2022年5月6日(金) | |||
◇ | 村上市(タウンホテル村上) | 5:10 | |
国道345号 | |||
6:25 | 小俣登山口 | 6:35 | |
7:25 | 沖見休憩所 | 7:37 | |
7:57 | 蛇逃峠 | 8:02 | |
8:20 | 日本国 | 9:05 | |
9:20 | 蛇逃峠 | ◇ | |
10:00 | 蔵王登山口 | ◇ | |
10:17 | 小俣登山口 | 10:25 | |
国道7号 ゆり花温泉立寄り |
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◇ | 朝日まほろばIC | 13:00 | |
日本海東北道 北陸自動車道 関越自動車道 |
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◇ | 練馬IC | 18:40 |
村上市のホテルを5時に出る。山形県境まで行くため、もっと北のほうで泊まった方がいいのだが、ネットで宿泊予約ができる新潟県の宿泊施設では、村上市が限度だった。海沿いの一般道を1時間以上かけて走る。眺めのいい「笹川流れ」の海岸を見ながらのドライブはなかなかいい。
蛇逃峠にて。県北からの眺め [拡大 ] |
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海を離れ内陸に入っていくと、すぐに山間の静かな田園風景が広がる。隠れ里ともいうべきか、これぞ日本の原風景と言えそうな景観がそこにはあった。山、川、田畑や民家が一体となって溶けこんだ里山の姿だ。海沿いの風景とはまた違った時間がここには流れている。
魚沼や秋山郷だけではない、新潟には県北にこんな情緒あふれる場所があったのだ。新しい発見である。
新潟県小俣と山形県温海との境に位置する「日本国」に、今日は登る。山の名前である。
戦国の世、時の将軍がこれより北部の蝦夷地を平定したことを根拠に、ここを日本国と蝦夷地の境とした、というのが山名の由来のひとつと言われている。(昔、蝦夷地は北海道だけでなく東北地方までを指していた)
そういう意味では、昔はここが日本国の北限だったと言えるかもしれない。
今まで車で一番遠くまで来たのは、同じ山形の朝日連峰だったが、交通ルートが違う。今回の日本国へは新潟を経由してきたので、距離と時間的にはここが最長となった。
この山は前評判からすれば、歴史上の史跡があるとか、ブナが見ごたえあるとか、花がたくさん咲いているとか、そういう大きく秀でた魅力があるわけではない。「日本国」という名前につられた、というのが今日ここに来た一番の動機である。
村上市なら、学術的にも貴重な低地ブナのある「お城山」、新ルートができた高坪山の再訪など、いくつかプランはあったのだが、結局今回は名前で山を選んだのだ。
日本国の小俣登山口には、学校跡地を利用した「日本国ふれあいパーク」という広場があって、駐車場にもなっている。近くに民家があるが朝早いこともあり、人の気配はない。もう1人の登山者が支度をしていた。
休憩所があるので入ってみると、登山者帳が置いてあった。昨日がこの山の山開きだったようで、10名くらいの名前が記してあった。
木の鳥居をくぐって入山する。下部は杉林帯のジグザグ登りで、ラジウム清水と書かれた水場を見るが、水の流れは見当たらない。
ほどなく周囲が落葉樹となる。尾根状の歩きやすい道になった。ガマズミの白い花が目立つ。
松ノ峰と呼ばれる小さなピークに上がった後は少し緩やかになり、左手が開ける場所に出た。沖見休憩所というところだろう。海が見え、涼しい風が渡ってくる。
先行していた登山者が休んでいて、少し話す。地元新潟の人だったが、やっぱり名前につられて登ってきたという。
それにしてもやけに静かだ。このくらいの低山だと、下から車のエンジンなども聞こえてくるものだが、そういうものも全く聞こえない。何だか下界と隔絶した山という印象である。
まあもともと山というのは神の住む場所で、人の住む世界とは分けられているというのが昔からの考え方なので、これが本来の山の姿なのかもしれない。
最近は交通機関の発達や奥地の開発などで人と自然の距離が縮まりすぎて、その結果いろいろな軋轢が生まれている。
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ブナ林の尾根になる。ブナは樹皮が白く、葉は大きい。ただ、ブナが見られるエリア的には小さい。全山ブナという感じではなくて、多種多様な樹木が見られる。
新潟と山形の県境の山というと、さもブナが満載だろうと考えがちだが、意外とそうではなかった。
ヤマツツジと、ひとつ花のツツジはムラサキヤシオだろうか、新緑の山肌にアクセントをつけている。
登りついたところが蛇逃(じゃのげ)峠というところ。あずまやからは雄大な展望が広がる。角度的に、飯豊や朝日などの有名な山は見られないが、新潟県北のから葡萄山塊当たりの重厚な山並みが幾重にも折り重なっている。
峠には1本の大きなブナの木があり、これも雄花、雌花をたわわにつけていた。今年は高尾山など南関東の山のブナは4年ぶりにたくさんの花をつけたが、ここ新潟も同じだった。
ブナの花は4年か5年ごとに一斉に花を咲かせるが、その周期は日本各地で同調することが多い。まるで示し合わせているかのようだ。
蛇逃峠を後に、山頂まで最後の登りだ。いったん緩く下って登り返す。ここにきて杉の人工林が右手に見られるようになった。
日本国山頂に着く。山頂は広く、木造りの展望台があるが老朽化で登ることはできなかった。周囲は部分的に開けており、日本海も見渡すことができるが360度の眺めではない。しかし山の雰囲気としてはこの上なくいい。
避難小屋があり、中には記念スタンプが置かれていた。これを備え付けの紙に押して、山麓の指定された商店に持っていくと、後日「日本国登頂証明書」を郵送してくれるそうだ。ただ費用500円かかるとのこと。登山バッジを買うようなものだろう。日本を制覇したという感じがしていいのではないか。
日本海を眺めながら、しばし3日分の山の余韻にふける。
下山は蛇逃峠まで戻り、蔵王コースを下る。小俣コースを登って蔵王コースを下るのがこの山の定番になっているらしい。ただ、山頂の小屋に貼られていた地図によれば、他に2つのコースがあるようだ。
ゆったりした小俣コースと違い、蔵王コースは途中まで急峻な下りが続く。ロープも1か所あった。こちらも杉やクロマツなどの針葉樹林が見られた。
急な分、時間も短くて、ほどなく下山地の道路が見えてきた。小俣登山口と同じような鳥居をくぐってその道路に出る。小さいけれど魅力のいっぱい詰まった山だった。
車を停めているところまでは、小俣宿という古い宿場道を通っていく。全部で20軒くらいだろうか、古くから建っていたような大きな民家が、それぞれの宿の屋号を玄関に掲げている。電話すれば宿泊も受け付けてくれるだろうが、ネットで予約できるようなところでは、もちろんない。
でもこういうところに泊まって、静かな一夜を過ごすのもいいだろう。きっと日々のストレスが洗い流されるに違いない。
新潟には上越、中越、下越それぞれ個性のある山がたくさんあって飽きないのだが、さらに県北というエリアにはまた違った味のある山があるようだ。葡萄山塊の新保岳もそれに入るかもしれない。
日本国の周辺も含め、村上市から車でやってくる間に、同じくらいの標高の低山をだくさん見てきた。これらの山はネットで山行記録を見ることもまれだが、きっと里山として地元の人には登られているのだろう。こういう名も知られていない小さな山を登ってみたいものである。
東京への帰り、車で6時間半はやはり大変だ。小俣を後にしたのは午前中だが、自宅に着いたときはもう暗くなっていた。