季節は順調に秋に向かっているかと思いきや、この土曜日はまたしても30度を軽く超えそうだ。
度重なる大型台風の襲来で、日本の秋の風景は変わり果ててしまった感がある。久しぶりに奥多摩とでも思ったが暑そうなので、標高の高い八ヶ岳へ足を伸ばした。
紅葉したナナカマドと権現岳 [拡大]
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天女山登山口から三ツ頭は、数年前の夏に登っている。展望がほしいままの八ヶ岳の日帰りルートの中で一番のお勧めである。
紅葉時期の八ヶ岳は、今までほとんど登ったことがない。八ヶ岳は、登山の対象となる標高が針葉樹林やハイマツ帯であることが多く、紅葉があまり楽しめない印象がある。それでも今回登ってみることにした。
三ツ頭からは、体力的に余裕があれば権現岳まで往復する。
夜明け前に家を出て中央道を西進、長坂ICから県道を走り天女山登山口の駐車場に上がる。家から2時間半でここまで来れるのだから、アクセスがいい。駐車場にはすでに10台以上停まっていた。人気のコースである。
支度をして出発する。標高1500~1800mあたりまでは八ヶ岳らしい明るい樹林帯だ。ツタウルシなど色づいた木もけっこうあり、ドウダンツツジの葉は真っ赤になっていた。天ノ河原にはオヤマボクチがまだたくさん花をつけており、振り返ると富士山や南アルプスが余すところなく眺められた。
ミズナラやヤマハンノキ、ミツバツツジに囲まれた平たんな道が続く。しばらくすると視界が開け、カラマツ林のはるか上に三ツ頭の頂上部分がそびえていた。三ツ頭ルートは眺望がいい反面、急登が続く。あのてっぺんまで登るのは一苦労である。
再び樹林帯に入る。標高2000mの案内板を過ぎると、傾斜がどんどん増してくる。夏に登った杣添尾根と比べるとダケカンバやヤマハンノキなど広葉樹の割合が多く、全体的に明るい。杣添尾根はうっそうとした暗いシラビソ林がどこまでも続き、単調できつい登りに閉口したが、今思い出すとあれはあれで八ヶ岳らしい重厚な森だった。
足下を埋める笹は膝下くらいの丈がある。ササの種類もそろそろ見分けられないといけない。中部山岳でみられるササは、クマザサかスズタケのいずれかであることが多い。クマザサは「隈笹」とも書き、葉の縁が白く隈取りされていることが特徴だ。しかしここの笹は見る限り、隈がない。ならスズタケなのかと思うが、葉が若いころはクマザサもまだ隈取りがないこともあるという。標高を上げると白く隈のある葉が目立ってきた。
枝の節の部分がやや膨らんでおり、これもクマザサの特徴なので、クマザサと考えてよいだろう。
見覚えのある「ここが一番きつい」の標識。もう少しで前三ツ頭が見える、とあり、その通りで前方の眺めが開けたガレ場の斜面になった。富士山や南アルプス、中央アルプスが見えるがそれほど立ち止まらず、さらに先に進む。
樹林帯のきつい登りは続くが、木々の間を透かして、笹原の斜面越しに甲斐駒の雄姿が覗く。再び開けたところに出ると、前三ツ頭である。
富士山、南アルプス、中央アルプス、御嶽山。日本の名峰が勢ぞろいだが、進行方向には三ツ頭の巨体が頭をもたげ、肝心の八ヶ岳主峰はまだ見えない。その三ツ頭のピーク付近はダケカンバと思われる黄葉でかなり染まっていた。南八ヶ岳の紅葉も、高いところまでくればなかなか見どころがありそうだ。
さらに先に進む。木戸口公園からの道を合わせたあたりからハイマツ帯となり、編笠山が低い位置にあった。青年小屋はずっと下である。
少しの歩きで三ツ頭山頂となる。背後の眺めは前三ツ頭のときと比べてさほど変化はないが、前方には南八ヶ岳の主峰がズラリと並ぶ。権現、赤岳、阿弥陀岳。どれも秋色をしている。
遠くには御嶽の隣に乗鞍、そして北アルプスの槍、穂高がある。南・中央・北アが同じ視界の中に収まるという、ほかではあまり見られない眺めである。
久しぶりの標高差のある登山で、スタミナも尽きてきた。三ツ頭往復で済ます人もいないわけではない。
しかし目の前の権現岳の尖峰を見ると、やはりあそこまで行きたくなる。標高差あと200m程度、頑張ることにした。
いったん緩く下りダケカンバ林に入る。尖峰はもう目の上にあるが、近いようでまだ高度差はある。
コブを一つ越えるとハイマツと低木帯の中の最後の登りとなる。背後の展望がすばらしく、三ツ頭の後ろには富士山。奥秩父や佐久方面の山々も雲が取れ全貌を現した。
1か所だけ、垂直に近い岩場を鎖でよじ登る。その後は岩尾根を伝って、権現岳山頂の直下に出た。摩利支天のピークに上がると、岩の間に刀剣が横になっていた。以前来たときは岩に突き刺さるように立っていた。
赤岳ほかの眺望は言うまでもないが、岩の間に挟まれたピークはちょっと落ち着かない。キレットへの縦走路方面へ少し歩き、平坦なピークで休憩する。阿弥陀岳、横岳、そして硫黄岳、蓼科山も望むことができた。隣には東ギボシが大きい。
秋色の南八ヶ岳は、輝く緑色の山肌ではないが、夏には見られない落ち着いた風情を見せてくれている。
しかし、ここまで標高差1100m超、さすがに疲れた。以前はそんなこともなかったのだが、最近は中1週間空いてしまうとがくんと体力が落ち、次の登山のきつさが半端ではない。山歩きはやはり継続することが大切だ。
下山は来た道を下る。三ツ頭から木戸口公園方面に下り、天ノ河原へ戻ってくる周回コースもあるようだが、かなりの長丁場となる。
前三ツ頭からは急降下の道が続く。行けども行けども笹の茂った樹林帯の下りが続き、終わりが見えない。登りの時は花や樹木を見ながらだったにせよ、こんな長い急登道を、飽きもせずよく登ってきたと思う。
ようやく斜度がなくなり、再び周囲の植生を観察しながらの歩きとなる。花はヤマハハコ、アキノキリンソウやトリカブトの咲き残りを見るのみだ。ミズナラがたくさんのドングリをつけている。
傾斜がなくなり平坦道になって、なんだか気が抜けてしまった。足が思うように前に進まない。
時刻も3時を過ぎ、気持ち薄暗くなってきた。天女山の駐車場に戻る。一仕事終えた気分で、心身とも充実感がみなぎっている。やっぱり山はこれくらいのハードワークであっていい。
今年の夏山は軽いものばかりが続いたので、この秋は少し頑張ってみたいと思った。