~夏空に映える白砂の稜線~
|
●ハイマツと白砂が織り成す大展望の稜線 朝4時に起き、布団をしまう。表に出ると満天の星空。いやに明るい星が東の方向に見える。今接近中の火星だったのだろうか。 稜線へは地蔵岳への直接コースもあるが、観音岳への道を登る。まだ暗いのでヘッドランプを着ける。
水場に下り急斜面の山腹に取り付く。日の出るまで待ってもよかったが、どうにか道を見つけられた。コメツガの鬱蒼と茂る急斜面は、寝ぼけていた体もびっくりしてしゃんとなる。ひとつのショック療法である。 やがてダケカンバが現れ頭上が明るくなる。樹林の切れたところで、雲海の上にご来光を迎える。 なおも急斜面を登り、風の強い稜線に飛び出す。 観音岳側の賽の河原で、あたりは一面の白砂。ハイマツとシャクナゲ、低潅木の高山帯である。 稜線を進む道を分け、再び樹林帯の巻き道に入る。ハイマツの木の根がはびこる斜面を上がり、観音岳手前の分岐に出る。正面に富士山がとてつもなく大きい。 富士山を山の上で見るのは、3月の権現山(中央線沿線)以来だ。こんなにしょっちゅう東京近郊の山に入っているのに、よほど今年は天候不順なのだということだろう。
富士山の大きさは、周囲に大きさを比べられる対象物があるかどうかでずいぶん違って見える。ここの樹林帯から上がって最初に見た富士山は、今までに見たどの時よりも大きく、感動するものだった。 数分で観音岳頂上(2840m)。すばらしい展望だ。周りは山ばかり。地蔵岳から早川尾根を経て浅夜峰、甲斐駒・鋸と仙丈、白根三山、塩見岳、薬師岳の向こうに富士山。そして下界は一面の雲海、丹沢や奥秩父の山並みが浮かんでいる。 真後ろに八ヶ岳が意外な姿で鎮座している。遠くには北・中央アルプスも壁になって存在感を示している。相性がいいのだろう、南アルプスに来るといつもいい展望に恵まれる。 薬師岳までは距離は短いが、まさに雲上の散歩道である。自然が作った庭園風の稜線を進む。 薬師岳(2780m)の頂上は2峰に分かれていて、両方で少しずつ休憩する。富士山も素晴らしいが、ここからはやはり白根三山(北岳・間ノ岳・農鳥岳)の眺めが圧倒的だ。 今日はここでUターンし、再び観音岳を経て地蔵岳に向かう。観音岳からは、今度は展望満点の尾根通しの道を進む。 風が強く、左側が切れ落ちていて気味悪い所もある。白砂の稜線には花の種類は少ないが、岩影を中心にタカネビランジが至る所で見られる。そしてヒメシャジン。さらにホウオウシャジンのような花もひとつ見つけたが、これは現像してみないとわからない。 樹林帯に入り、いったんかなり下る。赤抜ノ頭へはけっこうな登り返しとなる。 日も高くなり、夏山らしいギラギラした陽射しを久しぶりに味わう。今年は、燕~常念縦走の時も飯豊の時もやはり、陽射しは夏のそれではなかった。ようやく疑いのない夏山に登ることが出来たようである。
|