2日目の朝、暗いうちに外に出てみたら風強く、周囲の山は見えているものの安定度を欠いていた。明るくなったら一面のガス。もしかして展望を楽しめたのは今回、昨日の夕方一瞬だけとなるのか。
小屋で天候の回復を待つほど、今日は時間に余裕はない。頼母木山に向けて、ガスの中を出発する。
道の両側には朝露のついた笹が深く、両足ともすぐにずぶ濡れとなってしまう。
大石山付近の稜線から杁差岳を望む
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遠くに太陽の輪郭が見えた。ガスは案外薄そうだ。ゆるゆると下っていくうち、突然ガスが飛んで、小国町側が一面の雲海になっているのが見えた。
以後は昨日の夕方同様、どんどん眺めが利いてくる。鉾立峰に登り返す。今日は360度のパノラマとなった。杁差岳の山頂部に人が見える。やっぱりもう少し粘って、前杁差岳方面に行ってみたかった。
涼風渡る、伸びやかで快適な稜線は飯豊ならではのもの。昨日見えなかった二王子岳が大きく、高い。その後ろの山は五頭山だろうか。
大石山へは緩いがだらだらと長い登りとなる。空身ですれ違っていく人たちは、前夜頼母木小屋に泊まったのだろう。大石山に荷物を置き杁差岳を往復するようだ。頼母木小屋は昨日、ガラガラだったというがすれ違う人は意外と多かった。
日差しが届き始めたせいか、朝露で濡れた両足の乾きも早い。大石山に着くと、機械を持って笹の刈り払いを行っている人がいた。翌週の山開きに向けてのものだろう。
大石山からさらに稜線を行く。眺めのよい台地に頼母木小屋が建っているのが見える。頼母木山までは天気がよさそうで、その先の地神山はまだ雲の中だ。
こちらはヒメサユリの群落が大きく、何度も現れる。ゆったりした斜面を登って頼母木小屋に着く。避難小屋の杁差小屋と違い、こちらはシーズンになると管理人が常駐し、宿泊には協力金が必要となるようだ。その代わり小屋で飲み物が買えるようになるらしい。ただしシーズン前の現在(6月まで)は避難小屋と変わらず無料開放されている。
雪渓から水を引いてくるホースがあったが、今はまだ水は来ていない。
ザックを置いて頼母木山に向かう。登山道のすぐ下に雪渓があり、その縁にシラネアオイ、ショウジョウバカマ、チングルマなどが見られた。コバイケイソウも群落をなしている。
次のピークが山頂ではなく、もうひと登りする。今回初めてハイマツを見ると、その先の高まりが頼母木山だった。今回の最高点はここである。眺めは素晴らしく、杁差岳・鉾立峰・大石山のラインが緑鮮やか。眼下の雲海もダイナミックだ。
このさらに先の稜線は、依然としてガスの中のようだ、頼母木山の山頂部も風がかなり強いので、あまり休憩せずに下山する。
頼母木小屋に戻り、ホースの伸びている水場に行ってみることにする。小屋横の雪渓の上にまず降りて、ホースに沿って平坦な山腹道を歩く。この踏み跡は鉾立峰からも見えていた。
水場まではけっこうな距離がある。この下の雪渓から水を取るのではないようで、さらに奥に歩いていくと今度は斜面の上部に雪渓があり、その下部で豊富な雪解け水が滝状とあって落ちてきていた。小屋から片道10分以上はかかる水場だったが、イワイチョウ、ハクサンコザクラといった湿地帯でよく見かける花を見ることができたのでよしとしよう。
ザックを担いで大石山に戻る。休息の後、ここで稜線に別れを告げる。一泊だけの短い飯豊との再会だったが、他の山塊では味わえないスケールの大きな、深くていい山を堪能できた。
昨日歩いた足ノ松尾根だが、何しろ急なところが多いので、注意を怠ることなく、適度に休憩と取りながら場所によっては慎重に下る。シュラフ装備のザックを担いでこの尾根を1回登り下りすれば、夏山に向けての体もかなり出来上がりそうだ。
しかし標高を落とすと暑さはかなりのもので、途中の水場分岐で再度水を汲み直すことになった。
ペースを守って下るつもりが、途中で乗合タクシーの発車時刻の計算をし始めてしまう、いつもの悪い癖が出る。少し頑張れば1時の便に乗れそうだ。
姫子ノ峰から木の根の浮き出た急坂を下る。意外と早く尾根を下り切り1時5分前、足ノ松尾根登山口に無事下ることができた。
ところで乗合タクシーの運転手さんは杁差岳の呼び方を、「えぶり」ではなく「いぶり」と言っていた。ちょっと地元訛りはあるが、それでも「えぶり」ではなかった。地元ではいぶりのほうが一般的なのかもしれない。
杁とは農機具の一種で、春先にこの山に見える残雪の形が似ていることから名づけられたということである。
なお、杁の文字は、本来は「朳」(木へんに八)が正しいのだが、これはJIS 0208規格適用外の漢字なので、一般には「杁」で代用している。Unicodeという国際標準規格に準拠したWEBページであればこの文字は表示可能である。ただ、日本のWEBや携帯のアプリは未だにJIS 0208準拠のものが多いようで、表示されないことが多い。
このホームページもUnicodeで作成しているのだが、ブラウザの設定によっては別の文字セットに変換して表示しようとするので、このようなマイナーな文字が表示されないことがある。スマホは持っていないのでわからないが、「朳」の文字は見えているだろうか。
奥胎内ヒュッテを後にし、道の駅胎内で一浴してからレンタカーを返却。下界はまるで梅雨が明けたようなギラギラした陽気だった。
17時過ぎに新潟駅から帰りの新幹線に乗り込む。マイカーなら5時間プラス高速渋滞で帰りは夜中になってしまうところだが、8時前には東京駅に戻って来られた。