~鉱泉宿から雷鳴とどろく稜線へ~
タイトル

おおあさひだけ 2002.8.11.~12.

古寺鉱泉-小朝日岳-大朝日岳-
中ツル尾根-朝日鉱泉

マップ
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●雷雨とアブに疲労困憊、朝日鉱泉へ
翌朝、周囲はやはり一面のガス、食事をするころ大雨となった。
一刻も早くこの小屋を出たい。雨具を着け、5時に出発。大朝日岳山頂に向かう。しかし歩く先は何も見えない。まるで夕方のような空の色である。
大朝日小屋
大朝日小屋

3分ほど歩いたとき、雷光とともに雷鳴がとどろく。これはかなり近い。様子を見るつもりで、いったん小屋前に戻る。1週間ほど前、南アルプスで落雷による死者が出たばかり。雷にはいつも以上に恐怖感があった。
10分ほど待つと雨が小降りになり、雷もやむ。ガスが切れてY字雪渓が見える。これは天気が良くなるのかな?などと思い再出発する。

10分ほど登ると再度、雷光とほぼ同じくしてものすごい音が。どうやら昨日歩いた小朝日岳方面の稜線付近に落ちたようだ。頂上を目の前にして、足がすくんだ。
その場で迷ったあげく、しかしこれは強行突破しかないと思い、大朝日岳山頂(1870m)を走り抜けるように登った。相前後して10名ほどの人がいたが、生きた心地がしなかった。今思い出しても危険な行為だったと思う。

山頂では足を止めずそのまま中ツル尾根へ。かろうじて一番高い場所からは逃れたが、この稜線もハイマツ道で周囲に樹木がなく、危険なことには変わりない(もっとも樹木があったとしても、安全とは言えないが)。
滑り落ちるようにして下る。ともかく早く身を隠せるような樹木がある場所に下りたい一心であった。しかし、森林限界が思った以上に低く、しばらくはむき出しの稜線が続く。

やがて、意外にも雨・雷が弱まって来た。森林限界に行き着けないうちに、雲の中から脱したようである。
雨はやんだ。見上げると山頂部だけ、どす黒い雲で覆われている。
一気に展望が開ける。左には小朝日岳の山容を中心に昨日歩いた稜線、右に平岩山からの稜線。眼下には雲海、正面には、幾重にも連なる山並みが見渡せた。天気の悪いのはここ大朝日岳の、ほんの一角だけのようである。

一瞬の展望
一瞬の展望

雨があがったとたんに、アブなど小虫の攻撃を受ける。虫たちも雨上がりを待ちわびていたのだろうが、これはつらい洗礼である。しかし急に暑くなったこともあり、鞍部で雨具を脱ぎ虫除けスプレーを使う。
高度を下げ、森林限界に達する。さっきまで眼下に見えていた雲海の中に入る。再び霧の登山道となり、ブナの葉が新緑の時期のように瑞々しい。

長命水という水場に着く。「朝日鉱泉まで3時間」の立札を見る。まだそんなにあるのか、とうんざりする。
水場はここから30mほど下ったところにある。行ってみようとするが、まるで崖のようなところを下りて行く上に、雨で滑りやすくなっていたため途中で諦める。朝日川も近いのでこのまま頑張ることにする。

長命水からは大変に急な下りとなる。何人か登って来る人とすれ違うが、ここを登るのは、よほど足に自信のある人でなければ大変な行程に思う。
二股に下り着く。朝日川の河原に下り、ほっと一息つく。
軽く食事を作ろうとするが、虫がすごい。火をつけたコッヘルの中に飛び込んでくる。食べ物の入ったコッヘルを持って座っていようものなら、えらい攻撃に会う。立ち上がって、その辺を歩き回りながら急いで食べる。

朝日鉱泉まで1時間40分。先を急ぐ。しかし再び雨と雷。雨具をまた着て川沿いの道を進む。
二股から朝日鉱泉までは、地図上では平坦なように書かれているが、実際は、飛び石伝いに沢を渡ったり、高巻きの部分もあるなどアップダウンがけっこう激しい。
小雨になると蒸してくるので雨具を脱ぐ。止むと虫がやって来る。するとしばらくしてまた降ってくる。この繰り返しでほとほと疲れた。

前を歩いている人は、こんな天気でも、道端に生えているキノコを鑑賞しながらのんびりと歩いている。自分はもう心に余裕のかけらもない。早く山道を脱したい一心である。
吊橋を3度渡り、御影森山からの道を合わせる。と、またしても雨。今度の降りは半端でない。バケツをひっくり返したような雨である。もう雨具は全く役に立たない。パンツまでズブ濡れだ。
「朝日鉱泉まで500m」の標識。しかし何と長い500mであろうか。見えてきた建物は、悲しくなるくらい上のほうにある。ここまで来てまた登れというのか。
残ってない力を振り絞って、「朝日鉱泉ナチュラリストの家」の建物の前に着いたのは10時40分。急ぎ足のせいでえらく早い。

最後は一風呂を楽しみにしていたが、「入浴は午後から」の注意書き。
14時20分の登山バスの発車を待つ気持ちはさらさら無い。鉱泉の方に電話してもらい、タクシーを予約した。早く山から離れたかった。

左沢駅に着いたのが12時40分。電車は10分前に出たばかりで次は、何と16時1分。結局、朝日鉱泉から14時20分の登山バスで下りて来た人たちと同じ電車に乗ることになる。
3時間することがないので、蕎麦と食べ、駅前のスーパーで着替え用にズボンとシャツを買った。

昨日、今日と何をするにもついてなかった。どんな状況でも、山をそこそこ楽しめる深い心の余裕と準備、それが自分には欠けている。調子いいときはいいが、いったん糸が切れてしまうとどんどん悪い方向へ進んでしまう、それが今の自分の山行の実態なのだと思った。

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