南関東・甲信の山も久しぶりに天気が良さそうだ。眠い目をこすりながら山手線、中央線と乗り継ぐ。
電車で山に出かけるのは5月以来。車窓から高尾や丹沢の山を眺めるのが何だかとても新鮮だ。
抜けるような青空に石丸峠の緑の草原が映える
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塩山駅発のバスは空いている。甲斐大和駅から上日川峠へバスが入るようになってからは、こちらのバスには座るためにあわてることがなくなった。
裂石バス停から歩き出す。低い雲が垂れ込めているが薄雲で、上はおそらく好天だろう。こういう時は日が差していなくてもムシムシと暑い。丸川ルートに入り、沢沿いの林道を登って登山口に至る。健脚そうな女性の登山者に先に行ってもらう。バス停では4名いた単独の登山者の先頭を切ってスタートしたのに、ここからは最後方を行くことになった。
丸川峠コースの登り始めは急登である。西向きの登山道でも涼しいことはなく、最初から汗がにじみ出る。先を行っていた同い年くらいの男性が、早くも休んでいた。自分も疲労から熱中症になりはしないか、少し警戒する。
雲海の高度は低く、木を透かしてもう青空と太陽が見えていた。痩せた尾根を登り、しかし平坦になってところで休憩しつつ、地道に高度を上げる。水の消費が早い。
バス停から1時間30分ほど、あたりの木々の背が低くなると、草原状の丸川峠に着く。まるかわ荘の煙突からは煙がたなびき、何となくホッとする空間である。
小屋の裏のベンチでひと休み。花はもう終わってしまったのか、咲き残りさえ見られない。
丸川峠からひと登りした後は、しばらくは穏やかな道となる。木々の葉は赤や黄色に変わりつつあるものもちらほら見られ、オオカメノキは真っ赤な実をつけていた。
ブナなどの広葉樹林から、コメツガの森に移っていく。北側から登る大菩薩嶺は、上日川峠からとは違い重厚な黒木の山である。苔むした登山道は太古の昔から変わらずあるようだ。
高度を上げると岩の間から水が染み出しているのを何カ所かで見る。一般に保水力がより大きいと言われるブナ林よりもむしろ、針葉樹林のほうがここは水潤っているのが興味深い。さらに登っていくと、水場として使えるような流れもあった。
「大菩薩嶺北尾根」と書かれた古いプレートを見て、にわかに上の方から人の声が聞こえてくると、大菩薩嶺の山頂である。
樹林の中で眺めはない。数人が憩う静かな地だったが、やがて南側から登山者が列をなしてやってきた。聞こえてくる会話からは、今日が初めての登頂の人も多いようで、眺めの悪さに驚いている人もいる。
その南側の方へ向かう。5分ほどで大きく開けて雷岩。南アルプスや富士山はあいにく雲で見えないが、青空と雲が眩しく、甲府盆地が広く見下ろせた。小金沢連嶺へ続く山並みもよく見える。暑さに苦しめられた登路が嘘のように、展望地には心地よい風が時折そよぐ。
人もいっぱいで、唐松尾根からは登山者の列が、それこそ湧き上がるようにやってくる。
稜線歩きに入る。ツツジの低潅木には赤く色づくのもあった。一方、ここまで全くと言っていいほど花を見ていない。稜線の草原を注意深く探してようやくウメバチソウとワレモコウをそれぞれ一株ずつ目にした。
以前なら9月中旬であってもある程度咲き残っていたのだが、ついにそれも根絶えてしまったか。緑の草原と青空のコントラストが、ただ際立って美しく見える。
展望の尾根を歩いて大菩薩峠に下る。介山荘には「買い忘れた」人のために他の百名山のバッジが売られていた。
時間があるので石丸峠に寄っていく。熊沢山への薄暗い登りを経て、再び明るい草原の石丸峠へ。ここも花は終わっていたが、緑の斜面と青空が気持ちいい。大菩薩湖(上日川ダム)のもよく見える。
自分が初めて大菩薩嶺に登った1998年は、湖はまだ造成中で、面積も今の4分の1くらいだったと思う。その頃は、この山深い中に人造湖は似合わない印象もあったのだが、今はすっかりこの風景にマッチしたようだ。まだ歩いてはいないが、湖畔からこの稜線に上がる登山道もいくつかある。
雷岩や大菩薩峠の賑わいに比べ、石丸峠はホッとするくらい静かだ。登山者はけっこうな数がやってくるのだが、どこか寂しさ漂う峠の雰囲気がそう感じさせるのだろう。
裂石の登山口へ下山する。草原に別れを告げ、カラマツ林を緩やかに下っていく。一旦林道に出ると、雷岩付近の緑の稜線が見送っていた。小屋平バス停で歩きを終わらせることもできるが、上日川峠から来るバスはおそらく満員だろう。登山道をさらに行く。
大菩薩湖への道を分けると少し難しい沢の渡渉がある。水量が多いため、どこを渡っても靴半分は以上は水につかる。その後の登り返しも意外にきつい。小屋平から上日川峠までの区間は気分的には下りなのだが、実際は地道に標高を上げていく。
以前ここを同じ方向で歩いたのは2006年・07年の2回あり、その時の記録を見ると、登り返しがあるとの記述はあるものの、きついとか大変だなどの感想は書かれていない。その頃はまだ若かったのか、このくらいの登りなら登りと認識しないほど元気(鈍感?)だったようだ。
道自体はよく整備されているものの、大菩薩峠の登山道としては珍しく曲者である。
上日川峠に上がると明るさが戻る。ロッジ長兵衛は建物修繕中なのか、足場がかかっていた。津軽のリンゴが一個80円で売られていたが、味見のサンプルだけもらう。他にはかき氷がよく売れていた。
水を補給して、再び樹林帯の下りへ。ブナやミズナラの大木が目を引く。2年前崖崩れだったところは、未だに補修がなされず一旦車道へ迂回する道がつけられていた。峠へのバスが通ってここを歩く人が減った結果、対応が後回しになっているのだろう。
沢音が聞こえ、気温もぐっと上がるのを感じると登山道入口。すぐ先の千石茶屋も若干小ぎれいになっていた。
裂石登山口で立ち止まらず、今日は大菩薩の湯に寄っていく。車道を10分足らずで着く予定だったが、上の方の入口が工事で入れず、ずっと下の表玄関までぐるっと回り込まなければならなかった。300mほど余計に歩かされたようだ。
久しぶりの電車バスの山行て疲労感もあったのでゆっくり温泉に入りたかったのだが、結局40分後のバスで帰ることにした。迷ったのだが、その次のバスまでは2時間近くあったので。
日の落ちない時間に塩山駅へ。すぐやってきたのが「ホリデー快速ビューやまなし」だった。早く帰れるのは嬉しいが、座席が空いてない。立ちんぼで1時間、高尾駅で私鉄に乗り換えた。
今日はやっぱり、ゆっくり温泉につかって帰る日だったかな。電車バス利用ならではの、久しぶりに味わった「究極の選択」だったのだが、どうやら選択ミスだったようだ。山はやっぱりゆっくりのんびりが原則である。