今日は元々、胎内市の大平山(おおだいらさん)に登るつもりだったのだが、前泊した場所が新発田市の旅館だったので(近いところが空いてなかった)、登山口まではちょっと距離がある。帰りの高速渋滞も気にかかるので、ここは予定を変更して新発田市の山に登ることにした。
天気が不安だったが、朝起きてみると曇りがちながら二王子岳の雪山も見えている。
櫛形山山頂からは飯豊連峰が真正面に眺められる
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櫛形(くしがた)山脈は国道18号線から、それこそ櫛の形に見える山稜である。山稜の全長は14km、最高点は568mと、規模だけみれば丘陵のようなものだが、古くから国の刊行する地形図に「山脈」と記されてきた。
山脈は山地に比べ、彫りが深く険しい山の連なり、との定義がされているがこの山稜は見たところ、そんな感じでもない。「日本一小さな山脈」として知られている所以だ。
なお、この最高点には元々山名がなく、「新潟百名山」の共著者である五十嵐氏が、行政を通じて国土地理院に「櫛形山」命名申請された、という経緯がある。
ここは縦走コースを歩くのが楽しそうなのだが、今回はピークハントで櫛形山だけ登る。最短ルートなら山頂まで1時間、さらに別ルートで下山することもできて周回コースがとれる。
その登山口となる駐車場を目指す。ゴルフ場沿いの細道を車で走り、森林公園への分岐から先は未舗装の砂利道となった。そこから5分くらいで関沢駐車場である。朝6時前に着いてしまった。他に車や人影は無い。このような小さな山を、こんな朝早くから気合を入れて登る人もいないのだろう。
案内板を見て、林道沿いに歩いていく。5分くらいで左手に登山口があった。「日本一小さな山脈 縦走コース」の表示がある。
杉林の中を登ると、チゴユリが大群落を作っていた。その杉林もすぐに脱し、尾根通しの急登となる。清々しい雑木林を経て、さらに高度を上げるとブナ林となった。このブナ木立がなかなかすばらしく、新緑の森が尾根筋にずっと続いていた。密度も高く、500m台の山とは思えないほどの深山の雰囲気がする。
巨木はないが見ごたえ十分である。
右手が開け、南側の稜線が見えてきた。ブナの他にヤマザクラの木も多く、満開である。サクラの白が芽吹きの山肌と混ざり合い、何重にも重ね塗りされたキャンバスのようだ。この先の大峰山方面には「橡平(とちだいら)サクラ樹林」という桜の名所があり、人気の山になっている。
その大峰山からの縦走路を合わせ、稜線の道となる。ベンチがあるが山頂はまだ先。ますます濃密になったブナ林を見ながら櫛形山山頂である。
そこにはもうひとつの見もの、飯豊連峰のパノラマ展望があった。展望盤によれば大日岳からえぶり差岳まで、真正面である。その右手に二王子岳。その堂々としたいでたちは飯豊とひけをとらない。
櫛形山脈はこの2つの雪山と対峙している、きわめていい位置にある。
ブナとヤマザクラ、そして飯豊の展望。櫛形山には魅力がいっぱい詰まっていることが実感できた。小さい山という最初の印象は打ち消され、「山脈」という呼び方もあながち大げさではない。
ずっと眺めていたいが、帰り道のことも考えねばならない。とにかく今日は渋滞50kmの予想が出ているのだ。
山頂からさらに稜線を進む。ブナ林はなおも続く。中の沢分岐で左手に下りる道に出会い、あっけなく下山態勢である。高度を落とすと雑木林の道となるがヤマザクラや新緑の道に変わりはない。樹林の切れたところからは日本海が見えた。
森林公園登山口への分岐を何箇所か見て、淡々と下っていくと、朝出た登山口に、左側から下り立った。標識によると、今歩いてきた下山路は山の神コースと呼ぶようだ。
下山が8時前というのも珍しい早さだが、車はもう一台来ていて、地元の人が一人、支度をしていた。渋滞が恐いので早く下山したと言うと笑っていた。
新潟の人はこんないい山に、いつでもふらっとやって来て登ることができるのか、と思うとうらやましい限りである。それは昨日の菅名岳、一昨日の鳴倉山・小千谷城山にしても同じだ。
3日間の新潟の山旅もフィナーレである。越後の春景色を楽しみながら北陸道・関越道と乗り継ぎ、関東へ戻る。