今年の夏山メインは軽めに、2泊で北アルプス針ノ木岳とした。
一昨年の立山~薬師、昨年の読売新道に引き続いての南北縦走である。日本三大雪渓のひとつである針ノ木雪渓を初めて登る。
針ノ木雪渓
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歩くのは比較的狭いエリアで、まだ歩いていないルートつぶし的に考えていたが実際歩いてみるとなかなか個性的なコースであり、眺めもいい。
とりわけ針ノ木岳山頂からの眺望は素晴らしい。北アルプスの中央に位置しているため、剱・立山はもちろん、槍穂高や裏銀座、白馬など北アルプスの峰という峰がほとんど見渡せてしまう。360度パノラマが当たり前の北アルプスの峰々の中でもベスト5に入るのではないか。
歩く距離はそう長くはないが、針ノ木雪渓や種池のお花畑など、北アルプスの魅力的なポイントが程よく詰まったいいコースである。にもかかわらず、槍穂高や白馬のような喧騒はなく、比較的静かな山行が楽しめる。
針ノ木岳周辺はガレや砂礫の地が多くて、コマクサが見られるものの高山植物は種類、数ともそう多くはない。花を見るなら縦走して新越や種池まで足を伸ばしたほうがいいだろう。
天候が安定せず、7月31日に休暇に入ってからも、天気予報とにらめっこしながら出発のタイミングをうかがう。結局休暇ギリギリの、金曜から日曜までとなってしまった。
出発は前日夜。ムーンライト信州が、平日便はちょうどこの日からの運行で運よく指定券が取れた。久しぶりの夜行列車だ。座席が狭いのが難点だが、北アルプスのアクセスとしてはやはりこれが一番効率的かつ低料金なのでいい。
信濃大町駅から扇沢行きバスに乗る。駅でsanpoさんと偶然会う。立山から薬師岳へ縦走するそうだ。自分も一昨年歩いている。今回歩く針ノ木岳の稜線は、その立山~薬師の尾根筋と平行して伸びていて、直線距離で7キロ程度しか離れていない。いずれも道中アップダウンの多いタフな道ということは共通している。
扇沢駅の前でsanpoさんと別れ、建物の左側にある針ノ木岳への登山道入口に向かう。登山計画書を記入し、平坦な樹林帯に入る。車道を何度か横断し、少しずつ高度を上げていく。
水の流れる大きな音が周囲に響き、少しひんやりする。すでに雪渓が近いのを感じる。登山道も沢状になっている所があった。
ヘリポートのある場所に登山口の表示があった。河原に出てブナ林に入る。緑豊かな森だが周囲はガスがかかり見通しはよくない。今日のところは晴れの山登りは期待できないみだいだ。
ガスの中から針ノ木雪渓と思われる残雪の斜面が浮かび上がる。大沢小屋に到着する。管理人さんと顔を合わせるとすぐに、「今日はどこまで?」と聞かれた。針ノ木峠でテント、と答える。小屋の前で少し休んでいるうちに小雨が落ちてきたので、中に入って少し様子を見ることにした。今日は時間は十分にある。
大沢小屋はコーヒーがおいしいということなので注文する。小屋番さんは、今日の天気はよくないが、昨日までよりはずっとましだと言う。
大沢小屋から先も緩やかな森の道が続く。樹間から覗く雪渓がだんだん近づいてきた。足元の悪いガレ場を通過して雪渓の縁に下りる。いよいよ針ノ木雪渓の登りである。
見上げられる範囲ではそう急なところはなさそうで、よほどの初心者でない限りは転倒滑落ということはなさそうだ。けれどせっかく持ってきたので軽アイゼンを着けて歩き出す。なお軽アイゼンは、大沢小屋で借りて針ノ木小屋で返却することもできる。
ミニ鯉のぼりのついた旗を目印に、雪渓のほぼ中央を進む。青空はないが、しだいに周囲の眺めが開けてきた。背後から日差しも受ける。急登のない雪上の斜面は汗もかくこともなく、快適だ。しかしそれなりに距離はあるので、じっくりとペースを守って歩く。
「ノド」を過ぎると上部に針ノ木峠と思われる稜線が見えてきた。進路をやや左に寄り、大岩の基部で雪渓から下りる。ここからは夏道を登っていく。雪渓はこの上も続いているが傾斜は急になるので、夏道の出ていない初夏はけっこうきつそうである。
大岩からの夏道は急登で、ところどころで沢をまたいだりでかなりきつい。キヌガサソウの群落があった。「花の百名山」ビデオで、針ノ木岳はキヌガサソウの山として紹介されている。
雪渓を横断してジグザグの急な登りとなる。チングルマやコイワカガミが咲くが、見えていた峠の稜線はなかなか近づかない。
傾斜が緩くなってようやく小屋の建つ針ノ木峠に着いた。最後は少しばててしまった。ここの登りは、雪渓よりもむしろその後の夏道の登高に体力を要した。
ともあれ、針ノ木峠である。小屋周辺は狭いがテント場は段々になっていて眺めのいい所だった。細かい霧雨が時折り落ちてくる中、1年ぶりのテント設営する。前日に少し腰を痛めた影響もあり、テントで少し休みたかったのだが、空を見上げると蓮華岳の方角に端正な三角形の山が見えていた。あれは蓮華岳だろうか。
明日は針ノ木岳から縦走なので、やはり予定通り今日は蓮華岳を往復する。
小屋で水を買い、軽身で出発。残念ながらまだガスが濃く、南面の展望はない。砂礫地に出るとコマクサが咲いていた。しかし時期はやや盛りを過ぎており、思ったほど花は多くない。
眺めはないが伸びやかな稜線を進む。さっき見上げたのはやはり蓮華岳ではなく、その手前のピークだった。稜線を登り下りしていると前方に大きな三角形が見えてきた。なかなか高い。それを登って祠のある場所。蓮華岳山頂はそのすぐ先だった。端正でたおやかなイメージの稜線は、山頂から先、東側にずっと伸びていた。
長野県の大町市方面は晴れていて、市街地が見下ろせるがその他は雲が多くなかなか見通しがよくなってはくれない。北側の爺ヶ岳も雲を被っている。それでも粘っているうちに、足元から視界が利き始め、ある程度遠くの山稜まで見通せるようになってきた。丸っこいピークは餓鬼岳であろうか。
場所を移し、祠の立つ場所で休憩するがやはりガスは抜けきらない。それでも歩いてきた針ノ木峠方面の明るい白色の斜面がよく見えるようになった。コマクサを見ながら針ノ木峠へ戻る。
南側の眺めがよくなってきた。すぐ近くの船窪岳の尖がった三角形がよく見える。その奥の北アの重鎮の展望は、明日の天気に期待することにしよう。夕方からかなり冷え込んだのでフリースを着てシュラフに入る。
夜半、ベンチレーターから外を覗くと、満天の星空だった。