~ブナ林と高山植物、展望の稜線漫歩~ かむろさん(1365m) 2003年5月30日(金)晴れ
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●残雪を越え展望と花の稜線へ アスレチックもどきで這い上がるように高度を稼ぐ。斜度のきつさよりも、倒木をまたぎくぐることに体力を浪費する。 やがて足元にイワカガミが多く見られるようになる。奥多摩でよく見かけるヒメイワカガミによく似ている。しかし葉が直径5cmくらいあり、これはオオイワカガミなのかもしれない。コイワカガミも登場し、シロバナのものも見かける。 そのうち、周囲の樹高が低くなり始める。明確な尾根に乗り、直登気味に登り詰める。尾根がやせ、岩場も現れる。いつのまにか背後に火打岳・小又山・天狗森と思われる、神室連峰の峰々が視界に捉えられるようになっている。どれも斜面に残雪をまとい、思わず気分が高揚する。神室山はもう少し奥まったところだろうか、もしかしたら見えているのかもしれない。
しかしこの直登道も長い。低くなりかけた樹高も、いっぺんに眺めの効くほどには萎縮して来ない。左側には木の間越しに、台山から派生した尾根がまだ高い。 何度か小休止ののち、ようやく前方に青空が見え始め、稜線に上り着く。権八小屋跡分岐で、蒲沢口からの登路が合わさる。 ここからは平坦、あるいは緩やかな登りの道がしばらく続くが、ほっとするのもつかの間、今度は残雪が相手となる。倒木はこのへんでもあり、加えて雪の重みで多くの潅木が横に伸び、行く手を阻んでいる。 残雪を50mほど進むが、道がどこに続いているのか判然としない。権八小屋跡より先は、指導標やテープなどは皆無である。雪の積もっているへりの部分を伝って歩き、出口をなめるように探す。このような残雪歩きが10箇所くらいある。 このあたりはまだ、雪が溶けたばかりのようで花も少ない。スミレやキクザキイチゲなどが見られるくらいだ。
雪は深い所では1mくらいある。緩んだ雪面をズボズボと踏み抜くようになる。スパッツを着け、やがてアイゼンも装着するが4本爪では文字通りまったく歯が立たずズルズルと滑り難儀する。本当にアイゼンの効きに頼ろうとするなら6本、もしくは8本を持つべきであろう。急斜面の登りではないのを幸いに、何とか4本で歩き通す。 残雪の道はしかし随所に雪解けの恵みの水が流れ、喉を潤せる。とても冷たく生き返る気がするが、お腹をこわすとまずいのでほどほどにしておく。 やがて四方が開け、前方に神室山の端正な三角形の山容が見え始める。山頂直下の赤い屋根の避難小屋も目立つ。神室山の手前に2,3の小ピークが並んでいるが、ここからは待ちに待った展望の稜線となる。 右方に神室連峰の姿がさらにはっきりと映し出される。風が強いが素晴らしい眺めだ。そして潅木・笹原の中に伸びる登山道、足元はまず濃紫のカタクリ群落で始まる。眺めに見とれているとつい踏んでしまいそうになるほど咲き乱れている。 さらに、鮮やかな紫色のムラサキヤシオ。昨年の会津朝日岳で焼き付いたあの色を、再び見ることが出来た。 加えて、潅木の中に隠れるようにシラネアオイが見え出した。今の季節、この山を飾る主役のひとつであろう。風が強くて花びらがヒラヒラし、うまく写真に撮れない。
●大展望の神室山頂上に立つ 展望のよい1150mピークを越し、次にツバメオモト。花も可憐だが葉の緑色も鮮やかだ。そういえばここのカタクリも、葉によくあるしみのような斑点がほとんど目立たない。 神室山直下へは、いったんかなり下る。すなわちここからが今日一番の急登となる。 急坂の途中で何度も休む。後ろを振り返ると富士山が。なんでこんな所から見えるのか?と思ったが、そう鳥海山だった。 さっきのピークから2時間近くかけて、ようやく避難小屋の前へ。小屋の中を観察する。広い室内には誰もいない。毛布が何枚もかけられており、この季節なら寝具として使えそうだ(実はシュラフを持って来なかった)。 強風でよろめきそうになりながら、さらに5分ほど登り詰め、ついに神室山頂上(1365m)に立つ。まるでエベレストに立ったような感動の一瞬だ。 何と言っても神室連峰の稜線に目が行く。前神室山へのパノラマコース、小又山~火打岳への縦走路など、斜面に残雪を蓄えて見事な眺めだ。縦走路は、次回是非踏破してみたい気にさせてくれる。 遠くは鳥海山、月山、蔵王、虎毛山、栗駒山、高松岳、麓の街並みとぐるり見渡せるが、やはり鳥海山の存在感は群を抜いている。8合目付近から下は雲海で見えなくなっており、まるで空に浮かんでいるようだ。 久しぶりに心底からわくわくするような頂に立てた気がする。
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