2007年8月5日(日)~8月7日(火) |
まずは隣りの鹿島槍北峰に向かって吊尾根を下る。 ここから鞍部への下りで、早速ある程度の緊張感を感じる。ここから先の難所に比べればどうということはないのだが、今までの道が穏やか過ぎたので、感覚がついていかない。鹿島槍南峰を境にして登山道は雰囲気がガラッと変わるのである。 ハクサンイチゲが咲いていたと他の登山者の声が聞こえたが、見ずに先を急ぐ。 若干登り返して、八峰キレットへの分岐となる。北峰に立ち寄っていこうか迷ったが、この先の長い行程を考えてパスすることにした。 緩い下りの山腹トラバース道で始まり、徐々にガレ場、急登急下降の岩尾根の連続となる。 梯子や鎖も随所に出てくるが、足が届かないような場所はない。女性や背の低い人は大変かもしれない。しかし久しぶりに四肢を大いに駆使しての登山である。
いったん斜度は緩やかになるが、再びこれでもか状態の岩尾根となる。目指す五竜岳の姿はまだまだ遠い。いや、高度を落とすにしたがって本当に遠くなっているように見える。 岩尾根を無我夢中で上り下りしていると、足場が幅30センチの鉄プレートだけのトラバース道に出た。プレートの下に地面はない。鎖につかまりながらヒヤヒヤもので通過する。 続けて高くそそり立つ岩壁を縫うように梯子を上り下りする。岩の背が高いために日が差し込まず暗いのが不気味だ。このへんを八峰キレットと呼ぶらしい。 やがて眼下にキレット小屋の屋根が見えてくる。こんなところによく小屋を建てたものだ。資材はどうやって運んだのだろう。 もっとも南北を高い岩峰で囲まれているため、強い風もそう吹かずに、自然条件は意外と穏やかなのかもしれない。 冷池山荘で隣りに寝ていた人も、単独でこのキレット縦走をしていた。小屋の前で話し込む。10年前に一度縦走したそうだが、道の整備のされ具合は以前とそう違わないという。 歩く前の印象では、鹿島槍~キレット小屋間は岩尾根の登降技術、そこから先は体力勝負の登りと捉えていた。しかしこの先の行程のほうがむしろヤセ尾根、鎖梯子、ガレザレの通過と岩稜オンパレードだ。 口の沢のコル~北尾根の頭(2560m)付近は穏やかな道で、剱や立山の展望も素晴らしい。しかしその先に見上げるようにある岩峰が鋭い。これらの岩峰はG5、G4と呼ばれており五竜岳までの登路の核心部である。なお五竜岳はG3である。 このあたりで多くの登山者と行き交うようになるが、この時間だと皆キレット小屋泊まりであろう。
ピークを一つ越えるたびにふっと息を抜いてしまうと緊張感が途切れてしまいあまりよくない。常に足元そして頭上に注意を払いながらの行程が続く。 それにしても槍ヶ岳の大キレットや剱岳などは、ここよりさらにワンランク半ほども難しいとのことだ。そんなところを歩く人の気が知れないのである。 G5、G4を越え、難所はとりあえず終わったようだ。目の前に控えるピークはついに五竜岳だけになる。体力はもう限界近く来ているが、この登りをこなせばと思い気合が入る。 しかしこの五竜岳の登りも長く、岩ガラガラの道である。空もそろそろガスで覆い尽くされてきた。指導標の立つ分岐を左に進み、6年ぶりに五竜岳(2814m)の頂を踏む。 北アルプス初のテント泊縦走は、6年前の白馬~唐松~五竜岳だった。そのときとようやく線がつながり、昨年の白馬~朝日などと合わせると北ア主稜線では蓮華・針ノ木岳~烏帽子岳の間を残すのみとなった。 なお、キレット小屋から五竜岳の間は、休憩時間を除いて3時間45分かかった。直線距離にして3kmそこそこのこの部分は標準コースタイムが4時間。歩く前は本当にそんなにかかるのかと疑心暗鬼だったが、実際それに近いだけかかったから驚きである。もしテントを背負っていたら歩き通せただろうか、疑問である。 五竜岳頂上で踏破の余韻にひたり、五竜山荘に下るとする。ここの下りも気が抜けない岩場の道だ。五竜山荘から登ってきたが途中で引き返した人もいたようである。 ガスの中を下りきったところで再び雷鳥を見た。今度はつがいである。 五竜山荘は混雑していた。「今日は1畳に1.5人~2人の割り当てとなります」との貼り紙。実際はそこまでいかなかったようだが、この小屋はスペースが少なくザックはみんな廊下に置いているため移動が大変。小屋の中は人の数以上にごみごみした印象を受ける。 瀟洒なイメージの冷池山荘とは違う、昔ながらの造りの小屋という感じがする。でもこういう雰囲気も悪くはない。 3時ごろから夕方にかけて雨降りとなった。今日歩いた岩尾根は雨に濡れるとやっかいである。晴れているうちに縦走できてよかったと思う。充実感に浸りながら床についた。 |