南関東・甲信の山々も、標高1000mあたりにまで紅葉前線が下りてきたようだ。
暖秋だった昨年に比べて少し早いが、今年は度重なる台風の上陸の影響で、特に南関東の山は葉が散ってしまい紅葉もあまり期待できない。と思っていたのだが、友人と行った大菩薩牛ノ寝通りはカエデなどの紅葉が見応え十分だった。
友人は三条の湯でテント泊がしたかったようで、そちらも紅葉が期待できそうだったが、自分は宿泊山行が今はできないので、今回は日帰りで行けるところにしてもらった。
紅葉の牛ノ寝稜線
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直前の天気予報は、山梨は曇りで午後から雨。東京西部も微妙なところだ。道中降られるのは覚悟の上で出かける。しかし甲斐大和駅に着くと青空も覗いていた。
上日川峠行きのバスは8時10分が定刻だが、下りの電車の到着に合わせて2台が臨時増発された。駅周辺や景徳院付近は紅葉が見頃を迎えている。今日歩く標高は紅葉のピークはやや過ぎているかもしれない。石丸峠の登山口となる小屋平では自分たちだけが下車した。
支度をして出発するが、登山道はトレイルランのレースが行われていて、後ろからランナーがひっきりなしにやって来る。その度に道を開けないといけないのでわずらわしい。
レースが自分たちの歩くコースと一緒だと大変なことになるところだったが、幸い林道を横断するところでルートが分かれた。レースは小金沢山を越えて塩山地区へ降りていくらしい。登山道のほうは石丸峠で小金沢山からの稜線に達するのだが、林道をそのまま進み、石丸峠を経由しないで稜線に上がれる道があるとは知らなかった。もしかしたら古い道がレース用に整備されたのかもしれない。
小屋平は標高すでに1500mを越えており、さらに登っていくと、登山道から見られる落葉樹は紅葉どころかほとんど葉は落ちていた。植林されたカラマツの黄葉が見られるくらいだ。それだけに曇りがちながら周囲の見通しはよく、振り返ると木の間から大菩薩湖がよく見えた。
急登がひと段落するとあたりは開け、石丸峠や狼平にかけてのカヤトの稜線はまだ緑色が残っている。レースの案内係の大きな声が、狼平あたりから聞こえてくる。ルートはあの辺で稜線に上がるようだ。
こちらはいつもの道で石丸峠に到着。日が差さず肌寒い。反対の奥多摩側は濃いガスに包まれており、今にも降ってきそうな空模様だ。
牛ノ寝通りの登山道に入る。1998年、初めて山小屋に泊まった翌日に歩いた思い出の登山道だが、それ以降は2回しか歩いていない。久しぶりである。
まずは急下降、榧ノ尾山まで標高差400mあまりを一気に下る。ガスの中、モミが中心の針葉樹林から、次第にダケカンバやカエデなどが混ざってくる。モミやダケカンバは大木が多く、森の歴史は古そうだ。なだらかで歩きやすいイメージのある牛ノ寝通りも、上の方な標高が高く深山の雰囲気がふんだんにある。
急坂を下り、標高1600mあたりまでくるとブナが現れた。ブナも大木が多い。
低いところはそれほど天気は悪くないようで、高度を下げるにつれガスが薄くなり、太陽の光も感じるようになった。
下りの最中、時々登山者とすれ違ったが、どこから登ってきたのだろうか。小菅からにしては時間が早すぎる。
標高1500m付近。ここまで下りれば、あとは緩々とした下りまたは平坦な道がしばらく続く。紅葉した木々も見られるようになり、牛ノ寝通りの一番いいところを歩けるようになった。
牛の背中を歩いているようなことからこういう名前がついたのだが、名付けた人はなかなかセンスがいいと思う。
紅葉は先週がピークかと思ったが、ハウチワカエデを中心にまだ十分見られる。特に赤が多く壮観だ。コミネカエデ、コハウチワカエデ、ウリハダカエデ、イロハカエデなどカエデの見本市のような尾根道である。もちろんブナやダケカンバ、ミズナラの黄葉も見られるが高いところは落葉が進んでいる。
中間層はカエデのほかオオカメノキ、シデ、ミズキなどがみられるが、わからない樹木も多い、ここは樹種の数も半端でなく多い。クリーム色の羽状3出複葉はミツバウツギか、タカノツメか。
歩きやすい道が続くものの、ここも他の南関東の山域と同様、倒木が多い。ブナを中心に、人間の背の高さあたりでボキッと折れた大木が何本もある。
榧ノ尾山の山頂は稜線からやや高いところの台地にあり、ここで休憩していく。10名ほどの団体さんがいた。休んでいると細かい雨が降り出したのでレインウェアを着込む。空気は意外と冷たい。
榧ノ尾山前後にはクリの木が生育している一方、ブナも多く見られた。大木も継続して登場する。とりわけ太いブナを測ったところ、幹回りが360㎝あった。落ち葉を払ってブナの実を探してみる。殻は少し見られるものの実はなかなか見つけられない。何層にも積もった落ち葉の下深く潜っていったのだろうか。
ブナは巨木ばかりではない。直径10cmほどの木もところどころで見かける。背が高いので横方向に成長できなかっただけで意外と年は食っているのかもしれない。しかしそれでも、そう遠くない過去にここではブナの世代更新があったと推測できる。
三頭山はじめ奥多摩や御坂の山では、太い老樹のブナはあっても若い世代を見ることはあまり、というかほとんどないのだが、牛ノ寝通りは例外か。スズタケも伸びていないので樹木の生長には適した地なのかもしれない。
今年は年初からブナをじっくり観察する山が続いたが、今日かその次の回がそろそろ年度じまいのブナ山行となりそうだ。
天気は持ち直し、遠くの景色が見えてきた。青空も覗く。今日は午後から雨とのことだったが、天気傾向今のところ予報と逆方向に進んでいる。
それにしてもカエデが多く、あたりはオレンジや赤色でライトアップされたような感じさえする。本当に紅葉のいい山は曇りがちの天気でも関係ない。1998年以来、秋にこの牛ノ寝を歩いていなかったことを少し後悔する。
前方に大マテイ山の高い頂が見えてきたが、あそこまで登ることはない。
「狩場」と書かれた標識を過ぎると植生がやや変わってアシビ、アカマツが出てくる。何となく人気(ひとけ)臭い雰囲気になり、過去に人の手によって一度処理された森林のように見える。ブナは減ってきた。
アカマツとよくいっしょに生えているコナラの姿はまだなく、依然としてミズナラが高木層として幅を利かせている。
常緑樹の割合が増えるので尾根全体が暗くなるが、それでもなお現れるカエデ鮮やかな赤に何度も驚嘆する。
大ダワで休憩後、小菅の湯目指して下ることにする。富士山は見えなかったが石尾根や飛竜山が雲間から覗くまでになった。何だ今日の天気は全然OKだったではないか。
まあこの時期、秋の空というのは天気予報官泣かせということはある。
なおも続くカエデの道を下る。標高を下げると黒い樹皮のイヌブナが目につくようになった。尾根の肩で、根こそぎひっくり返った2本の木が登山道を崩しており、少し危険なところがあった。友人はここを5月に歩いたそうだが、その時はなかったという。
これは台風によるものというよりは、大雨で地盤が緩んで木ごと崩落してしまったのだろう。夏から初秋にかけての大雨の影響は今なお、各地の山に爪跡を残し続けている。
モロクボ平からは広くなった尾根を下る。ダンコウバイの黄葉やシデ、クリ、ミズキが見られる。落ち葉が深く道がわかりにくい。最後は急なジグザグの下りを経て小菅の湯のある田元地区に下り着いた。
派手さはないものの、色彩感溢れる尾根歩きが楽しめた1日となった。小菅の湯で入浴後、上野原行きのバスで帰る。
南関東・甲信の山の秋もそろそろ終盤である。