではなく白いので、ヤブツバキに近いように見える。こういう中間的なものはユキバタツバキでいいのだろうか。
灌木交じりの道となって、南蛮山への道を分ける。そちら方面は林道っぽかった。すぐにコハ清水という水場に着く。さっき追い抜かれた人は、この水場で引き返していった。
水場から先は左手または右手が大きく開け、鋸山ほか長岡東山の山並みが一望できる。春もみじの柔らかい色合いがすばらしい。キスミレやヤマエンゴサクに加えて、このあたりからカタクリも多く見られるようになってきた。
いったん高度を下げ、竹之高地への分岐を過ぎると登り直しのような形となる。やがて萱峠との分岐に出た。直進は枡形山の登り、右は萱峠だが少し藪が被っている。萱峠も行ってみたいのだが、少し時間がかかりそう(とこの時は思っていた)なため、枡形山方面へ直進する。
周囲はガラリと一変、新緑瑞々しいブナ林となった。まだ若い、ほとんどが同じ世代のブナたちである。きっと何十年または100年くらい前に、一斉に成長した森なのだろう。生命力に富み、ブナの子どももいっぱい顔を出している。イワカガミも少しだが開花していた。
少しだけ残雪を踏む箇所もある。ライトグリーンに包まれた森の登り道がしばらく続く。
長工新道に合流する。右に少し行くと枡形山の山頂だ。展望はあまりなく、ここも若いブナに囲まれている。枡形山はブナの密度濃い山だった。
長工新道は、長岡工業高校の生徒たちが切り開いたという、貴重な登山道である。国道352号を開かずの国道とせしめた豪雪の地を象徴する、ここがまさにその現場である。ただ実際のところ斜度はそれほどなく、歩きやすい美林の道が続いていた。
やせ尾根のためところどころで展望が開け、左は長岡市の街並み、右は山古志の田園風景が見下ろせる。2003年の中越地震の震源が近く、当時はこの山もかなりの打撃を受けたと聞く。それでも今は立派に生命感溢れる森が育まれている。
若いブナ林のトンネルは続く。高さ1mくらいのところから伸びている枝も、たくさんの新葉を出している。その多くが赤くてびっくりする。真っ赤である。樹木の芽吹きは初めのうち葉に赤みを帯びているのを今までもよく見ていたが、これはもう紅葉した葉と変わらない。
春もみじは、樹種によってさまざまな色の葉を芽吹かせるからそう言われるのだが、同じ木でも上と下で違う色になるので、さらにバラエティーのある色付きとなっている。
昨日の番屋山、今日の鋸山と、まるで紅葉した山を歩いているようだ。
仁王ブナという名前のついたブナがあった。たしかに周囲の木に比べて一回り大きく、枝も四方に広く伸ばしているのだが、特別太いというわけではない。せいぜい直径80cmだが、幹の曲がりようというか、そのなりを見ていると意外と樹齢は高いのかもしれないと思った。
新潟ほか豪雪地帯のブナは、太平洋側ほど長生きではなく、その結果2mや3mもあるような巨樹をあまり見ることはない。成木の平均的な寿命は200年くらいなのではないか。気候的にも稚樹が育ちやすい環境のため、世代更新が盛んなのだろう。
太平洋側のブナに老齢樹の巨木が多いのは、実生が育たないため仕方なく?長生きしていると言えるかもしれない。少子高齢化の進む人間社会とダブるところがある。
巨樹のい並ぶブナ林もいいが、こういう若い森を歩くと自分自身も力が湧いてくる気がする。長工新道はそんな若々しい、これからの森だった。
右側に守門岳や越後三山のパノラマが広がると、その先はもう花立峠だった。5,6名の登山者が休憩している。大きな杉の木と、長工新道開通の記念碑がある。
鋸山山頂への道も、長工新道の延長のような雰囲気だ。意外と長く、何人もの人とすれ違う。今日の最高点、鋸山の山頂直下のブナは芽吹きしたばかりでたくさんの雄花が垂れ下がっていた。
眺めのいい山頂は人が多いので、この先の平坦地まで下りてみる。守門岳の展望場所でもある。居合わせた人によると、さっきまでは佐渡島も見えたそうである。
花立峠に戻り、登山口に直接下りるコースを行く。もう日も高くなった。前後に登山者を見ながらの下りである。
春もみじ鮮やかな稜線の向こうに長岡市の展望、遠くに角田山や弥彦山も見える。そしてこの道は花の宝庫だ。ジグザグの道の両側にカタクリやショウジョウバカマ、オオタチツボスミレ、ナガハシスミレが咲き続いている。ハウチワカエデも小さな赤い花をたくさんつけていた。鳴滝近くの沢沿いにはコシノチャルメルソウ、そしてミズバショウも咲き残っていた。
左が谷、右側が高い岩壁のちょっと険しい道を下っていく。今日のコースは、長工新道がずっとブナ林の中で同じような眺めが延々と続く道であった以外は、地形や展望、樹林の様子がめまぐるしく変わり、変化があって山を歩いている感じがふんだんにする。
花立峠登山口に下ると、駐車場にはけっこうな台数の車が停まっていたが、思ったほどではない。時間が時間なので、花立峠コース往復の人はもう下山して帰ったのだろう。
鋸山は花立峠往復コースだけでも十分楽しめるが、長工新道ルートを使った周回コースは見どころが多く、新たな鋸山の魅力を知るところとなった。時間と体力に余裕のある人には、ぜひこの周回コースを勧めたい。
番屋山、鋸山と2日連続の6時間コースだった。充実した新潟の山行を楽しめた。