梅雨の晴れ間を狙って、今年も鷹ノ巣山に登る。久しぶりに稲村岩尾根を登路としてみよう。サラサドウダンはまだ残っているだろうか。
奥多摩駅からの東日原行きバスは満員。圧倒的に若い人が多い。中高年の登山者さんはどこに行ったのだろうか。
川乗橋で半分が下車し、残りは東日原から雲取か鷹ノ巣山のようだ。
霧立ち込める石尾根 |
巳ノ戸橋を渡って山道に入る。昨晩はかなりの雨だったようで少しぬかるんでいる。稲村岩の鞍部までは鬱蒼とした沢沿いの樹林帯で、難路でもあり一汗も二汗もかく。緑も色濃くなって薄暗い。
稲村岩鞍部からは尾根歩きとなる。急登の連続だが道は安定していて危険はない。朝方はまだ青空も大きく、涼しい東風も入ってくるので気持ちがいい。
標高が1000mを超え、ブナの巨樹やミズナラの自然林になると周囲はガスが立ち込め、幽玄な雰囲気となる。2度めの平坦地がヒルメシ食いのタワで、山頂までもう一息だ。オーバーペースがたたり最後の登りはばててしまった。タワからもまだ急登は続くことをうっかりしていた。
鷹ノ巣山山頂は大きく開けているが、対面の稜線には大きな雲がかかっていた。足元の浅間尾根や榧ノ木尾根はきれいな緑を見せている。
この時期にやっかいなのは小虫である。目の前を何十匹も飛び交っているように思える。今日は電池式の虫除け器を持ってきており、休みの時間につけていると、確かに器具の近くには寄って来ない。
やがてガスが上がってきて、近くの眺めも悪くなってしまったので、山頂を辞す。今日の最終目的地は千本ツツジだ。避難小屋に下ると大きなザックを背負った大学生風の男女のグループが食事の支度をしていた。避難小屋に泊まっていたのだろうか。奥多摩の山もどんどん若返っている気がする。
展望が芳しくないのに、巻き道ではなく稜線に足が向かってしまった。日陰名栗ノ峰、高丸山ともに濃密なガスの中。ワラビなど山菜採りのグループをいくつも見かける。山菜は素人なりにも、6月下旬では少し時期が遅いように感じる。けれど登山道にはたしかにそれっぽいのがいっぱい伸びている。今年は豊作なのだろうか。
ガスが立ち込める石尾根も静かで深山の趣があり、なかなか捨てたものではない。けれど眺めがないのでやはり早々に切り上げる。
千本ツツジから石尾根巻き道に下り、少し引き返したところの分岐から赤指尾根コースに入る。この道は地味な印象はあるが、いかにも奥多摩らしい山深さが感じられる道だ。
今日はツツジ以外花を見ていなかったがフタリシズカ、ニガナを見る。赤指山を東側から巻く道に入ると、水分を含んだ滑りやすい道が続いた。樹林が鬱蒼と茂り、まるで夕方のようだ。
高度をなかなか下げず、思った以上に時間がかかる。石尾根から分岐して峰谷まで、アルペンガイドのコースタイムは2時間だがもう少しかかりそうだ。午後一本のバスに間に合うかどうか、結構ぎりぎりかもしれない。
以前同じ季節にここを下ったことがあるが、途中でひどい雨になり大変だった。そのときはこんなに時間がかかったろうか、ほとんど記憶がない。
高度を下げるにつれガスは薄くなっていったので、今日は雨は大丈夫かなと思っていたら、林道に下りる直前でポツッとくる。すぐに本格的な降りになってしまった。これはこの前歩いたときの再現だと思い、林道脇で急いで雨具を着る。しかしここで大失敗。雨具を着た後で焦っていたのか、正面に続く山道を見過ごし、林道を歩き始めてしまった。それも登りのほうへ。10分くらい進んでからおかしいと気づき、あわてて引き返す。見逃した山道に入ってさらに下り、再度林道に出る。さっきはこの林道と勘違いしていたのだ。
雨が弱まったので、時間が惜しいが立ち止まって雨具を脱ぐ。林道の出口が峰集落で、最上段の家のおじさんが外に出ていた。偶然だが、自分がこの家の前を歩くと、おじさんが決まってそこにいて、いつも何がしか会話する。「ここから峰谷?30分はかかるからバスは厳しいね」もうバス発車時刻まで20分しかない。さっき道を間違えたのが痛かった。
厳しいを通り越してもう諦めようかとも思ったが、舗装道路でもあるし一縷の望みをかけて小走りで下っていく。
峰は標高800mで、東京都で一番高いところにある集落である。雨上がりの山肌の眺めがよいが、谷深く落ち込んだところにあるはずのバス停までは、まだ相当下らねばならない。前回登りにとったときの記憶を頼りに、ショートカットする道を探しつつ下るが、最後、山道に入り直して峰谷バス停の真正面に直接下り着く道を、見い出すことは出来なかった。
峰谷川が見える位置まで来たとき、バスが出て行くのが見えた。やはり間に合わなかった。
ここのバスは今まで20回くらいは利用しているが、乗り遅れたのは初めてである。年を追うごとに、アルペンガイドのコースタイムが自分の歩行スピードとだんだんかけ離れていっているようだ。プランニングのしかたを少し考え直さなければならない。
峰谷橋まで歩くしかない。持ち直していた空模様も再び怪しくなり、ほどなくどしゃ降りの雨となった。傘を差して車道を歩いていく。峰谷渓流釣り場や「下り」「雨降り」「雲風呂」など面白い名前のバス停を見ながら、40分くらいで峰谷橋に着いた。ここからのバスはさらに50分後。けれどあずまやがあって助かった。
今日はまあ梅雨の山らしくもあり、それなりに趣はあった。バス待ちの間、着替えて雨具をしまって、全てリセットして帰途に着く。