北海道山行から1週間も経っていないが、この週末も天気が良さそうだ。金曜日も休みにしたので、4連休の中2日を使って出かけることにした。テントは背負う気になれず、日帰りの山を二つ登る。
奥志賀山から望む、北志賀の山並みと大沼池。岩菅山の山頂部も覗く
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志賀高原の山は岩菅山、笠ヶ岳と登っていて、残るは志賀山である。志賀山はこれも未踏の横手山と繋げて歩くことができる。
日本最高所の国道である292号(志賀草津道路)の渋峠の手前に「のぞき」という展望所があり、横手山ドライブインの駐車場が利用できる。ここからだと最初の横手山山頂までの標高差200mあまりを頑張れば、あとは志賀山を経由してずっと下り傾向のハイキングコースとなる。ただそれだけではあっけない気もしたので、大沼池まで接続するルートを選んだ。なお下山地の大沼池入口からは、バスでのぞきに戻る予定である。
前日の夕方に家を出て、関越に入る。上信越自動車道は下仁田付近で車両火災があり通行止めだったため、途中から一般道に下りて松井田妙義ICから高速に入り直す。
横手山へは草津側から入れればいいのだが、白根山の火山活動の影響で、夜は国道が通行止めになる。そのため信州中野IC経由で長野側から上がることになる。何れにしても車で標高2100mまで登るわけだから、運転しがいがある。
真っ暗な中、のぞきバス停のある横手山ドライブインに着く。他に先着車が一台。運転手が出てきて、暗くてトイレがどこにあるのかわからない、と言う。周りに公衆トイレはなく、ドライブインも閉まっていてどうしようもない。高速道路のPAや道の駅で車中泊するのとはやはり勝手が違う。
それにしても夜中の標高2100mはさすがに寒い。しっかりとシュラフにくるまって就寝する。
翌朝、目覚まし用のアラームよりも寒さで目がさめる。外に出るとそこは絶景の展望台だった。いくつもの峰々が雲海に浮かび、北アルプスが壁のように鎮座している。これが見られれば、もう山に登らず帰ってしまってもいいかもしれない。そういうわけにはいかないが、それだけ胸のすく眺めが車横付けで得られてしまった。
横手山は正面の登山道を上がっていく。すぐ横にスカイレーターが伸びていて、これとリフトを利用すれば歩くことなく横手山に登れる。ただし営業時間は朝8時45分からのようだ。
登山道は急坂が続くが、良く整備されて歩きやすい。振り返るたびに、眼下のドライブインの建物が小さくなっていく。一旦樹林帯に入り、再び草地に出たところは、山頂ヒュッテやアンテナ施設のある山頂部だった。園地状になっており、ヤナギランがたくさん咲いているがまだ日陰である。
三角点のある山頂はどこだろうか。これがなかなか探し当てるのに時間を要した。通路が縦横無尽に敷かれており、「横手山」と書かれた案内板や標識も乱立している。あちこち歩き回っているうち、「横手山神社 三角点」との指導標を見つける。低潅木ハイマツの中を歩いていくと、今度は「山頂までまであと234歩」と書かれていた。
祠と三角点のある横手山山頂には、なぜかテントが一張り張られていた。南面は胸のすくような絶壁の展望地になっている。ドライブインからの眺めと角度的には変わらないが、高度感が違う。標高差200mの違いは大きい。ここにテントを張りたい気持ちは良くわかる。
ヒュッテ宿泊者はここまで車で上がってこれるのだから、撮影スポットとしてはうってつけだろう。山頂を後にすると、ヒュッテの宿泊者と思われる人が何人かやってきた。やはり三角点がどこか探したと言う。
ヒュッテまで戻って、四十八池方面を目指す。以前は尾根筋を直接行く道があったようだが、今はスキーゲレンデを下るようになっている。「横手山」の標識や案内板がいやに多いのは、ここがスキー場だからだろう。
ゲレンデは日当たりがよく、ヤナギランなアキノキリンソウ、タムラソウなどの高山植物が群落をなしている。展望もよく北アルプスや上信越の山がよく見渡せる。重そうな頭をもたげているような山は笠ヶ岳だ。一目見ればすぐそれとわかる個性的な山容で、文字通り志賀高原のランドマーク的存在である。
樹林帯に入り再びゲレンデに戻ると左手に道が分岐し、すぐ下に車道と駐車場が見えた。駐車場には何台か停まっており見覚えがあると思ったら、自分の車だった。横手山ドライブインから横手山を経由せず登ってくる道のようだ。
横手山から四十八池までは標高差400mを緩やかに下っていくが、登り返しもある。針葉樹の中の道はところどころぬかるんでいて、意外と歩きにくい。
硯川への道を左に分けると、鉢山への登りが始まる。これがけっこうきつい。鉢山山頂は樹林帯の中の通過地点のような場所で眺めはないが、下りもかなり急で、北方の山稜が望めた。あずまやの屋根が見えてくると、四十八池のほとりに出る。トイレと休憩用のベンチがあり、ハイカーが一人休憩していた。
四十八池の湿原帯に入ると、木道沿いにエゾリンドウやワレモコウ、イワショウブ、ウメバチソウなどの初秋の花が見られた。湿原自体はそう広いものではなく、前方に奥志賀山と志賀山を配置し、箱庭的な景観である。
まだ人も少なく、爽やかで気持ちのいい空気が流れていた。「爽やか」という言葉は秋の季語で、夏に北アルプスなどの高い山に登って快適に感じても、爽やかと表現するのは、厳密には間違いらしい。8月でも秋の花が咲き始めた四十八池は「爽やか」な場所だった。
十字路に出る。右にはあとで歩く予定の大沼池への道が分岐している。正面の志賀山神社の鳥居をくぐり奥志賀山への登りとなる。はじめのうちは穏やかな樹林帯の道だが、次第に急登となり、再び汗をかく。ロープにつかまるところもある。
今日のルートは最初の横手山の登りを終えれば後は下り主体で、登り返しもせいぜい標高差100mあまりなので楽勝に思えたが、予想以上に足を使わせてくれる。
頭上がやや開けてくると笹の稜線上となり、奥志賀山山頂への道が分岐していた。そこを緩やかに登ると次第に眺めがよくなり、右手の赤石山など北志賀の山並みがよく見えた。ベンチのあるところでは大沼池の青い湖面も見下ろせる。
赤石山へ続く尾根道は、志賀山と岩菅山、さらには野反湖周辺の山などと広く接続しており、縦走が可能だ。マイカー利用だと計画が難しいが、普段は別の山域としてとらえていたのが実はつながっていることを発見するのは楽しく、一度歩き通してみたい。
祠のある奥志賀山山頂までは一投足。祠のある山頂は樹林の中だが、さらに踏み跡は続いていて、再び展望のいい場所に出た。岩菅山とみられる高峰も姿を現し、眼下には大沼池が大きい。先ほどの展望ベンチに戻って少し休憩する。
稜線の分岐に戻って、次は志賀山である。地図上ではすぐ隣りのように見えるが、実際は下りと登り返しがあって、奥志賀山とは意外と距離感がある。日当たりのよい登りの斜面は小さなお花畑になっていた。
志賀山山頂は笹の中の切り開きだが、奥志賀山ほど眺めは広くない。横手山など南側のほうか開けている。
このあたりから登山者とよくすれちがうようになる。直射日光を避け、少し先の五葉の松で休憩する。ベンチが幾つか設置されていて、10名ほどがすでに休んでいた。
下りに入ると、こちらも岩混じりの急な坂がしばらく続いた。登山者がどんどん登ってくる。小さい子を連れた若い家族連れが多く、林間学校風のグループも来る。あまり山に登ったことがなく、荷物をもってもらって汗をかいて登ってくる人もいた。志賀高原に旅行に来て、ついでに山登りもしたいということだろう。
どうもこのルートは、自分とは逆の右回りで登る人が多いようだ。おそらく硯川の駐車場から登ってきたのだろう。
急坂が終わってしばらく行くと志賀山登山道の入口で、その硯川からの道と合流する。そちらには行かず左折し、四十八池の方向に進む。こちら側からだと緩やかな登りになる。
その四十八池までは、終始多くの家族連れで賑わっていた。今日は平日なのだが、お盆休みか夏休みでやってきている人が多そうだ。
再び四十八池を歩き、志賀山神社の十字路を今度は右へ。登山道は一転して静かになり、緩やかに高度を上げた後大沼池へ下っていく。
レストハウスの立つ大沼池のほとりに出ると、池を前景に奥志賀山などの緑の山稜が青空に映えていた。
ここまで来るとハイキング客以外にも、バス通りから林道と遊歩道を歩いてきた人がたくさんいる。お目当てはここ、大沼池の青さで、近くに寄ってみるとその青さが際立っている。大沼池の水は強い酸性で、魚が住めないためにきれいな青色が保たれているという。
先週の北海道でも美瑛の青い池を見ており、2週連続のエメラルドブルーである。
休憩ののち、湖畔脇の遊歩道に入りバス停に向かう。途中の高みから見下ろした大沼池は、まるで絵の具を溶かしたような鮮やかな青色だった。いや藍色といったほうが近いだろう。
林道に出てもまだ1時間近く歩く必要があるので、道端の花を見ながらのんびりと行く。アサギマダラが何羽もあたりを飛び交い、花に戯れている。アサギマダラはヨツバヒヨドリが特にお気に入りのようである。
お昼を過ぎても、大沼池へ向かう人とまだたくさんすれ違う。やがて舗装道路に出て、すぐ先に大沼池入口のバス停があった。
ここで歩き終えてもよかったのだが、次のバスまで時間がある。しかもここからだと、横手山ドライブインに戻るには蓮池でバスを乗り継ぐことになるのだ。大沼池からさらに、池巡りコースとして長池まで行けるようなので、この際もう少し歩くことにする。
「長池・信大教育園」と書かれた標識が立ち、山の中に木道が伸びているのでこれに入る。深い樹林帯で、暑い日差しが遮られてホッとする。しかしこちらからだと登り中心の道となり、また一汗かくことになった。いったん下りとなるも、今度はスキーゲレンデを登っていく道になって、さらに大汗をかいてしまう。
それでも距離は長くなく、ほどなく建物のある長池のほとりに下り立つ。信大自然教育園バス停はそこから数十mで着いた。渋峠行きバスはあと15分ほどで来る。バスを乗り継ぐ必要もなくなり、時間を有効に使えたので気分がいい。
横手山ドライブインのあるのぞきまで戻ると、朝の静かな風景から一転、観光客が大挙押し寄せていた。スカイレーターも動いていて、デパートのエスカレーターのように人の列ができていた。
車でもう一度、来た道を下る。前回の笠ヶ岳では、時間が早すぎて入れなかった硯川温泉のにごり湯に、今日こそは寄っていく。硫黄臭の強い緑色のお湯は期待通りだった。今度来た時は熊の湯にも入りたい。
再び横手山ドライブインに上がり、さらに渋峠をも通過して群馬側に入る。一転して霧が深くなった。火山活動の活発な草津白根山付近は、車を降りるどころか、駐停車もできず通過するのみ。窓を閉め切っていてもかなり強烈な臭いがした。マウンテンバイクの人が数人いたが大丈夫なのだろうか。固く扉が閉められた売店が物悲しい。
草津に下りるにつれ雲は薄くなる。その代わり今度は道路が渋滞だ。コンビニと道の駅で食料や水を調達し、明日登る四阿山に向かう。