上越地方の名峰、妙高山には初登頂、火打山は2005年以来2度めとなる。
今回は昔からの登山道である燕温泉からのルートを歩いた。笹ヶ峰登山口から歩くT字形縦走ルートは標高差が小さく、両峰を軽身で往復てきるメリットがある。一方燕温泉からのコースは、じっくり歩くタイプだ。どちらを選ぶかは好みである。本来ならバス利用で、笹ヶ峰から登って燕に下りるのが一番楽しいだろう。
東京から遠い印象があるが、高速を下りてから登山口までの距離が比較的短く、計画は立てやすい。また、この頸城(くびき)という山域でもうひとつ気になるのが焼山である。しかし燕温泉のルートと絡めるとニ泊必要かもしれない。焼山はまたの機会とした。
黒沢池から登っていくと、外輪山の稜線の背後に妙高山が現れる
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アクセスがよいとはいっても、本州の裏側まで行く行程なので前の日の昼過ぎに出発し、よく寝ておくようにした。
翌朝妙高高原インターを下りて山の坂道を登っていく。妙高と同様に赤倉温泉も学生時代、スキーゲレンデとしてなじみがあったが、両者がこんな近いとは知らなかった。あのころは行くスキー場が何県にあるのかを知らずに出かけていたようだ。
途中通行止めがあったため、若干回り道して昔ながらの雰囲気をふんだんに残す燕温泉に着いた。
日帰り客や登山者は温泉街手前の無料駐車場に停める。緩い坂道に100メートルほどの温泉街。道の両側にこじんまりと、一昔前の温泉旅館が肩を寄せ合うように建っている。硫黄の臭いに誘われる。
坂を登りきったところで燕新道へ続く道と分かれ左折。黄金(こがね)の湯には、こんな朝早い時間でも入りにくる客がいた。
簡易舗装の道をジグザグと登っていくと右手に地獄谷を見下ろすようになる。一般客でも登ってこれそうな道だが、高度感があり切れ落ちていて少々恐い。
赤倉温泉源湯には水場があった。この先の沢は温泉水になるというので、ここで補給する。
舗装道から山道へ、滝や沢を見ながらの登りとなる。麻平からの尾根道と合流するところでひと休み。たしかに流れる水は白く濁って硫黄臭もかなりのものだ。妙高山は活火山ではないが、地中内部の活動は盛んなようだ。
石のゴロゴロした道はやがて「胸突き八丁」の急登となった。日帰り軽装の登山者に抜かれる。我慢して登っていくと上部が明るくなり、笹の中の切り開きに出た。天狗堂である。赤倉温泉からの道が合わさってきていて、そちらも急坂だった。
ここできつい登りはひと段落しゆっくり休憩をとるが、強い日差しを浴びて汗が吹き出す。
正面に妙高山と思われる巨大な岩峰が頭をもたげている。しかしすぐにガスで隠された。今日は朝から空模様が安定しない。
光善寺池という小さな池を見ると、再び岩交じりの急登が始まる。風穴に顔を近づけていっときの涼風を浴びる。
このコースのハイライト、鎖場の基部に到着。このコースは各ポイントに「胸突き八丁」「鎖場」など、その場所を示す標識が律儀に立っている。コースタイムのチェックに都合がいいのだが、何だか観光コースを歩かされている気分にもなる。近頃こういう山が増えてきた気がする。これが当たり前になると、逆に標識が少ない山に来たとき不安になりそうだ。
鎖場は一見厳しそうだが、足場もしっかりしていて問題なかった。10mから15mのものが数本続き、ちょっと乾徳山の鎖に似ている。登りきった後の岩棚が高度感がある。周囲がガスで展望は望めない。
急坂がさらに続く。ようやく高山植物や眺めのいい岩場が現れて高山の雰囲気が漂いはじめるが、ダケカンバなど樹林もまだ多く見られ、日本海側の山にしては森林限界が高い。前方に外輪山の稜線がガスの中から現れ、さらに大きな岩を縫って登っていく。
トウヤクリンドウのクリーム色の花を見ると、岩の積み重なった妙高山の南峰頂上である。雲が多く眺望は得られない。頂上は広く、標柱の立つ本来の頂上部までさらに50mほど歩く。
オミナエシやキオンの黄色い花に混じって、トリカブトが群れて咲く。濃い紫色をしていておそらく特産種のミョウコウトリカブトであろう。8月中旬を過ぎると、山に咲く花も顔ぶれがかなり変わって、盛夏から晩夏に見られる涼しげな色の種が目立つようになる。
百名山にしては登るのが大変な部類に入るが、さすがに人は多くどんどん登ってくる。反対側の長助池分岐に向けて下る。下山道入口を示す標識がないのが不思議だ。下り始めると見事なダケカンバの林。トリカブトやハクサンシャジンもきれいに咲く。しかし石のゴロゴロしたギャップの多い急坂が果てることなく続く。集中してないとステーンといってしまう。登路もきつかったがまだデコボコでない分よかった。
長助池分岐は標高2050m程度なので、実に標高差400mもの下り。登りも下りも大変な道である。
それでも何とか長助池分岐へ。ベンチで長めの休憩を取る。長助池方面へ下っていくのは燕新道で、日帰りの人はここから下山する。自分はこれから黒沢池ヒュッテへ向かう。
分岐のすぐ先に雪渓の溶けた水場があった。久しぶりの水が冷たくてうまい。周囲はまだ新芽の潅木もあって、季節がここだけ舞い戻ったようだ。
この先、ヒュッテまでの行程は登り返しに転ずる。妙高山は元は火山でもあり、回りに三田原山、大倉山、神奈山といった外輪山をいくつも従えている。長助池は主峰の妙高山と外輪山の尾根に挟まれた低い部分にあり、外側にある黒沢池ヒュッテに行くには、この外輪山である大倉乗越を文字通り乗っ越す必要があるのだ。
標高差400mを下って来た身には、この100m余りの登り返しはゴツイ。初めのうちは山腹をトラバースしていくが、次第に急傾斜になりロープのかかった崖のような急登もある。折りしも周囲は一面のガスになっており、眺めも楽しめない。
皮肉にも、大倉乗越に登り着くと眺めが開けた。尾根の反対側には火打山が、雲間から姿を現していた。妙高山のほうも厚かった雲が取れ始め、2つのいかついコブがあらわになる。タイミングの遅い天候回復となった。
黒沢池への下りは大したことはない。穏やかな森の道を10数分、外輪山である三ツ峰からの道を合わせたその先が、黒沢池ヒュッテだった。
日差しが戻り始めて暑くなってきたので、ヒュッテで飲み物を買う。ここでテントにしてもよかったが、明日の行程を少しでも楽にしたいため、やはり高谷池まで頑張ることにする。
もう一息、茶臼山を越えて高谷池だ。緩い登りを行くと、振り返り見る黒沢池の湿原は色あせ、オレンジ色っぽくなっていた。早くもコバイケイソウが草紅葉してきたのだろうか。麓は連日の猛暑なのに、山の上は気温は高いなりにもちゃんと季節が進行しているようだ。登山道もオヤマノリンドウやウメバチソウが、そろそろ次の季節ですよ、と語っている。
針葉樹の中を緩やかに登って茶臼山、その後はあまり高度を落とさずに高谷池の木道に行き着く。南面の開けた場所から山の稜線が見えた。北信五岳の高妻山、黒姫山あたりだろうか、今日初めて見た山並みである。長い1日だった。
高谷池ヒュッテの前は多くの登山者が談笑なり食事するなりして賑わっていた。テントは5張ほど張られている。火打山や焼山が青空の下くっきりと見える。
今日は歩き終えた時間になって最高の天気となった。テント設営後笹ヶ峰のほうを少し散歩してみるが、今日はもうあまり遠くまで足を伸ばさない。久しぶりにのんびりした気分で仰ぐ山の青空、そして夕焼けだった。