大晦日は久しぶりに車を使って三ッ峠に登る。
天気は問題なく、南アルプスの展望を期待していく。ただ12月にしては強い寒波がやっていていて、太平洋側の山地は晴れてはいても寒くて風の強い1日になりそうだ。
三つ峠(開運山)山頂から。八ヶ岳、北アルプス、南アルプスが並ぶ
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日の出は一年で一番遅い時期で、談合坂あたりでようやく空が白み始める。暗闇から浮かび上がってきた富士山は意に反して、背後に雲を従えている。
三ツ峠登山口(裏登山口)までは道路の凍結もなく運転はスムーズだった。河口湖を過ぎて少し上がると車道の温度計は-6度を表示していた。
今日は三ツ峠のあと清八山まで縦走して天下茶屋へ戻ってくる予定のため、車道が分岐となる三ツ峠登山口バス停付近に停めて出発する。北斜面でもあり日が差さないので相当寒い。しかしこれくらいはまだ序の口だった。
駐車場の混雑はなく、10台ほどのうちの半分が上の山小屋や現場作業の人のものと思われるジープだった。この時期は日の出と富士山の写真を撮る人で未明から駐車場はいっぱいになる。今朝の空が白っぽいのを見越して敬遠しているのか。
林道状の緩い坂をジグザグに登っていく。今日はバス停から歩き始めているので、この単調な道はいつもより長く感じる。またここは北斜面なので直接はわからないが、おそらく太陽は雲に隠されているだろう。気温がかなり低い。
足元には霜柱があちこちで地面を持ち上げている。やがて、地面の白色は霜から雪に変わった。もっとも積もっていると言えるほどではなく、車の轍に沿ってまだらに着くのみ。しかも凍っていてうっかりすると滑る。
木々の間から八ヶ岳、そして富士山も見えてきた。南の空は白いが北のほうは青空が広がっている、今日は冬型の気圧配置も少し緩んでいるので北アルプスが見えるかもしれない。南関東・甲信の冬の山歩きは冬型の好天の日がよく勧められているが、実際は少し冬型が弱まったくらいが、北のほうの山が見えて展望が楽しめることが多い。
積雪は増えることなく上部の稜線に着く。木無山からは富士山はよく見えたがやはりバックは白。これではカメラマンは来ないであろう。しかし雲間から覗く日差しは強く、時間の経過とともに天気は上向きそうだ。ただこういう時は一転して雪が舞うようなこともある。
三ツ峠山荘の横から広場に出ると、青空を背景に八ヶ岳、南アルプスが一点も隠れることなく現れた。そして両者の間には北アルプスの峰々もはっきりと。日本を代表する3つの屋根が、ここから見ると横一列に並んでいて壮観だ。
さらに大きな眺めを求め、開運山へ歩を進める。四季楽園のガラス戸の向こうには人がストーブで温まっているのが見えた。ザレ気味の急斜面にはしっかりとした木の階段がつけられていた。
石碑のある三ツ峠(開運山)山頂に到着。見える山の顔ぶれは下と変わらないがやはり、高度差50m分だけ展望は雄大になる。
南アルプスは北部の北岳や間ノ岳に比べ、南側の荒川や赤石岳のほうが白い。日光の当たり具合の差のようにも見えるが、北岳などは岩壁のバットレスのような急斜面をこちらに向けているため、雪がつきにくいのだろう。そこまでの細かな違いが見てとれるほど、今日は遠望がきいている。
山頂には若い人が3人、4人と集まってきた。スマホ(iPhone)を取り出し動画を撮影しようとしたら電源が切れてしまった。寒さのせいでシャットダウンしたようだ。回りにいた人も同じように電源が切れては懐で温めてから、また取り出して使っている。
三ツ峠山頂のこのときの気温はおそらく-10度から-15度くらいだったと思う。スマホ特にiPhoneは低温に弱いというが、今まで冬の北アルプスや谷川岳、雲取山でも落ちたことはなかった。動画など、バッテリーを大きく消費するアプリの使用には注意したほうがいいかもしれない。風がないにもかかわらずこんな寒いのはあまり経験がない。
なおデジタル一眼レフのほうは全く問題なかった。同じ電子製品でも、厳しい自然環境下での使用を想定した設計をしているものとそうでないものとの差は歴然である。
何事も携帯に頼りきりになる生活の危うさを、改めて感じた。
会心の展望を十分に楽しんだ後、縦走に入る。モミやマツなどの針葉樹林を上下していく。
いったん草原に出てアンテナ設備のある御巣鷹山に登り返してからは、長い下りが始まる。そろそろ鞍部だろうと思うとまださらに下りがある。御巣鷹山から標高約1450mの大幡八丁峠まで、2km足らずの距離の間に高度320mを落とすことになる。
この標高1700m~1500mの間は南関東・甲信の山では植生の垂直分布の変化が大きい部分で、樹林も針葉樹から広葉樹に変わっていくのが目に見えてわかるので面白い。300mも下れば寒さも緩和されてくる。
茶臼山、大幡山と過ぎていくとミズナラに加えてブナも現れてきた。前回雪のときは急坂で緊張を強いられる下りもあったが、樹氷がきれいだった。今日は雪がない分危険度は少ない。展望がほとんど得られずモノトーンの単調な樹林歩きが続くものの、冬ならではの静かで荘厳な山を味わうことができる。
大幡八丁峠から先、清八山までの間は短い距離ながらこの付近で唯一歩き残していた部分だ。急登である。見られるブナは太いものが増えてきた。途中で階段となり、天下茶屋方面への踏み跡を分けるとにわかに視界が開ける。ちょっとした岩尾根を越えると展望満点の清八山である。
2時間ぶりに目にする南アルプス、北アルプス、八ヶ岳の3巨頭は日が高くなっても健在だった。甲府盆地もよく見える。振り返ると富士山は雲がまとわりつき始めてきる。いつの間にか空一面は雲が支配するようになっていた。
先ほどの分岐に戻って、御坂山・天下茶屋方面を目指す。道はしっかりとついているのだが、この分岐に立つ指導標にはそちらを示す表示がない。
南斜面が造林地であることが多くなり、登山道自体も少し殺伐とした雰囲気になる。植林はカラマツが中心だ。北側は広葉樹林で比較的若いブナが多い。御坂山地の標高1500m付近はブナ林がよく残されている。一番はやはり王岳だと思うが、御坂山や黒岳北方の日向坂峠にもブナが多く、昔から手つかずの森だったのかと思わせるような巨樹もある。
再び展望のきく尾根に上ったところが八丁山。ここからは南西に向きを変え鉄塔の立つ八丁峠まで下りる。先ほど歩いていた尾根が平行に伸びている。斜面の造林地は伐採されているが、送電線巡視路付近のみの伐採のようだ。
八丁峠から先も広葉樹林が続くものの、ミズナラの巨木を見た以外、林相は平凡となる。アップダウンを繰り返し高度を下げ、河口湖が見えてくると尾根にはシャクナゲの葉も見られるようになった。標高的1400m台でシャクナゲは若干低い気もする。これは植栽なのだろうか。全域調べたわけではないが、御坂山地でシャクナゲが見られるのはここ御坂山付近だけのように思う。
御坂トンネル上で尾根を外れ、下山する。急坂だが木段が整備されているのできついところはない。天下茶屋の登山口まで下りきると観光客がちらほらいた。茶屋は営業しているようだ。
天気は回復し、明るい太陽の下での富士山が再び見られた。車道を下って三ツ峠登山口、これで今年の山登りは終了となる。
年末もやっているももの里温泉で1年の汗を流し、帰途に着く。帰省ラッシュのピークが過ぎ、高速道路はガラガラだった。