好天予報の平日、静かなブナの森を求めて、車利用なら簡単に登れる御坂山を目指した。
紅葉ラインは標高1500mを切ってきており、御坂山ももう初冬の風情かもしれない。ただ前回の鷹ノ巣山でブナやミズナラの紅葉がやや遅れていたので、まだ少しは残っているだろう。
ブナ黄葉(御坂山)[拡大]
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三ツ峠入口から舗装道を上がる。周囲の木々はもうかなり色づき、ほとんど見頃に近い。富士山もきれいに見えている。
天下茶屋の路肩に車を停めさせてもらう。朝のうちは富士山狙いの写真愛好家たちで混んでいるが、日が高くなれば撮影も終えるはずなので、静かな平日の山に戻るだろう。
まだ日が差し込まないので暗いが、茶屋付近の紅葉はよさそうだ。支度をして稜線までの急坂に取り付く。太宰治の文学碑を見ると、木段を交えたきつい登りが始まる。朝日が届く位置にまで標高を上げていくと、周囲の森が一気に華やぐ。まさに錦繍の図である。隣に三ツ峠の中継施設も見える。
稜線に近づくにつれ木は葉を落とし、稜線分岐で八丁峠からの道を合わせるところでは、はやくも冬枯れとなっていた。
稜線伝いに緩やかに登る。北風が音を立てて吹きすさび、えらく寒い。一枚着込む。ブナは多い。場所によってはブナの純林になっている斜面もあって、御坂山塊の中でも御坂山は特にブナの多い所ということを再認識した。
小さなコブを2つ3つ越え、平坦で小広い御坂山山頂に到着。眺めはないが明るい。しかし寒いので小休憩の後、先へ進む。すぐ先にブナの巨樹が2本、登山道のすぐ脇にどっしり構えていた。黄色やオレンジ色の紅葉が輝きを放つ。
山頂から御坂峠までは標高はそう変わらないものの、全体的に緩い下り坂となる。ちょっとした露岩を経て鉄塔の立つ鞍部に出る。送電線が目障りなものの、富士山が目の前に大きい。河口湖も見える。もやがかかっているのが惜しいが、あとでまた引き返してくるのでそのときゆっくり休憩することにする。
もうひとつの小ピークを越え、ツツジ、ミズナラやカエデの樹林帯を下ると御坂峠に着く。雰囲気のいい、いかにも峠といった風情がある。天下茶屋にも御坂峠と書かれた大きな標柱があるので、こちらのほうは旧御坂峠と呼ばれたりもする。
閉められた峠の茶屋がある。営業はしていないようではあるが、自分がここに初めて訪れた10年前と比べてさほどさびれていないので、通常何かに使われているのかもしれない。さらにここには昔、城があったようだ。ここに来るまでの登山道には段差がいくつかあったので、あれはもしかしたら城郭の周りに築かれた盛り土の跡なのかもしれない。
旧御坂峠から三ツ峠入口に下って、天下茶屋へ登り返す周回ルートも考えられるが、車道を1時間近く歩くことになるので、やはり来た道を戻ることにする。
最初は急坂だが長くはない。先ほどの鉄塔下でしばし日だまり浴をしてから御坂山へ登り返す。往路ではあまり目に入らなかったが、2本のブナ巨樹はじめ紅葉が残っているブナがけっこうあった。
一言にブナ紅葉といっても、いろいろな色合いがある。始めに黄色に変色し、オレンジ色を経て茶色、そして枯れ葉となるようだ。個人的には明るい黄色よりも、オレンジ色から茶色に向かう終期の色づきが気に入っている。日の差し方によっては黄金色に輝き、樹皮そのものにも色が染みて見えることがある。
紅葉は木の「死化粧」とも言われるが、山が雪に包まれる前、1年の最後に放つ一瞬の輝きでもある。
稜線分岐まで戻り、天下茶屋への下りとなる。天下茶屋までのバスを利用して登ってきた人と何人もすれ違う。標高を下げるに従い紅葉した木が多くなり、日に照らされて登りの時と比べものにならないほど色鮮やかだ。ジグザグの下りで歩く向きを変えるたびに立ち止まり、写真に収める。
天下茶屋の前には、朝方の写真愛好家は少なくなったが、観光客が多くやってきていた。平日なのにけっこうな賑わいである。朝は使えなかった茶屋横のトイレは、茶屋が営業開始したため利用可能になっていた。
青空をバックに、艶やかな紅葉となった山肌を見ながら車で下山する。
時間も早いので、もうひとつブナの名所に行ってみよう。御坂黒岳と釈迦ヶ岳との間にある日向坂峠(通称どんべえ峠)である。天下茶屋から車でぐるっと回り込むことになるが、距離はそう遠くない。
河口湖沿いを走り、若彦トンネルで山をくぐって芦川の集落に出る。そこから細い車道を上がっていく。簡易舗装だがでこぼこしていてスピードが出せない。天下茶屋から50分程度で日向坂峠に着いた。すでに数台の車が停まっていた。
御坂黒岳の方向に進む。歩き出してブナを見ることのできるところがこのコースの魅力である。もう山頂まで登る気はなく、小さなピークを2つほど登り下りするだけだが太いブナも多く紅葉もかなり残っていた。
すずらんの頭から緩く下り、上芦川への分岐で来た道を戻る。最後までブナの輝きに包まれた山道だった。
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どっしりと |
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黄色のカーテン |
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河口湖畔に下りると、「紅葉まつり」で人がいっぱいだ。観光バスが行き交い、出店も多い。外国人もカメラを下げて大勢歩いている。
今日こそ霊峰の湯に入りたいと思って行ってみたら、テントが張られて地元の名産のにわか土産屋になっていた。閉館になったわけではないと思うが。
富士山が世界遺産に登録されてから、この付近は平日も休日も、より一層観光客でにぎわうようになったのだろう。