ブナ巨木が立ち並ぶ稜線 [拡大 ]
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昨日の陣馬山に続いて、今日も新緑の山を登る。
山梨県小菅村へは、中央道で上野原ICから北上するのが一番近い。しかし今は高速の休日割引がなく、アプローチ段階で県境越えしてしまうのは、少々気が引ける。
東京の八王子ICで高速を下りて、青梅街道を延々とドライブして道の駅こすげ(小菅の湯)に着いた。
緊急事態宣言下で、奥多摩町や丹波山村の観光施設や駐車場は多くが休業・閉鎖しているのだが、小菅村の施設はあまりそういうことはない。道の駅の駐車場も使える。
朝6時台に着いたのだが、車の数が多くてびっくり。これはそらくファミリーキャンプか何かで、前日から泊まりで来ている人が多いのだろう。もっとも、いつものGWであれば人の出はこんなものではない。高速などは朝から渋滞するはず。やはり自粛している人が圧倒的に多いようだ。
車の数の割に、外に出ている人は少ない。今のうちに出発する。小菅の湯の前の道を下り、モロクボ平に向かう登山口に入る。下りに取ることの多い道だが、今日は登りである。
始めのうちは人工林下のジグザグの急登が続いてしんどい。
やがて傾斜が緩むと、広葉樹林の豊かな台地状になる。まだ色濃くなっていない、明るい新緑の森が目の前にいっぱい広がった。田元からの登山道を合わせ、さらに緩やかな登りが続く。左手、木の枝越しに牛ノ寝の稜線が横たわっている。
さらに小菅・川久保登山口からの道が合流する。モロクボ平付近の緑はさらに明るさが増し、若葉の尾根道になっていた。ミズナラ、ホオノキ、ヤマザクラ、ハウチワカエデ、コハウチワカエデなど。
高指山を巻くあたりで若葉の尾根にイヌブナが加わる。イヌブナは大木の割には、低い位置から枝が伸びているので、新緑の葉が目線の位置で見られる。また、ひこばえから芽吹いているものもたくさん見かける。
「ひこばえ」とは、樹木の切り株や根元から伸びている細い木や芽のこと。もし主の樹木が枯れると、ひこばえの1本が代わりに成長していくという。言ってみればクローンで、親子関係ではない。種子から発芽するのとは違った繁殖方法である。
種子から伸びるのより短い時間で世代をつなぐことができる反面、クローンだから元の木と同じ生命力しかなく、環境に適合しながら自らを変えていくタイプではない。イヌブナの他に、アブラチャンもひこばえが多いように思う。
イヌブナの葉は、オトシブミの仕業か、くるくると巻かれているものもあった。トウゴクミツバツツジも一部開花している。
さらに高度を上げるとブナが出てきた。ブナはイヌブナと違い枝葉ははるか上に位置し、ひこばえもない。開葉の様子は見上げて確かめることになる。まだ芽吹き程度のものも多いが、明るいライトグリーンの葉を見ることができた。
登りは緩く、高度が急に上がることはなくても、木々の新緑の進み具合は正直で、だんだんと淡緑、芽吹き程度に変わってくる。
鞍部の大ダワに着くと、木々の枝葉を透かした空はずいぶんと明るくなった。でも新緑の山は、これくらいの春もみじの時期が一番観察しやすく、歩いていても気持ちがいい。
鶴寝山に行く前に、牛ノ寝の大菩薩峠側を少し歩いていくことにした。広葉樹豊かな幅広の尾根道で、新緑も進んでいる。大菩薩峠側から、もう登山者が下山してきた。荷物が大きいのでテント泊だろうか。
登山道は尾根の背の少し南側につけられているが、尾根の背も急登や岩場などがないので歩ける。
ブナの大木がここは多く、地面には発芽した1年生の双葉がたくさん出ていた。尾根にはイヌブナはないので、これはブナの子供だろう。どうやらこの辺りのブナは昨年、かなりの開花・結実があったようだ。
先日、越後・魚沼の山を歩いた時は、あれほどブナのたくさんある山なのに1年生双葉は一つも見当たらなかった。ブナの開花・結実は毎年あるわけではなく、数年に一度大量に発生する。それも地域性があり、昨年は奥多摩で当たり年だったのだろう。
開花といっても花は地味なので、よほどの物好きな人以外、ほとんど気づくことはない。しかも花芽は地上10mくらい上なので、まずは人の目に触れない。
狩場山の山頂を踏んでから、大ダワまで引き返す。
大マテイ山までは北側の登山道を行く。久しぶりのきつい登りで、落ち葉が深く足首まで潜る。カラマツの人工林がこの辺りでは見られる。
指導標にしたがってベンチのある大マテイ山山頂。標高1400mのこの地も芽吹いていた。狩場山も大マテイ山も、牛ノ寝のピークはピークというよりも尾根上のかすかな高まりでしかない。鶴寝山に向かうとき、方向を見失いそうになった。
鶴寝山へ、今度は南側の登山道「日向みち」を進む。ハウチワカエデが赤い花をたくさんつけ、葉自体も赤味がある。マルバダケブキの葉が茂る斜面を登る。以前からこんな場所があっただろうか、記憶がない。南北の道が合流し尾根上となると巨木が多くなって壮観だ。
ブナの双葉もあちこちで見かける。フイリフモトスミレを見ると鶴寝山山頂は近い。人の声がして、これもまたなだらかな鶴寝山の山頂に着く。ここも柔らかな新緑に包まれている。そして南面の切り開きに富士山が、白っぽい空に同化しつつも、何とか輪郭を見せていた。
先週、鶴峠から三頭山に登った時は、上部はまだ芽吹き前だったが、1週間足らずで同標高の山はすっかり緑の衣をまとっていた。
鶴寝山はいつ来てものんびりできる山頂である。奥多摩の山の中でも大菩薩山塊に近いこともあって、大らかな山の印象が強い。
小菅の湯の分岐までは巨樹の道となっており、ブナを中心とした、直径70㎝級の巨木が見ものだ。尾根上はもっぱらブナだが、右手の斜面を見るとイヌブナが主である。尾根の背はブナ、斜面はイヌブナとなっており、これは高尾山や三頭山でも同じ傾向がある。
分岐で尾根を外れ、緩やかに下っていく。トチの巨樹は、視界に入ったときはそれほど大きな樹木の印象ではないのだが、根元までくるとそのでっかさにびっくりする。上部を見るとたしかにトチノキの分裂葉が茂っている。
トチの巨樹の少し先に、もう1本トチノキの大木がある。それどころか、このあたりはトチノキがとても多い。東側に沢の源頭があるのだろう。湿った環境の好きな樹木が目立つ。
どんどん下って、その沢に下り立つ。丸太の木橋を渡っていくうちに林道となり、わさび田が見えてきた。以前ここで作業していた人からワサビを買ったことがある。今も栽培されているようだが、少し荒れた感じもする。
林道を歩いて道の駅こすげに戻ってきた。今日は素晴らしい新緑と芽吹きの森の中を歩くことができて大満足である。
道の駅には、朝とは比べものにならないほどの大勢の人。売店で山菜を買っていこうと思っていたのだが、何と入場制限されていたので諦める。
高速は渋滞しそうなので、行きと同じく青梅街道を走って帰ることにする。しかし一般道もかなり混んでおり、さすがGWである。八王子ICからの高速も渋滞していたので、このまま一般道で帰ることにした。