2009年8月2日(日)~8月4日(火) |
5時にわさび平小屋を出発する。林道をしばらく歩き、開けた場所に出ると小池新道の石畳道が始まる。 秩父沢に架けられた橋を渡る。さらにその先で、もうひとつの小沢を越す。雲ひとつない快晴である。頭の上には青い空しかない。太陽はまだ山の反対側にあり、爽やかで涼しい登山道だ。 そういえば思い出したが、この小池新道は、道中ずっと眺めが開けていることから、時間によっては直射日光をもろに受けてつらい歩きを強いられる。双六からの下山路とした場合は、時間的に間違いなく日が高くなっているので、決まって日照り地獄の道と化し、体力をひどく消耗するのである。 しかし今日は、イタドリヶ原・シシウドヶ原と登っていく間、まったく直射日光を浴びることがない。鏡平への登りも、うまい具合に太陽が右手の小ピークの陰に隠れてくれるのだ。ただ爽やかな風と青空に恵まれた登路である。
出発の時間が早いとこういうメリットがあるのだ。もちろん、前日にわさび平小屋まで入っていたことも有利に働いている。 水の消費も少なくて済む、シシウドヶ原の最上部にも小沢が2つほどあり、ここで水を補給できる。 正面には穂高連峰が壁のように高いが、遠くに見える乗鞍岳、そしてその手前、煙のたなびかせている焼岳も目を引く。この道で焼岳の噴煙をみたのは初めてだ。 クルマユリやシモツケソウ、カラマツソウを見ながら気持ちよく高度を上げていき、鏡平に着く。槍ヶ岳・穂高連峰が鏡池に投影した姿とともに、ダブルで出迎えてくれた。 水はまだあるが、小屋の売店でコーラを買う。小屋の屋根の上でスタッフが布団干しに精を出していた。この青空の下、作業もはかどりそうだ。おそらく今日は、久しぶりの布団干し日和なのだろう。 鏡平からは急登となる。弓折中段までくると、ダケカンバなどの低潅木に混ざってハイマツも見られるようになる。背後の眺めがどんどんよくなる。 上りついたところが弓折分岐(弓折鞍部)である。ハクサンイチゲやシナノキンバイが至るところで群落を作っていた。そして目の前の槍、穂高の大パノラマは言うまでもない。いろいろドタバタしたが、どうにか今年もこの楽園にやってくることが出来た。
まだ9時前である。ここはちょっと道草で、弓折岳の山頂まで往復しよう。以前、笠ヶ岳からの縦走の際に登っていたのだが、あのときは雷雨の中、立ち止まることなく通過しただけだった。 雪田やハイマツ帯を見ながら緩やかに登っていくと、クゥ、クゥという鳴き声が聞こえた。どこかに雷鳥がいる。あたりを見渡すとハイマツの中を2羽のヒナがチョコチョコと歩いていた。これは幸先がいい。 少し離れたところで、親が心配そうに見守っている。 弓折岳(2588m)のピークは、およそ山頂とは気づかないような平たいところだったが、四方の眺めは広い。槍・穂高はもちろん、すでに雲を被り始めた笠ヶ岳に向かって、稜線が気持ちよく伸びている。 双六岳、三俣蓮華岳、そして飛騨側は雲海が形成されていた。 弓折鞍部に戻り、双六小屋を目指す。このへんから、もう高山植物のオンパレード。ハクサンチドリが群落を作り、チングルマ、ニッコウキスゲ、ヨツバシオガマ、ミヤマキンポウゲ、コイワカガミ、ハクサンフウロ、アオノツガザクラやキバナシャクナゲも。 そして今年はコバイケイソウの当たり年のようだ。この花が多いとお花畑がボリューム感を持って眺められる。花見平に着くとハクサンイチゲ、シナノキンバイ、コバイケイソウ、3者が競うように咲き乱れていた。 進む方向に白い鷲羽岳、そして双六小屋の赤い屋根が。すぐに着いてしまいそうだがここからは意外と距離があり、いくつかの細かなアップダウンをこなしていく。 双六小屋は一昨年の思い出の場所である。テント生活中に尿路結石に見舞われ、小屋に併設されている診療所に一晩お世話になったのだ。 また、5年前の笠ヶ岳からの縦走のときも、テントで就寝中に雷と暴風雨に襲われ、四肢をふんばってテントを守った。 今日、懲りずにまたここに来たのは、個人的なリベンジの意味もあるのだが、素直にここが気に入っているのだ。広々として開放的な雰囲気に満ち、テントを張るには最高の場所である。 |