●予定変更して蓮華温泉へ
8/4(月)
夜半トイレに立った時、濃密なガスと不思議なくらいの暖かさに違和感を覚えた。朝、起きてみると雨と風だった。
祖母谷ルートは天気のいいことを必須条件としていた。あまりピーカンだと標高を下げたときに暑くて困るので、若干雲が出ているくらいを理想としていたのだが、そんな都合のいい想定を根底から崩す悪天。
それでも直前まで迷ったが、やはりここは祖母谷ルートを諦めるほうがいいという結論に至る。

雨が上がり、白馬大池がガスの中から浮かび上がる
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どのルートで下山するか、これも迷った。往復となってしまう鑓温泉コースは論外として、大雪渓か白馬大池かとなる。時間が早いのは大雪渓。しかしこの何も見えないガスの中では、落石の危険を察知することが難しく、特に下りにはとりたくない。
距離は長いが白馬大池へ下ることにした。白馬岳を経由しなければならないが、前にも2度歩いているし安全を考えればこちらのほうがいい。
大池から先は栂池ではなく、蓮華温泉へ下山することも決める。祖母谷温泉の宿泊はかなわなかったが、温泉宿への下山ということでいい代案となる。
そうと決まれば、早めに行動開始である。雨降る中、タイミングを見計らってテントを撤収。フライシートを使用するようになってから、雨の中での撤収はたぶん初めてだ。
レインウェアを着て頂上宿舎を出発。白馬岳まで、時折り強まる風雨がうっとおしかったが歩けないほどではなく、白馬岳山頂。昨日にも増して濃密なガス。留まることなく先へ歩を進める。
晴れていれば爽快な岩尾根を緩く下って三国境。ここは晴れているときとガスとでは、特上にぎりとスーパーの特売パック寿司くらいの差がある。ガスの中から時々浮かび上がる人影は、色とりどりのレインウェアで一見華やかだ。それでも今日の登山者はやはり、みな寡黙である。
ミヤマアズマギクなどこのあたりも多くの高山植物が咲き揃っている。8年前の朝日岳への縦走を思い出す。
小蓮華山へはいくつもの小ピークを越えていく。ひとつひとつが大きくはないのだが、ガスで稜線全体が見通せないので、とりあえず目の前にあるひとつのピークを登ることに専念するしかない。
小蓮華山は新潟県の最高峰であり、頂上宿舎のあったあたりと標高も近いので、かなりの登り返しとなった。山頂到達時は雨も強まり、小憩の後先に進む。
さらにガスの道は続くが、標高を次第に下げていくにつれ、周囲の残雪を纏った山肌がおぼろげに浮かび上がってきた。正面にも白馬大池の伸びやかな台地と湖面が現れる。
歩き詰めでかなり疲れてきたが、ガスの晴れてくるのを励みに下る。日差しも戻ってきた。
白馬大池はチングルマやイワイチョウ、ハクサンコザクラがびっしりと咲き、眺めも利いて楽園のような場所だ。テントを張るにも最高である。
今から登り始める団体さんも多くいる。しかし白馬の稜線は相変わらず雲の中だ。ここ大池付近も、天気がよくなってきたと言うわけではなく、単に標高を下げてきたので雲の中から脱したということに過ぎない。
それにしても13年前は元気だった。ここ大池から白馬の稜線を越えて天狗山荘までテント装備で行ったのだから。
レインウェアをしまって、蓮華温泉への下山に入る。北アルプスの稜線も今年はこれで見納めか。すぐに石の多い樹林帯になる。
道は湿っていて一部歩きにくいところもある。大池でスパッツをつけて正解だった。8年前にここを登ったのだがあまり記憶がない。ただやはり新潟の山らしく、タフな道だった感触は残っている。
庭園風の天狗の庭まで来ると、上のほうと顔ぶれは違うが、ミヤマカラマツソウ、ヒメシャジン、アザミ、タカネナデシコといった多くの花が咲いていた。ミヤマムラサキも見ることができた。
このあたりは眺めもよく、雲間から雪倉岳の堂々とした姿や朝日岳も姿を表していた。あの向こうの清水岳も天候回復しているのかが気になる。
天狗の庭からは再び、樹林帯となる。ゴールは近いのだがやはり山が深い。
タマガワホトトギス(天狗の庭~蓮華温泉間)かなりの群落となっていた
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タマガワホトトギス |
白馬大池から2時間、ようやく蓮華温泉の建物が見えてきた
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ようやく建物が |
蓮華温泉ロッジ。4つの露天風呂へは少しだけ山を登ることになる
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蓮華温泉 |
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平岩駅 |
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「レンゲ温泉→」の指導標を見るとすぐに、赤い屋根の蓮華温泉が見下ろせた。しかしそこからまだ距離はある、つづれ下りの道を丹念に下る。気温も上がってきて北アルプスの風が懐かしくなる。
蓮華の森の標識を見てから、ソバナやタマガワホトトギスの群落まで見て、ようやく蓮華温泉の露天風呂への道が分かれる地点にまで到達。
そこから5分ほどで蓮華温泉の裏手に出た。天気に振り回された3日間もフィナーレである。
ひと風呂浴びてバスで下山しても、その日のうちに東京に帰れる時間だったが、せっかくなので泊まって帰ることにした。結局、下山地の温泉の名前が変わっただけである(富山と新潟の違いはあるが)。
蓮華温泉は8年前にも泊まっている。下山時にいっしょだった人と共に露天風呂巡りをして1日を過ごした。仙気の湯、薬師の湯、黄金湯の3つ入ったが、どれも泉質や色が違っていて面白い温泉である。白馬を下山してきた身にはうれしいご褒美のお湯だ。
湯上りの酒もいつも以上に回ってしまい。ほろ酔い気分を通り越してふらふらになり、死んだように眠る。
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4日目。今日も北アルプスは今ひとつの空模様。下界の天気はよさそうだ。蓮華温泉から一番のバスで下るのみである。
雨飾山や駒ヶ岳など、緑濃い新潟の山を見ながら終点の平岩駅に下り立つ。糸魚川駅から日本海回りで上越新幹線経由で帰るほうが早いのだが、費用がかかる。大糸線に乗り、北アルプスに寄り添いながら帰ることにした。
「じおまる」のキャラクターがかわいい一両編成の大糸線はのんびり各駅停車の鈍行だ。南小谷駅で2両編成に乗り換えるが、各停なのは変わらない。2時間かけて松本駅。特急あずさ号に乗り込み、北アルプスに別れを告げる。
蓮華温泉から合計7時間をかけての帰京となった。