~幽玄なブナ林を持つ南会津の名峰~ 赤倉沢登山口-三吉ミチギ-叶の高手- 熊ノ平避難小屋-会津朝日岳 |
●朝日を浴びる朝日岳山頂へ 翌朝、3時過ぎからもう、気の早い野鳥達はさえずり始めている。 久しぶりに山の朝の精気を味わいに行こう。日の出前の4時過ぎに小屋を出る。山頂まで往復する。 急坂を登っている最中に日の出を迎える。ブナの木々や葉が赤みを帯びてくる。バイウチの高手を過ぎると、雪渓の登りになる。雪渓は山頂直下まで続いている。距離は300mくらいあるだろう。かなりの急傾斜である。 登るにつれ、背面に会津・越後の山々のパノラマが広がっていく。雪の切れ間にカタクリが咲いている。
雪渓を越え、頂稜部の岩の突端へ。このへんでは一番高い場所だが、朝日岳の三角点は少し西に下った所にある。 素晴らしい360度の展望。浅草岳、その向こうに守門岳、左に越後三山が静かに横たわっている。視線を南に転じれば、ここから尾根続きの丸山岳が残雪豊かな姿を見せ、足元に覗く深く切れ落ちた谷底は、まだ暗闇の中。 北方面には幾重にも連なる山並みの向こうに、遠く吾妻連峰、飯豊連峰が見渡せる。風のそよぐ音以外物音ひとつしない、まさに山の朝である。
下りはアイゼンを付けて慎重に雪渓を降りる。4本爪では少々頼りない。日も高く上がり暖かくなってきた。
行きに目を付けておいた花の写真を撮りながら下りて行く。登りとは逆に東方向に下りて行くので、明るい光の下で撮影出来る。写真を撮るのはピストンコースがいい。 山頂付近は残雪、雪解けの中腹は春の花、しかし麓に下りればやっぱり初夏の陽気である。登山口に下りたのが10時40分。下る3時間あまりの間に、いっぺんに季節が進む感じだ。1600m程度の山で、上と下でこんなにも気候の差が激しいのも東北の山ならではだろう。
登山口にはいわなの里という宿泊施設付きの釣り場があり、ビールを注文する。宿の人がおつまみを作ってくれた。麓にいながら、まだ朝日岳に登ったことがないと言う。ぜひ登って下さいと薦めた。 タクシーで今度は只見駅には戻らず、もよりのバス停前で降りる。 今回は温泉など寄り道せず(寄り道するとバスがなくなる)、バス・電車を乗り継ぎ東京へ戻ったのがそれでも19時過ぎになった。 アプローチの時間や交通費を考えると、しょっちゅう行ける山域ではない。しかし一度足を運ぶと忘れられなくなる。季節が進むと「あ、あそこは今どうなっているかな」とつい気になってしまう山である。東京周辺やアルプスの山々にはない人を惹き付ける力が、会津の山にはあると思う。 いつまでも、この純粋な原生の山を残して行きたいものである。 |