南関東・甲信の山にもこの冬、ようやくまとまった量の雪が降り、積雪を記録した。
例年、と言うより10年ほど前だと1月の雲取山なら少なくとも50㎝くらいの積雪があったのだが、ここのところは目に見えて降る雪の量が減っている。温暖化なら南岸低気圧が連発して南関東が雪になってもおかしくない。けれど日本の気象傾向はどうも違う方向に進んでいるようである。
鷹ノ巣山に久しぶりに登りたい。稲村岩尾根をじっくりと、とも思ったのだが体力的に持つか自信が持てないのが情けない。やはり峰谷からの道を登路としよう。
雲取山荘で週末に30㎝積雪、ということは鷹ノ巣山も同じ程度だろう。
鷹ノ巣山山頂
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工事中でシートがかけられていた奥多摩駅の駅舎をあとに、峰谷までバスで行く。終点で降りたのは3,4名だった。
バス停付近は日陰なので雪が残っていたが、林道を歩いていくと日当たりのいいところですでに雪は消えていた。奥集落を抜け、再び林道に出ると登山口の200mほど手前で車両通行止めとなっていた。人は通れるのでそのまま行く。奥の登山口から杉の植林帯に入っていくと、再び雪が現れる。今日は雪と土のまだら模様の歩きが続きそうだ。
浅間神社を過ぎ、檜の人工林の長い登りが始まる。いつもながらきつい。ここはもう何十回も歩いているが、最近は季節を問わずきつさが増してきている。鷹ノ巣山に登る一番楽な登山道でも、年齢的な体力の低下は目に見えて現れてくる。
ようやく広葉樹の浅間尾根に乗る。しいたけほだ場ができ、金網が張られるようになった。人工物が視界に入ってしまい興ざめなところもあるが、ミズナラ豊かな登山道は気持ちがいい。
少し高度を上げると今度はブナが多くなる。木々の向こうに日陰名栗ノ峰や石尾根がよく見える。高いところは南に面していてもそれなりに白い。
歩いている尾根の雪は、日当たりのよいところは完全に溶けて地面が出ている。一方、吹き溜まりでは膝上まで潜るところもあるなど、差が激しい。まだ一度しかまともな降雪がないからだろう。もう数回降れば積雪量は平準化してくるはずだ。
アシビの茂る道を過ぎると、雪は少ないのにトレースが怪しくなる。それにしたがって歩いていると、どうも正規の登山道とは違う方向に行っているのがわかった。そのたびに樹林の下を通って正しい道に復帰する。どうも方向がわからずあちこち迷って歩いている人が多いようで、自分もその間違ったトレースをはっきりさせることに加担してしまったようだ。
雪を被った水場を過ぎると、樹林越しながらきれいな富士山が見えた。少しの登りで鷹ノ巣避難小屋に到達する。ここは鞍部になっているのでいつも雪の量が多い。
若い女性が一人、縦走路を歩いてきた。昨日は雲取山荘に泊まったそうだ。やはり想像以上の雪が積もっており、吹き溜まりでは腰あたりまであったと言う。自分もそうだが、事前に○○cm積もっているいう情報を得ていくとそのイメージが固定化されてしまい、実際そうでなかったときにあれっ?と思いうろたえることがある。
今日は日帰り装備でアイゼンなど足回りもしっかり準備しているので問題ないが、担ぐ荷物が多くなってくると、こういう断片的な情報を頼りについ装備をおろそかにして入山してしまう、なんてことが命取りにならないよう、注意したいものだ。
小屋の前の寒暖計は0度前後。少し休んで山頂に向かう。鷹ノ巣山までの稜線は、やはり南面の雪は消え始め、ところどころ土が出ていた。さっき下から石尾根を見上げたときの印象とは、少し様子が違う。
西風が強く、高度を上げて振り返ると雲取山や奥秩父の山の向こう、南アルプスの稜線には雲がかかり始めていた。天気は西からゆっくり下り坂である。
鷹ノ巣山山頂に到着。大パノラマの中心に、これまた見事な笠雲のかかった富士山である。上空に強い風が吹いている証拠、やはり悪天の予兆であろうか。
稲村岩尾根を下ることにする。下りなら体力的に持つだろう。アイゼンを着けて出発する。
北斜面であり、歩きやすい雪質が残っているのを期待していたが、すでにあちこちで溶け始めていた。雪が湿っおり、アイゼンの裏に雪団子がすぐできてしまう。しかも雪の量が少なく、土が露出しているのでドロドロの雪団子である。ひどいときは10歩に1回、雪団子を蹴落とす作業が発生するのでなかなか歩きがはかどらない。
雪団子はアイゼンがきかないどころか、ともすると足首を痛める原因ともなる。今持っている6本爪アイゼンはKAJITA製で、プラスチックのプレートなど着いていない昔ながらのものである。プレートがついていれば雪団子の量も減ると思うので、そろそろ新しいものへの代え時だろうか。
上部はツガやミズナラが多かったが、高度を下げてくるとブナがたくさん見られるようになる。中には直径1mを越す巨樹もある。ここは原生林、もしくはそれに近い古い森林なのだろうか。そんな雰囲気がある。稲村岩尾根はやはり奥多摩、特に石尾根付近の尾根ではとりわけブナの多い場所である。
長い急な下りを経て、やっとのことで稲村岩との基部へ下り立つ。腰を下ろして時計を見たら、次のバスまであと40分くらいしかない。バス停まではここから意外に時間がかかるのだ。雪で歩きにくかったにしても、ちょっとブナ見物の時間が余計だったか。
休憩もそこそこに出発する。しかしここからの下りは雪がつくとかなり悪く、滑落の危険があるので要注意箇所だ。年には念を入れ、慎重に足を運ぶ。
沢沿いに下り立ちまずは一安心。しかしここからも雪と土のミックスしたいやらしい道が続く。バスの時間が気になり、急ぎ足であるいたのがいけなかった。何かに突っかかり前のめりに転倒してしまう。幸い大事には至らなかったが、気持ちに余裕がなくなるといつもこうなる。
しかし奥多摩の山をひとつ越えるだけでも、最近はきつく感じることが多くなってきた。
雪が消えたところでアイゼンを外す。これでスピードアップできるが、バスに間に合うかは微妙。次の便まで1時間半も間があるので、何とかその前のバスに間に合うように急ぐ。
巳の戸橋を渡ると無常の登り返しである。日原街道に上り小走りに進んでいると、地元のおばさんから「バスもう出るわよ」とせかされた。こうなったら意地でも間に合わせるしかない。
東日原バス停に着くと、バスは発車合図のウインカーを出しているところだ。何とか間に合った。バスの座席は満員だった。
奥多摩駅に着いてバスを降り、泥だらけのスパッツを外す。