翌朝も小屋の外のテーブルで朝食を作りつつ、ご来光を迎える。そして気持ちのよい青空が広がった。昨日の時点で未定だった中門岳(ちゅうもんだけ)への散策も全く問題ない。
小屋の前の池には、会津駒の山頂部が、青空と雲といっしょに映し出されている。空高くサッとはけで掃いたような巻雲はもう秋のものである。
木道を歩いて会津駒山頂を目指す。ほんの15分くらいの距離だ。イワイチョウ、アキノキリンソウ、シラネセンキュウ、オニアザミなど晩夏から初秋の花が咲き揃う。
駒ノ小屋からの下りにて、大津岐峠に至る稜線を眺める。正面には燧ヶ岳
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少しだけ急な登りを経て一等三角点のある会津駒ヶ岳に着く。小屋からも見えた標柱の周囲にはハイマツや低潅木が立ち、若干展望の妨げになっているが、燧ヶ岳を始め南側に広がる山並みを中心に眺めが得られた。
燧のすぐ後ろには上州武尊、その右には至仏山も。山頂に設置の展望板もある程度利用価値はある。
体調の関係で小屋に戻る一人を除いて、中門岳に向かう。会津駒より100mほど標高の低い中門岳ははっきりしたピークというものはなく、会津駒とはユルユルのたおやかな稜線で結ばれている。
広々とした湿原に出るとニッコウキスゲが見られた。咲き残りではなくまだ開花前のものもある。昨日の大雨で木道が濡れていて、下り勾配のルートは滑らないよう慎重さが要求される。
池塘の周囲が赤く染められたように見えるのは、食虫植物のモウセンゴケだ。この時期、下界の暑さを避けてトンボの大群がこの高所にやって来ている。モウセンゴケにとって恰好の餌になっているのだ。
ハクサンフウロやタテヤマリンドウ、モミジカラマツも見られ、夏の盛りを過ぎても花いっぱいだ。しかし会津駒の名花と言われるハクサンコザクラはさすがに終わっている。今これだけ花が見られるのだから、盛夏はすごいことだろう。
高層湿原の山は6月下旬から7月にかけての、まだ雪が少し残っているときに歩くのが一番いいのだが、その後も花は種類を変えて咲き継がれ、やがて草紅葉の見頃を迎えるので、登山シーズンは春から秋まで長い。
少し下って中門ノ池に着く。「中門岳」の山名標柱はここに立っていた。この付近一帯が中門岳だと、標柱に書かれている。眺めが開け、針葉樹と池塘に囲まれた広々とした草原である。
ここからさらに5分ほど歩いたところがこの付近の最高点で、木道がループして行き止まりとなっていた。木道のない踏み跡は続いていたが、基本的に通行禁止だろう。正面には懐かしい三岩岳が大きく、さらに遠くに雲海の中から壁のように立つ会津朝日岳も見えた。
駒ノ小屋への戻りは登り気味の行程となる。木道は大方乾いて安心して歩けるが、会津駒山頂部の巻き道に入ると、日陰のせいかまだ濡れていた。
駒ノ小屋に戻ってから、大津岐(おおつまた)峠へ向かうことにする。段差のある急坂を下り、初めのうちは痩せた岩尾根を伝うので、少しばかりのスリリングを味わう。
南東面は常に開け、会津や奥日光の山々がパノラマで眺められる。ここを富士見林道と呼ぶそうだが、れっきとした登山道である。燧ヶ岳を正面にして歩いていくうちに、やがて木道の敷かれた湿原になる。ツリガネニンジン、オニアザミ、エゾリンドウが多く見られる。
高度が少し下がったからではないだろうが、気温が上がり汗が吹き出す。道が北西側の樹林帯に入ったときに休憩する。日陰になると汗が引っ込みホッとする。
前方に見える小ピークを越えたあたりが大津岐峠か。思ったより早く着きそうだ。緩く登り返して広い台地に出たところが大津岐峠だった。高くて太い標柱が倒れている。
南に奥日光の山、正面に燧ヶ岳、来た方向には会津駒とビューポイントとして申し分のない峠だ。1日目に余裕があれば、こちらを登りにしてもいいかもしれない。空はいつの間にかあちこちで積乱雲が発達していた。しかし昨日に比べて湧き上がるタイミングが遅いので、行動中の天気はもってくれそうだ。
大杉岳への尾根道、こちらも大杉林道というそうだが、それを見送って、下山に入る。展望の稜線ともここでお別れだ。小さな池塘を過ぎて、エゾリンドウの多く咲く場所を通るとやがて樹林帯へ。始めのうちは急な下りだが、程なく斜度を失い歩きやすい道に変わる。
針葉樹からブナ帯に変わるタイミングが思ったより早い。昨日の登りでも、だいたい1600mから1700mくらいまでがブナ林だったので、今も同じ程度の標高だろう。林床にはキノコと、ツバメオモトの青く結実した実が多く見られる。歩きやすい平坦な道が続くが、なかなか高度を下げないのでじれったくもある。
ブナ以外の広葉樹が見られるようになるとようやくジグザグの急降下となる。蝉の声がどんどん大きくなる。どうやら今日は雷に会わずに済みそうだ。
左側から沢音が聞こえてきた。キリンテ沢と出合い、水で顔を洗う。冷たくて生き返る心地がした。そこから数分の歩きで車道が見えてくる。蕗の畑の横を通り、キリンテ登山口に到着した。
左に少し歩いて、昨日車を置かせてもらった食堂の前に着く。キリンテへの下山者はそう多くはないが、駒ノ小屋で一緒だった人がいて、ここにバス停のある路線バスで帰っていった。こちらは、車を置かせてもらった手前、ここの食堂で休憩する。裁ちそばとノンアルコールビールで打ち上げした。
滝沢登山口でもう1台の車を回収し、駒ノ湯で汗を流してから帰途に着く。舘岩地区の畑は蕎麦の花が満開だった。もう少しすると、新そばの収穫の秋を迎えることとなる。
8月最後の土日、世間では子供の宿題の追い込みで、お父さんお母さんはお出かけどころではないはず。高速の渋滞も激しくないと思っていたが、予想とはうらはらに帰路の東北道はあちこちで渋滞発生。会津を離れるといつもと変わらぬ行楽地の風景だった。