紅葉ラインは標高1000m付近まで下りてきた。ブナ黄葉がまだ見られることを期待して、丹沢方面へ足を運ぶ。
鳥ノ胸(とんのむね)山は4年前、道の駅どうしから直接登っている。今回は秋葉山からの登山道を歩いてみることにする。道志みちは、土曜日の朝は1本のみのバスが走っているのでこれを利用することが出来る。しかし今日はブナを求めて菰釣(こもつるし)山まで行きたいので、前回同様、車を使っての周回コースとした。
城ヶ尾峠付近のブナ黄葉。見事な枝ぶり
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神地にある道の駅どうしに車を停めて、国道を月夜野方面へ歩いていく。途中、国道と並行して延びる農道に入ってみる。右手に秋葉山と思しき山が、すでに見えている。
フィッシングセンターの看板のあるところで橋を渡り、オートキャンプ場も兼ねる道志観光農園の施設に入っていく。橋を渡ったところのレストハウス(売店?)の裏に、秋葉山登山口に通じる林道が伸びていた。「鳥胸線登山道案内図」と書かれた古い案内板が立っていて、観光農園から「秋葉様」まで30分となっている。山のことを様付けしているのが奇妙だ。
数分歩いたところで「山梨百名山・鳥の胸山」の指導標に従い、登山道に入る。木の階段がところどころ敷設された道は落ち葉で敷き詰められていて、はっきりとした道ではない。しばらくは山腹を巻く平坦道が続く。踏み跡がわかりにくいので、本当にこの道でいいのかと思うが、思い出すように現れる木段で進むべき方向がかろうじてわかる。
沢をまたぎ、その沢沿いに緩く登高すると、沢を離れ突如の急登が始まった。木段つきの、かなりの急傾斜である。上部で檜の植林から落葉樹に変わると、次第に日が差し込み明るくなってきた。このあたりは紅葉し始めである。
尾根に上がり左に少し登ると秋葉山山頂である。山頂というより単なる尾根の肩、と言ったほうが合っているかもしれない。特に標識はないが三角点標石が埋まっていた。そして富士山が、朝の光を浴びて顔を出している。雪冠が一番輝く時間帯だ。北面には今倉山など道志の山、南にはこれから登る鳥ノ胸山が尾根続きで見上げられる。
その鳥ノ胸山を目指す。一時的に檜の植林に入るが、広葉樹の下を歩く部分は多い。緩やかな道は次第にヤセ尾根となって、岩の間を登っていくこともある。そして急な登りに取り付く。崩れやすい土でズズズと滑っていきそうになる。立ち木につかまりながら体を引き上げる。テープを拾いつつ、なんとか踏み跡を見い出し登っていく。
傾斜が緩くなると、自然林の多い尾根歩きとなった。ミズナラを中心とした紅葉がなかなかいい。ブナも時々現れる。ブナはオレンジから黄色に紅葉するのが普通だが、赤くなっている葉もあった。
はっきりとした道はなく尾根も広いのだが、わかりにくいことはない。登るにつれ葉の色つきもよくなっていくようだ。
そのまま緩やかに登って、鳥ノ胸山へ向かう尾根道に合流した。合流点には立ち木に「秋葉神社」とテープで書かれていただけで見逃しやすい。神社ということで、社などは見なかった気もするがどこかにあったのだろう。そういえば朝の案内板で「秋葉様」と書かれていたのは、信仰の対象としてのことだったのだろうか。
低い笹の生える尾根をしばらく登ると、鳥ノ胸山山頂に着いた。やはり富士山が美しい。道志みちに張り付く建物や御正体山の大きな山体も4年前と同じだ。
先に登ってきていた人から、その場で切ったりんごをご馳走になった。下のキャンプ場でキャンプしているらしい。アルペンガイドは鳥ノ胸山を「キャンパーに人気の山」と紹介している。あとから数人のグループもやってきた。
先は長いので、早々に山頂を辞する。植林下の急降下。せっかく1200mまで登ってきたのにもったいない。傾斜が緩くなると自然林の穏やかな尾根となる。左に紅葉黄葉の森、右に木の間から覗く富士山。この季節にはなかなか絵になる。
先週の奥多摩も紅葉が良かったが、ブナの色づきにはまだ早かった。今日はタイミング的にブナの黄葉に期待してきた。しかしこのあたりはミズナラやカエデの多い尾根道である。
やや登り返して雑木ノ頭に着く。ときどき現れる指導標は進行方向を「道志の湯」としているが、方角的におかしい。たしかに、この先の浦安峠で引き返すように林道を下っていけば道志の湯なのだが、方位はまったく逆である。この山中にこのような標識があると混乱する。温泉施設の宣伝の意図もあるとは思うが、紛らわしい指導標である。
穏やかな尾根道はにわかに起伏の多いヤセ尾根となる。紅葉がすばらしく、何度も立ち止まって写真に収める。下り気味の道となると林道が見えてきて、その林道に下り立つ。浦安峠である。
ザレ場のような砂地の林道だった。駐車スペースもある。西丹沢の縦走路へは、少し下ったところの斜面を登り返す。土が崩れやすく、尾根に上がるのに難儀する。
初めのうちはヤブがちの細道だが、やがて林道に下りる前と同じような尾根道となる。ブナが多くなってきて、富士山も再び見えるようになる。尾根筋を右に巻き気味に行くと右から一本の支尾根を合わせるが、これを見やって左にさらに登る。
ようやく縦走路に到達した。合流点には小さな木切れの標識があるが、ちゃんとした指導標は立っていない。
縦走路は日差しがいっぱいで明るく、時折り富士山も見える。目指す菰釣山はまだ遠い。
樹林は落葉が進んでいるが、ブナはまだ残っていた。大木が多く黄葉が見ごたえある。低い笹の登山道も快適で、どんどん歩が進む。小気味よい尾根歩きの出来る塔ノ岳など表丹沢もいいが、こちら道志側の西丹沢は比較的静かで、樹林を見る楽しみが魅力だ。甲乙つけがたい。しかし新緑・紅葉の時期なら西丹がいい。この山域でもうひとつ気になるのが、大室山の北尾根である。今回そのルートを歩くことも考えていた。また季節のいいときにやって来よう。
城ヶ尾峠手前のブナの、四方八方に伸びる枝ぶりが見事だった。
眺めのある城ヶ尾山を過ぎ、若干のアップダウンを繰り返す。中ノ丸はこの稜線では目立つピークで、登り返しや急下降がけっこうきつい。ここまで来れば菰釣山は目の前。ブナ沢ノ頭を経て尾根道をさらに進むと「避難小屋まで200m」の標識。西沢林道への下山口を確認して少し登ると、菰釣避難小屋である。学生のグループが泊まり装備で登ってきていた。
菰釣山まであと20分あまり。今日のコースは時間的にかなりきついかと思っていたが、なんとかいけそうである。ほぼ葉の落ちた樹林の中を登っていく。1379m菰釣山は本日の最高点である。大きなブナが1本、山頂に倒れていた。
木に囲まれた山頂だが密ではなく、富士山方面は開けている。日も高くなって逆光気味ではあるが、山中湖を前景にした霊峰富士の形よい眺めは、菰釣山ならではである。さっき団体と入れ違いだったので、この居心地のいい場所を独り占めである。
地図を見ると、この山頂の少し南に行った所に三角点のマークがついている。しかもここ山頂より20m以上も低い。尾根伝いに行けそうに思えたので、行ってみる。
一応道踏み跡はあるのだが、背丈ほどのスズタケがかぶさっていて、久々のヤブこぎになった。携帯電話の高度計を頼りに、標高を20mほど下げたあたりで回りを探す。スズタケに囲まれた一角にスペースがあって、そこに三等三角点がひっそりと埋まっていた。何か宝物を発見したような気分である。しかしここは別にピークという感じでもない、単なる尾根の肩であり、なぜこのような場所に三角点が?と思った。
なお踏み跡はこの先、南側に尾根伝いで伸びているようだ。おそらくどこかの登山口から道が通じているのだろう。
山頂に登り返し、下山とする。双眼鏡を首にぶら下げた人を見かけた。木々の葉が落ち始め、バードウォッチングに適した季節になったということである。
避難小屋先の分岐で尾根を外れて下る。枯れ沢も次第に水が流れるようになる。谷間を埋め尽くす落ち葉の絨毯がカラフルで楽しい。西沢林道に出たあとは、道志の森キャンプ場までたんたんと林道を歩く。以前ここを歩いたときは、車の通行も可能だった気がしたが、今はいたるところで崩れたり陥没したりしていて、車で一番奥の登山口まで行くことは不可能である。地震の影響もあるのだろうか。ただ、順次復旧工事が入っているようだ。
紅葉鮮やかな道志の森キャンプ場は、家族連れや若者グループで大いに賑わっていた。皆アウトドアを楽しんでいる。里道を歩いて道の駅どうしに戻る。南西側から夕日が差し込み、眩しいくらいだ。
今日はよく歩いた。紅葉も期待以上だったし、満足の1日だった。