塩山駅から大菩薩線の路線バスに乗る。バス停にこの間オフ会で一緒だったsanpoさんがいてびっくり。登る山も同じ鶏冠山と聞いて二度びっくり。予定のルートは少し違っていたがせっかくなので途中まで一緒に登ることとなった。
黒川鶏冠山は柳沢峠から歩くのが一般的だが、その柳沢峠では下車せずに、もう一つの登山口である落合まで乗っていく。柳沢峠は下山地とする。
鶏冠山の標高は1716m、柳沢峠が1470mで落合バス停がおよそ1110mなので、柳沢峠から登るほうが楽なように思えるのだが、時間や距離的には落合コースのほうがずっと短い。
鶏冠山から、秀麗な山容の大菩薩嶺と富士山を望む |
黒川鶏冠山は少し前まで、登山口へのバス便がなかったため、マイカーかタクシーを使うしかなかった。ただ、この裂石~柳沢峠~落合のバスも実は、昭和50年代まで運行していた路線の復活なのである。(山行記録「大菩薩嶺から柳沢峠」参照)
その時代は、奥多摩駅発丹波行きの西東京バスが柳沢峠まで入っていたため、鶏冠山へのアプローチはそこそこよかったのではないかと思う。中央線で塩山駅からバス利用で大菩薩嶺や鶏冠山に登り、奥多摩駅から青梅線で帰ることもできたはずである(自分はその時代の頃は登山をしていなかったので、やったことはない)。
落合バス停で下りる。そもそもバス停がどの位置にあるのか、登山口はどこにあるのかあまり調べていなかった。バス停は坂を下りきったところだった。笠取山に上がる林道が伸びている。
鶏冠山の登山口は、というと、いっしょにバスを下りた人の一人が戻るように車道を登っていくので、とりあえず後をついていく。すぐに左に入っていく林道があり、少し先に民家が見える。その人はそこに入っていった。
しかし地図を見ると、登山口には小学校があるはずであり、そこには小学校どころか登山口を示す指導標もなかったので、登山口はまだ先かと車道を登ってみる。下を流れる川沿いに木橋がかかっているが、そこに下りる踏み跡もない。さらに車道を行くとNTTの施設があった。地図を見て行き過ぎとわかり引き返す。
さっき見送った道に入っていくと、1軒の民家の先に「鶏冠山入口」とかかれた標識があった。やはりここでよかったのだ。
このコースは地図でも赤実線で書かれた一般登山道である。わかりやすいように、左折する場所に標識でも立っているのが普通だと思うが、おそらく民家の人が標識がつけられるのをいやがっているのではないか、と推測する。車でも停められたら非常に迷惑だろうから。
杉林につけられた登山道は緩やかで、ほどなく自然林の森に移る。下草などなく道は明瞭だ。
ミズナラが多いが、大きな5枚の葉が放射状についている木もあちこちにある。これはホオノキと思っていたら、sanpoさんはトチノキかもしれないと言う。両者はよく似ているが、トチノキは5枚に見える葉が実は大きな1枚の葉なのだそうだ。先々週お坊山で見ていたのも、多くはトチノキだったようである。
花は少なく、もっぱら緑を楽しみながら緩やかな坂を登る。正面に鶏冠山の稜線が見えてくるようになると、分岐となる。横手山峠に向かう道を分けて鶏冠山方面へ向かう。
苔むしたしっとりした道となった。スミレやカタバミが咲く。濃い紫色のスミレはミヤマスミレだそうである。
鶏冠山は山頂付近だけが針葉樹林帯で、この時期であればシャクナゲが期待できる。この分布は南関東・甲信の山々の特徴であり、だいたい標高1700m近辺で広葉樹林から針葉樹へと植生が変化する。大菩薩山塊や、奥多摩の石尾根から奥秩父にかけてがその例である。丹沢に針葉樹林があまり見られないのは、標高1600m台が最高峰であるからだ。
鷹ノ巣山、七ツ石山、日陰名栗峰、鬼ヶ岳、三ツ峠、倉掛山、鶏冠山、茅ヶ岳など、奥多摩・御坂・大菩薩山塊には、不思議とこの植生の変化点である1700m台の山が突出して多い。そうした地形的な理由で、南関東の山地は1700mより上が風の通り道となり亜高山帯の植生となって、それより下は冷温帯に適したブナやナラなどの広葉樹林が生育したと考える。
もし山の標高が1000mから2000mまで均等に分布していたなら、山地全体としてこのようなはっきりとした植生の境界は生じなかったのではないか。
黒川山からの道を合わせ、岩っぽいやせ尾根を登る。シャクナゲは咲いていたが花は少ない。ツツジが不作の年はシャクナゲもあまりよくないことが多い。
しかしこのルートでもうひとつの見ものはヒメイワカガミだった。北斜面にいくつもの大群落を作っている。大岳山や、滝子山の寂ショウ尾根の比ではなく、これだけ固まって咲いているのは初めて見た。
新潟や東北の山はカタクリにしてもツツジにしても、色がきれいで鮮やかなものが多いが、イワカガミに関しては、北のコイワカガミやオオイワカガミよりも南関東のヒメイワカガミのほうが見映えがする。同様に、イカリソウもこちらのものはピンク色のものが多いので、こちらに軍配を上げたい。
岩の上に出たところが鶏冠山山頂だった。多くの人が休憩している。空は雲が多いが大菩薩嶺や奥多摩の山々、そして富士山も顔を出している。
一番高い岩棚に上ると、やはり一番眺めがいい。岩ゴツゴツの狭い山頂も、意外と腰を下ろす場所が多い。昼食休憩にする。
黒川山分岐に戻り、その黒川山に向かうが、間違えて黒川金山跡のほうを歩きかけてしまった。sanpoさんに指摘されなかったらどうなっていたことか。この分岐は一応十字路ではあるのだが、そのうちの3本の道が同じ方向に向かっているので間違いやすい。
少し歩くと右手の高まりに人が集まっている。そこを通過してしばらく進むと、黒川山展望台だった。前回来た時はここには寄らなかったが、パノラマの展望が広がる。奥秩父の主脈、乾徳山、倉掛山の3本の稜線が標高順に並んでいる。もちろん富士山も見えている。
戻って、先ほど通過した高まりに登ってみると、そこが黒川山三角点で、樹林の中だった。
緑豊かな道を緩く下っていく。横手山峠に着くと、朝の登りで一緒だった人が休憩していた。「今ヒルを見た」と言うが、こんなところに出るのだろうか。奥多摩や大菩薩の尾根筋にヤマビルが出たら事件である。
ここ数年来の温暖化で、ヤマビルも生息地を広げているのかもしれない。ヤマビルのいる山には行かないようにしているのだが、そんなことを言っていると行ける山がなくなってしまわないか、心配でもある。今のうちに慣れておくのも一法か、と真剣に考えたりもする。
林道を横切り、穏やかな道を歩いて六本木峠へ。丸川峠経由で下るsanpoさんとはここで別れる。ナラ坂を通って柳沢峠へ下る。この道は何度か歩いているが、鶏冠山からここまでは標高差のあまりない散歩道である。ブナやナラの大樹も多く、森林浴に最適のコースと言える。
柳沢峠に下り立った。帰りのバスまでには、まだ1時間半ほどある。ちょっと中途半端な余り方だが、三窪高原まで足を伸ばすことにした。
車道を渡り、反対側の山道に入る。こちらも急ではない登りだが、ただ、下ってきてすぐの登り返しであり、時間的な理由で少し早足で行く必要があるので、次第に息が上がってきた。それでも柳沢ノ頭までは25分あまりで着いた。富士山が大きい。
さらに歩を進める。こんな時間なので、下山して来る人と多くすれ違う。レンゲツツジには少し早い時期であり、トウゴクミツバツツジやヤマツツジを見るが花数は多くない。しかし快適な森の散歩道である。
いったん鞍部に下って、鈴庫山への道を分けると、大きく枝を伸ばしたズミの木が満開になっていた。間近で見るとなかなかいい形をした花だ。
少し登ってハンゼノ頭に着く。ちょっとした広場になっており、甲府盆地の上に富士山が優美な曲線を描いている。曇りの天気でも空気は乾いているので、こんな時間になっても富士山が見えている。
はるか西方には南アルプスが、宙に浮かぶように雪解け進む姿を示していた。時間には余裕が出来たので、ベンチに座ってゆっくり休憩する。
来た道を下っても時間的には問題ないが、鞍部で左に折れて、斉木林道に下りる道を行くことにした。この道も急なところがなく、ブナの大木もあっていい道だった。
斉木林道を少し歩いてバスの通る車道に出会う。柳沢峠の下に出てしまうのだが、登り返しはほんの少しだ。柳沢峠では結局15分ほど時間が余ってしまった。
柳沢峠には登山ツアーのバスも来ていたが全体的に人はそう多くなく、落ち着いた山歩きの出来た1日だった。心地よい疲れを感じながらバスで塩山に下る。