新潟県下越地方の五頭山塊は、10年前に五頭山だけ登ったが、峰続きの菱ヶ岳は登り残していた。また両山をつなぐ縦走コースも、残雪消えつつある新緑の時期、まさに今が最適期だろう。
年々体力が落ちてきて、自分にはもはやきつい行程かもしれないが、天気の心配の全くないのを味方にして歩くことにした。
五頭の峰々の背後に、飯豊連峰のパノラマが広がる [拡大 ]
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菱ヶ岳に登った後、五頭山の反対側、宝珠山への縦走路もある。ブナ名山の宝珠山とつなぐことも捨てがたく、むしろ最初はこちらを念頭に計画していた。
が、宝珠山縦走の場合車の回収が難しい。下山後に菱ヶ岳登山口に戻るには車道を2時間近く歩く必要があるからだ。そのためにタクシーを使うか、また路線バスも近くにあることはあるのだが、登山口を結ぶ便はない。
五頭山縦走なら道なりで菱ヶ岳登山口に戻ってこれるので、結局はそちらを選択した。
早朝に安田地区の旅館を出て、村杉温泉の先にある内ノ沢の駐車場には6時に着く。すぐ先に菱ヶ岳の登山口があり、左の車道は五頭山の登山口であるどんぐりの森キャンプ場に通じている。
絶好の登山日和と思われるが、まだ時間が早いせいか、車は数台しかない。上部で風の音がビュービュー鳴っている。高い所はまだ少し風があるかもしれない。
杉林の登山道はすぐに落葉樹の森となり、緑が朝日にきらめき美しい。標高260mくらいでブナを見るが、まだ雑木林の中の一本でしかない。それでも、日本海側のブナらしくスマホサイズの大きな葉を、低い位置いっぱいに伸ばしている。
3合目で登山道は方向を変える。村杉からの踏み跡が上がってきているが廃道のようで、ロープで仕切られている。上の方でさっき強かった風も、すでにおさまっているようだ。
石碑の立つ4合目は菱見平で、名前の通り以前は菱ヶ岳の眺めがあったらしいが、今は樹林の中。
このあたりは方角的に日が差し込んでこないので、夕方のような暗さだ。半面、ブナがどんどん増えてきて、白く明るい幹がその暗さを補っているので、陰鬱な感じはない。歩きやすい道が続く。
ミツバツツジを見ながらゆるゆると登っていくと尾根状になり、明るさが増してきた。5合目手前あたりからは見事なブナ林が展開する。昨日の不動堂山のような草かぶりの道ではなく、足元はすっきりしている。
太い老木は見られず、多くがおそらく同じくらいの樹齢と見られる。姿かたちも似通っている。新潟のほかの山と同様、一時期に大規模な伐採が入り、その後一斉に芽生えたと思われる。典型的な二次林の姿だ。
高度を上げていくと、緑の色もだんだん軽くなっていった。時折左手が開け、五頭山に至る稜線が見える。
6合目から少し歩くと、冬道と夏道に分かれる。直進する冬道は岩っぽい急登、左折して夏道に入る。こちらは山腹を巻くルートで、少々歩きにくい。
斜面に残雪を見ると、周辺にはカタクリやショウジョウバカマ、イワウチワなど春の花が立て続けに現れた。雪が溶けて一斉に咲き始めたのだろう。特にイワウチワが引きも切らず咲いていて、7合目のベンチのある場所まで続いていた。
7合目からは急な登りが始まる。このあたりの新緑は息をのむほどにすばらしく、ライトグリーンのドームの中にいる気分だ。木の階段で始まる急斜面は、イワウチワの絨毯状になっている。
今日初めての頑張りどころでこんな景観に出会えると、元気も出る。冬道を合わせて傾斜が緩でくるとそこは、芽吹いたばかり木も混ざる、新緑の明るいブナ林になっていた。青空にタムシバの白も映える。
9合目あたりからは残雪を少し踏むようになる。菱ヶ岳山頂へはあまり苦労することもなく到達できた。
山頂には全く雪はないが、残念ながら灌木に囲まれて眺めは乏しい。五頭山への縦走路のほうへ少し行くと、北側が大きく開ける場所があった。五頭山に至るルートは、それでも残雪はそれなりに残っていそうだった。
少し休憩してから、縦走にかかる。すぐに小さなピークを超え、その後低灌木の稜線が続き、緩い登り下りを繰り返していく。
残雪の斜面からは正面に、飯豊連峰などの大きな眺めが得られた。久しぶりに目にした越後の残雪の山からの大パノラマである。北峰を過ぎて、与平ノ頭で右手に天平尾根を分ける。
稜線に茂る低木はブナが多く、たくさんの雄花、雌花をつけている。マンサクの花もまだ残っていた。
日が高くなって気温が上がるにつれ、稜線の残雪がどんどん溶けていく。寝ていたブナの枝が雪が溶けて突然バッと起き上がり、びっくりする。こういうのも今の時期ならでは。
やがて、広々とした平尾根に出る。五頭山のいくつもの峰と、何とっても飯豊連峰の眺めが素晴らしい。腰を下ろすには絶好の場所だ。ここは中ノ岳で、藪の中の立ち木に隠れるように山名板がかかっていた。
いつまでも眺めていたいが、五頭の峰々も手招きしている。うねうねした稜線が手に取るようにわかる。
残雪で木が寝ているところは歩きにくかったりもするが、進路に窮するところはない。そしてここにもイワウチワが引きも切らず咲き続けている。
いったん高度を下げ、背の高いブナ林帯に入る。再び前方が開けると目指す五頭山(一ノ峰)が見上げるような高さになっていた。
菱ヶ岳~五頭山間の縦走路は、菱ヶ岳が一番標高が高いのだが、菱ヶ岳方向から来ると最後の五頭山の登りがきつい。そのため、コースタイム的にも菱→五頭のほうが時間がかかるようだ。
水場で水を補給してから、その最後の登りをこなす。行きついたところが「三叉路」で、左に見えるのは三ノ峰の丸いピーク。五頭山本峰は直進気味に行く。
このあたりは以前歩いたところのはずだが、あまり覚えがない。前回は一面の残雪があり、そのときはあまり残雪の山の経験がなかったこともあって、一緒に登った地元の人の歩く後をついて行った記憶がある。
それに比べて今日見られる残雪は部分的。基本は土の上をたどって、緩い登り下りを経て五頭山山頂に着く。雪は山頂部一帯に残っているだけで、山名標柱は8割方出ていた。数日前の山行記録で見ていた写真は、標柱は逆に8割が雪の中だったので、この数日で劇的に溶けたことになる。
今年の冬に降った雪はかなりの量だったが、春先の気温上昇で溶けるのも早かったようだ。
眺望のよい一ノ峰で大休憩とする。飯豊や越後の山、そして新潟平野、日本海や粟島も見える。もちろん今歩いてきた菱ヶ岳からの稜線も手に取るようだ。ブナのもこもこの丸い形がいっぱい、山肌に貼りついている。
木のないピークは直射日光を遮ぎようがなくて、汗だくになりながらお湯を沸かしてラーメンをたいらげた。
一ノ峰から二ノ峰、避難小屋のある三ノ峰へと歩いていく。ここで展望の稜線と別れて下山となる。
上部は残雪がそこそこあるが、樹林帯深く入るともうない。見応えのあるブナ林がずっと続く。ここは前にも下った道で、随所で何となく記憶に残っている風景もあった。少し余裕を持って歩ける。
タムシバやユキツバキ、高度を落とすとオオタチツボやナガハシスミレといったおなじみのスミレも足元に見られるようになった。
最後の30分くらいは急な木の階段が続き、若干骨が折れる。登りにとるときついだろう。
どんぐりの森のキャンプ場に下り立つ。ここから車道をジグザグに15分ほど。朝出た駐車場に着いた。
展望と残雪、ブナと花に満ち溢れた贅沢な1日山行だった。標高1000mに少し満たないくらいの新潟の山は、GWに1日がっつり歩きたいのに適している。大蔵・菅名、光兎山、越後白山などどれも満足度の高い山だった。
年を経るに従い、体がきつくなってくるのが残念だが、こればかりはしょうがない。
この時期は、夏に北アルプスに登るための体力をつけるのを目標に、山行のレベルを少しずつ上げていくパターンだった。ここ2年間は、コロナ禍や家庭の事情があってそれさえもかなわなかったのだが、今年はどうやらそういったステップアップの体力づくりができそうである。
村杉温泉の共同浴場で汗を流してからは、2時間を越す長いドライブに入る。明日は新潟と山形の県境の山に登るので、今日のうちになるだけ北上したい。村上市の旅館に泊まる。