大石の登山口に案内板が立っており、ここを起点に毛無山・十二ヶ岳や節刀ヶ岳など御坂の山を周回するルートが紹介されている。
自分の持っている登山地図には大石から毛無山に登るルートは載っていないので前から気になっていたが、ここを歩いた記録も最近はよく見るようになった。今回初めて歩いてみる。
節刀ヶ岳から見る十二ヶ岳
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周回路は意外に時間がかかるとみて早めに家を出る。天気予報に反して朝から雲が多く、富士山は見えないどころか周囲の山の稜線はガスの中だった。
車は大石地区の若彦トンネルの手前で細道に入る。10台ほど停まれる駐車スペースがあったがもう少し奥に入ってみる。バス停のある大石プチペンション村よりもさらに奥へ、未舗装のデコボコ道を数分、見覚えのある大石登山口に着く。
淵坂峠・毛無山への新しい指導標が立っており、その横に車を停める。奥には大石峠からの下山道のほか、金山から沢伝いに下ってくる道も合わさっている。今日は毛無山、十二ヶ岳を縦走した後このどちらかの道に下りてくる予定だ。
出発するとすぐに沢に出会う。飛び石伝いで渡るしかない。最初に足を置こうとしている石の表面が苔むしている。
大丈夫とは思うが念のため、手を使いながらそろりと渡る。するとその石はツルツルだった。危ないところで初っぱなから滑ってずぶ濡れになるところだった。
この沢を渡れさえすれば、後は危険なところはなく毛無山まで行けそうだ。緑深い山腹トラバースの道は随所できれいな指導標が立っており、歩行には全く問題ない。
ほとんど標高を上げないまま、30分あまりでもう淵坂峠に着いてしまった。ここはやや複雑な十字路になっていて、毛無山は戻るように右手の斜面を登っていく。
なだらかな尾根歩きもつかの間で、すぐにきつい急登が始まった。地図を見てもここから毛無山まで等高線がかなり細かく刻まれていて、500mの標高差をほぼこんな調子で行きそうである。
周囲は深いガスに包まれ薄暗い。これは雲海になっているのか。少し高度を上げれば雲の上に出て快晴の空の下となる、こんなパターンを思い描けなくもない。しかし頭上に太陽の気配はあまりなく、すぐには天候の回復は期待できなそうだ。花期を迎えたヤマツツジの群落がせめてもの慰めである。
少し傾斜が緩やかになるところを交えながらも、基本は忍耐の登り。それでも諦めて引き返すことがなければ、いつかは山頂部の稜線が見えてくる。峠から1時間弱で文化洞トンネルからの登山道と合流、すぐに毛無山山頂となった。
目の前に大きいはずの富士山も今日はない。どこを見渡しても乳白色の眺めだが、ガスは濃くなったり薄くなったりしている。
十二ヶ岳へ歩を進める。開けた岩棚に出ても何も見えないのは残念。しかししばらくしたら、下の方の山肌が見え始め、やがて河口湖の湖面や今歩いている稜線がガスの中から現れてきた。
ルートはピークごとに一ヶ岳、ニヶ岳、・・・と名がつき、十二まで続いていく。オオカメノキやトウゴクミツバツツジがよく咲いている中、下ったり登ったりを繰り返す。ロープのついた大きな下りはなかなか大変で、足場探しに時間がかかる。
ここは2回歩いたことがあり、その時の記録を読み返してもそれほど苦労したふうには書かれていないのが我ながら不思議だ。やはり歳を重ねるにつれ、同じ場所を歩いても勝手が違ってくることが多い。山でヒヤリハットを経験した記憶が積み重なっていくと、今まで何ともなかったところが怖くなることもある。
ロープを手繰りながら一歩一歩下っていくと、手の前にイワカガミが群落をなしていた。
八ヶ岳、九ヶ岳と越えていき、長い下りの後十ヶ岳の標識は鞍部に立っていた。ピークは後方の山らしい。イワカガミが咲き続き圧巻である。今日はコイワザクラも見たくて来たのだが、あるのはイワカガミばかり。少し遅かったか。
再び長い下りとなってキレットに下り着く。「一人ずつ渡れ」の注意書きのある吊り橋はスリル満点。万一足を踏み外すと、体の小さい人はワイヤーの間を体がすり抜けて、10メートル下の谷底へ落ちてしまうかもしれない。子供は細心の注意が必要だ。
橋を渡った後は、十二ヶ岳山頂へ最後の登りとなる。鎖、ロープの連続する岩場を夢中になって登る。一度逆方向で歩いたことがあるが、よく下れたと思う。ここにもイワカガミがびっしりとあった。
頭上には青空が覗き始めて、天候は上向きである。岩場を登りきり、桑留尾への下山路を分けると祠のある十二ヶ岳山頂に着いた。
明るくなってはきたが富士山はまだ見えない。それでも周囲の稜線や青々とした西湖など、ようやく御坂山地らしい景観を楽しめるようになった。
さらに縦走を続ける。十二ヶ岳西面も急斜面の岩場が次々と現れる。こちら側を下りにとるのは初めてだった。鎖のついた長い下りはちょっと怖い。足場を確保しながら何とか通過する。
すぐにまた梯子のかかった岩を登る。しかしその先は展望の良い岩棚のスペースがいくつかあって、格好の休憩地である。眺望もずいぶん広くなった。節刀ヶ岳から御坂黒岳にかけての稜線もよく見える。
鞍部に下り、大石への下山路を合わせる。ここはまだ歩いていないので行ってみたい気もするが、時間も早いのでもう少し縦走路を歩くことにする。背後から太陽の光も浴びるようになってきた。
少し登り返すと金山の山頂。ここで鬼ヶ岳への道と分かれ東へ。カラマツやミズナラなど、ゆったりした登山道となった。毛無山から十二ヶ岳にかけては岩がちの展望稜線、それに比べてこの金山から節刀ケ岳~御坂黒岳間はしっとりとした樹林帯が続く地味めなコースに変わる。両方を繋げて歩くとその対比ができて面白い。
歩きやすい尾根道を15分ほど、分岐に入ってトウゴクミツバツツジ咲く中を登っていくと背後が一気に開け、十二ヶ岳のコブコブがあらわとなる。
そのすぐ先が節刀ヶ岳山頂となる。樹林に囲まれているが十二ヶ岳、鬼ヶ岳方面は切り開かれている。富士山は相変わらず雲の向こうだが、時々上の方の雲が切れて山頂部がほんの少しだけ見える。けれど目を離すとどこだかわからなくなってしまった。まあその程度しか今日の富士山は見えてくれない。
御坂黒岳から三ツ峠にかけての山稜もよく見えた。朝方のガスガス天気からよくここまで持ち直した。
女性が一人登ってきた。新版の地図を見せてもらったら、自分の歩いてきた大石~淵坂峠~毛無山のルートがすでに赤実線で現わされていた。長年の課題だったバリエーションルートを踏破した充実感があったが、やや拍子抜けである。
縦走路に戻り、大石峠を目指す。ブナも混ざる落ち着いた道で、足元の草花も樹林帯でよく見られるものになった。オオタチツボスミレが多く、ニリンソウに見える白花はシロカネソウだろう。ワチガイソウ、そしてギンリョウソウも見られた。バイケイソウは葉がまだ若々しい。
金堀山への緩い登り下り、その先も目立たないピークをひとつふたつ越えていく。はっきりとした下りになるとヤマツツジが鮮やかな平坦地に出る。
ここ大石峠は、以前に比べてだいぶ草深くなってしまった。ここは花も咲き展望もあるし、一度刈り払いをすればいい休憩地になると思うのだが、惜しいところだ。それでも回復した天候の下十二ヶ岳や河口湖を眺めることができ、今日最後の御坂の風景を楽しめた。
大石登山口に向けて、ジグザグの急坂を下っていく。スミレの多いこの登山道も、5月末では花期は過ぎている。フタリシズカがあちこちで大群落を作っており、一部は花も咲き始めていた。
下るにつれて気温が上がり、蝉の声も大きくなってくる。大石登山口は標高900m台と高い所にあるが、緑も濃くすでに初夏の様相だ。季節の進みは早い。
河口湖沿いの車道は観光客で賑わっている。今日は山中湖畔でマラソン大会があるそうで、あまり道草を食っていると帰り道が渋滞になりそうだ。温泉などには立寄らず真っ直ぐ帰ることにする。
それでも国道ではすでに混雑が始まっており、中央道はそれに輪をかけての激しい渋滞となっていた。