今年の初山は、しばらく足を運んでいなかった道志の山とした。
エリア的には狭い道志山塊だが、標高600m程度の低山から1600mを越える御正体山まで、けっこうバラエティに富んでいる。ほぼ中央にある赤鞍ヶ岳から朝日山にかけての稜線は、目立たない部分ではあるものの、広葉樹が多く明るい中の尾根歩きができる。随所に展望も開け、個人的にはここが一番のお薦めである。
問題は交通機関で、登山口のある国道413号線(道志みち)を走るバスの本数が極端に少ない。土曜日であれば早朝のみのバスが1本だけ使えるが、日曜日は車かタクシーで行くしかない。中央線沿線と箱根、丹沢に挟まれているこの山域は、昔から「陸の孤島」と呼ばれてきた。
明るいカヤトの秋山峠
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早朝、登山口のある大栗に着く。道志小学校の隣りにある水源の森駐車場に停めようと思ったが「ご利用者以外の駐車お断り」との表示が。困ったが、他に停められそうなところがない。下山後に利用することにして、停めさせてもらった。
相模湖側に少し戻り、石標の立つところに赤鞍ヶ岳の大栗登山口があった。10年前にここから登ったことがあり、おぼろげながら記憶がある。
林道を上がっていき、住宅の間から登山道に入っていく。檜の植林を少し登ると背後が開け、送電線越しに富士山が覗いていた。
道志みちからの登りは南に面して、明るく眺めもいい。ある程度高度を上げると朝日が差し込み、周囲の木々も赤らんでくるが、山と山に挟まれた道志の山里はまだ暗黒の中で、太陽の恩恵にあずかるのはおそらく昼頃になってしまうのではないかと思われる。
ゴトウ石を過ぎると全面広葉樹の森はいったん終わり、左が檜林に変わる。急登となり、休み休み少しずつ高度を上げる。
稜線に出て緩い上り下りを終えると、南面が開けて富士山や丹沢山塊が大きく望めた。富士山は1月とは思えないような雪の少ない姿だ。丹沢の山もそろそろ白いものが目立ち始めてもいいのだが、未だ全くの黒い山である。
少し笹の深い斜面を急登し、雨量計のあるピークに着く。ここは一般的には「赤鞍ヶ岳」だが、「ワラビタタキ」の別名もある。これから向かう朝日山のほうを赤鞍ヶ岳と呼ぶこともあるから、誤解を避けるためにその別名で呼んだほうがいいかもしれない。
樹林の中のワラビタタキ山頂から10分ほど稜線を歩くとウバガ岩である。再び南面が大きく開け、富士山や丹沢、御坂の山がパノラマで眺められた。朝日山の後ろに南アルプスの白いラインも覗いている。しかし、はるか下に見える道志村はこの時間になってもまだ日が差し込まず、暗いままだ。
このあたり、しばらくは見通しのいい尾根道が続き、今日のコースのハイライトである。北面が開けるところがないのが惜しいが、木の枝越しに大菩薩や奥多摩方面の山がずらりと並んでいる。尾根道は背の低い笹の緑で敷き詰められ、モノクロームの風景に鮮やかに映える。
朝日山がぐっと近づき、国道からの登路が合流してきたところが秋山峠。ここも富士山側の眺めがよく、雰囲気のいい峠である。朝日山はもうすぐそこだが、この明るい峠で休憩する。
丹沢山塊の背後に、噴煙を上げる丘陵が見えている。おそらく箱根の大涌谷だろう。昨年後半になって箱根の山もようやく噴火レベルが下がったが、ここから見える噴煙はかなり高いところまで上がっており、少々気になる眺めではある。
少し登って朝日山に着く。ここには赤鞍ヶ岳の山名標識が立つ。本日の最高点だがここにも雪はない。黒土の上にブナの樹影が長く伸びていた。
朝日山からは下りがしばらく続く。南アルプスが見えるが樹林越しの眺めだ。大きく下った後同じ程度の登り返しがあって岩戸ノ峰(高丸)、尾根道はやや南方向に折れて、さらに大きく下っていく。杉や檜林が現れ、このあたりは朝日山以西の稜線に比べれば単調で眺めも乏しい。
本坂峠(道志口峠)間で下りきる。尾根道は菜畑山に続いているが、車まで戻る距離を考え、今日はここで下山する。
本坂峠からの下山路はトレイルラン大会のコースに使われているようなので、通行には問題ないと考えていた。実際そうだったのだが、大部分が杉・檜林下の道で一部荒れて歩きにくいところもあった。
やぐら沢に下り着き、10分ほどは沢沿いを歩く。林道に出たところに個人の別荘なのか、三角屋根の建物があり、さらに少し行った先にももう一軒あった。こんな山奥に、それも離れたところに2軒建っているのが少し奇異に感じる。
道は舗装道路になり、やぐら沢キャンプ場の鉄扉を開け山麓まで下った。日差しいっぱいの畑地には菜の花が咲き、道端には早くもオオイヌノフグリがたくさん花をつけていた。
今日は1日、まるで3月下旬頃の陽気だったが、このまま春になってしまうことはさすがにないだろう。道志みちに下ったところが戸渡バス停で、20分ほど歩いて朝の道志小学校の前に着いた。
道志みちは次々と自動車やバイクがやってきてけっこうな交通量なのだが、どれもが通過するのみで、周囲を歩いているは観光客が数人程度だった。
道路沿いに民家も立ち並んでいる割には、地元の人の姿は全く見かけない。
静かな冬の日の道志村である。
今日は道志の特産、クレソン入りの蕎麦かうどんを食べて帰りたい。が、水源の森の蕎麦屋さんは川を渡ったかなり先にあるようだ。山を下りたばかりなのでちょっと行く気がしない。駐車場を貸してもらったのに申し訳ないが、近くの温泉に入ったついでに食べていくことにした。
車で数分の距離で紅椿の湯へ。日帰り温泉料金はちょっと高めだが空いていた。クレソン入りうどんは素材の香りとちょっと甘辛い味がしておいしかった。
まだ日差しがたっぷりの中、東京に戻る。