天候はいったん回復してはいるが、中期的には下り坂であることは明らか。
山荘の人に聞くと、台風は低気圧に変わったが、今晩から明日にかけこの一帯に影響を及ぼしそうとのこと、慎重に言葉を選んで説明してくれた。
ここでテント泊するのが当初の予定だったが、天気のいい今のうちに双六までは行ってしまうことは決めた。ただ、テントがここまで体力的にしんどくなってきているのと、明日の天気予報を考え、鏡平まで頑張って小屋泊することも視野に入れる。

鷲羽岳をバックに、雪渓を横断して三俣蓮華岳へ
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山荘の前では、従業員か誰かの子供(3歳くらい?の男女)が元気よく走り回っていて、休憩する人たちのアイドルになっていた。
腰を上げて再び歩き出す。三俣蓮華岳と巻き道との分岐点である三俣峠へはちょっとした登りになるが、雪がまだ残っていて、この部分では初めて残雪を踏むことになった。同じ方向に行く人に話を聞くと、結構鏡平まで行く人が多い。やはり翌日の天候が気になるようだ。
稜線に雲がまとわりつくようになり、さっきまでの爽やかな夏山の姿はない。どうしようか迷ったが、今回はあまり山頂に登っていないので、三俣蓮華岳は登ることにした。
三俣蓮華岳から丸山にかけての残雪の斜面は、シナノキンバイの群落が見られるところだが、今回は思ったほどの花つきではない。やはり最初に見た15年前の大群落が残像にあって、どうしてもそれと比べてしまう。
ガレ場を登って三俣蓮華岳の山頂に着く。どうにか鷲羽岳、水晶岳を眺めることはできたが、黒部五郎岳、双六岳や槍穂高はすでに雲の中だった。さっきの祖父岳といい、今回は無理に山頂に立たず、巻道歩きに徹したほうがいいかもしれない。
丸山への稜線もガスの中で肌寒いくらいだ。猛暑続きの下界と、30度くらい気温差がありそうだ。花は多く、ウサギギクやタカネヤハズハハコがこの辺りではよく見る。
双六岳へは行かず中道を下る。この付近も百花繚乱。水場を経て、双六岳直下の登山道と合流するまでの登り返しは、毎度のことながらつらい。上を見ると青空が出ていて、双六岳を巻いてしまったことが惜しく思えてきた。
ハイマツの中を急降下で双六小屋へ。膝にサポーターをつけた人がつらそうにしていた。三俣峠からここまで、稜線よりも巻き道を歩くほうが楽そうに思えるが、実際は急な登り返しもあって労力はさほど変わらないのだ。
双六小屋で双六ラーメンを注文する。体力的にはもういっぱいいっぱい。まだここに泊まると決めたわけでもないのにビールも買ってしまった。しかしまともなものを2日ぶりに腹に入れたせいか、急速に元気が戻ってきた。ビールのせいもあるかもしれないが、、。
やはり今日のうちに鏡平まで頑張ることにする。テント設営する人たちを横目に、双六池から再び登り返す。完全にガスってしまった中、今回最後の急登はつらいが、残雪の脇にクロユリを見れた。それに、登ってくる人の多いこと。
花見平で居合わせた人によると、下界の気温は何と39度だそうだ。この富山から飛騨の山域では、某元国営電話会社以外の携帯はほぼ圏外になってしまうので、ここまでほとんどネットにアクセスしていなかった。三俣蓮華岳の山頂でかすかにつながったくらいだ。台風などの気象情報は山小屋から得たものである。
弓折分岐に下りるとようやく、山頂以外でも電波が届くようになった。長野県側に面した稜線になると比較的状況はよくなる。この傾向はここ数年変わっていないような気がする。
百花繚乱のお花畑もここでお別れとなる。短いようで長い山荘までの道をひたすら下り、ようやく今日の終点、鏡平山荘に到着した。自炊素泊まりで申し込む。
それほど混んではおらず、一人につき2つ分の連続スペースが割り当てられた。2つと言っても一畳分のみである。
天候を理由に3泊目のテントを諦めたのだが、やはり歳のせいか、何泊もテント生活をするのがしんどく感じ始めてきた。今回はやはり、雲ノ平への登りのダメージが後々まで残っていたようだ。
山荘の前で食事していると、歓声が上がった。今まで雲の中だった槍ヶ岳が姿を現したのだった。反対側には弓折岳の稜線も大きく望めるようになった。
これから本当に天気が崩れるのだろうか。山の天気は意外性の宝庫であり、もしかしたら明日は何事もなかったかのようにカラッと晴れるかもしれない。
夜半、雨の音で目が覚める。予報通りだった。
山荘の宿泊客の大半はこれから登る人ばかりで、重い足取りで皆出発していった。
6時を過ぎると小降りになったので自分も出発する。もちろん昨日のような槍の姿はなく、雨具を着ての黙々の行動となる。そのうちほとんど霧雨程度になったので、雨具を脱ぐが、それだとやはり体は濡れてしまう。服装選びには一番迷う降り方である。
結局3度ほど脱いだり着たりを繰り返すはめに。雨のせいか秩父沢は水量がとても多かった。
ガスの濃い中、小池新道登山口に下り立つ。付近は残雪がまだ多く、林道が一部通れなくなっており、沢に降りたところに迂回路がつけられていた。何回も通った道も、そのたびごとに変化があり新しい発見がある。
わさび平小屋でトマト、きゅうりをたいらげ、バナナを片手に再び歩き出す。
ゴールの新穂高温泉まで1時間、歩くにつれ青空が見えるようになる。中崎山荘でお湯につかって外に出たら汗が吹き出した。また昨日までの暑い夏がやってきだようだ。
特急バスで松本駅、久しぶりに乗るあずさで帰京する。