鷹ノ巣山へは1998年以降毎年登っていたが、昨年それが途切れた。
ツツジ咲く初夏、紅葉もいいがやはりこの山は冬の眺望である。富士山や南アルプスをバックに、白くなった奥多摩を始め南関東・甲信の山々を見渡す絶好の展望台となる。
鷹ノ巣山山頂
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奥多摩駅からの峰谷行きバスは、登山者で座席がほぼ埋まった。御前山登山口の奥多摩湖で数人が降りたほかはほぼ全員が終点下車。鷹ノ巣山は四季を通じてあいかわらずの人気だ。
峰谷から歩き出す。日陰の路面は雪で白くなっているものの、溶けてしまった場所も多い。奥集落の民家の日当たりの良い斜面は、ほとんど雪は消えていた。
林道と山道を登り、奥登山口までだいたい1時間弱。体が重く足が前に出ない。上の方では風が音をたてて吹いている。今日は北風ではなく南成分の入った西風が主な風向との予報となっている。日差しもあるので凍える寒さにはならないだろう。
浅間神社から杉、檜の植林帯を急登する。体の重さは変わらず、ところどころ現れる雪も水分が多くて歩きにくい。ミズナラとブナの稜線に出ると青空と雪の眩しい登山道となった。新しめの手製のベンチがあったので腰を下ろし、アイゼンとストックを取り出す。サングラスもしていく。
快適な雪道歩き、といきたいがところどころ雪は消え地面が露出している。木の間から見上げる日陰名栗ノ峰も、山頂の一番高い稜線部分が白いだけで、カヤトの斜面は茶色のまま。今回の雪は、日当たりの良い南面は特に雪解けが早かったようである。
足運びの気だるさは続き、アシビの茂る尾根を過ぎるころは休み休みの歩きになってしまった。稜線に近づくにつれ、風は予報通りかなり強そうなことがわかってきた。
水場を過ぎて左手の斜面から富士山が見えた。あちらも強風の影響か、頂上付近に雲がまとわりついている。
石尾根に出て、鷹ノ巣避難小屋に到着。浅間神社から1時間40分もかかってしまった。年々遅くなっている気がする。頭上はきりりとした青空だが、風が強そうな山頂は通過するだけとし、避難小屋の脇で昼食にする。外のベンチではなく、小屋の横にも数名座れるスペースがあり、ここは全く風の影響を受けない。ただしコンクリートの上なのでアイゼンは外す。
扉の横の寒暖計はプラス1度を指していたが、外は風もあって体感温度は5度くらい違いそうだ。登山者は三々五々、結構な数が行き交っている。
食事をし、風が強い中山頂を目指す。この登りもところどころで雪が消えていて、それがかえって歩きにくい。雪面がデコボコして足裏の角度が一定しないのだ。今日はいろんなところに歩きにくさの理由を見出そうとしている。
振り返ると日陰名栗ノ峰を前景に雲取山、飛竜山など奥秩父の山々のパノラマが広がる。ただし山梨県の西部には大きな雲がかかっており、南アルプスは全く見えない。今回は寒気が北からではなく西回りでやってきているため、こういうときは西側の高い山の眺めは得にくい。一方、富士山は先ほどまでかかっていた雲が取れ、てっぺんまで見えるようになっていた。
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雪原と鷹ノ巣山 |
榧ノ木尾根の雪面に日が差し込み、樹林の長い影を形作る
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樹影 |
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倉戸山 |
倉戸山からの下りの尾根道。右側(南面)は雪が消えているのに対して左(北面)はまだ白い
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左右で対照的 |
倉戸口へ下りルートでは、下部で凍結あり。急斜面につき滑落に注意が必要
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凍結注意 |
倉戸神社を過ぎ、奥多摩湖が見えてくれば間もなく倉戸口バス停となる
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ようやく下山 |
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鷹ノ巣山山頂に到着。小屋から30分かかった。丹沢や大菩薩、御坂の山々をまとめ上げるように霊峰富士が大きい。鷹ノ巣山で富士山を見ることができたのはいつ以来か。日帰りだといつも登頂が12時近くになってしまうので、朝天気が良くてもなかなかその時間まで好天が持ってくれない。
山頂の新しい山名柱も初めて見た。ずいぶんと高級そうな標柱である。通過するだけのつもりだった山頂に20分費やし、下山とする。
ところどころ土の出ている石尾根から分かれて榧ノ木尾根に入る。こちらも南面の部分が多いせいか雪の深いところはない。高度を下げて、トレースのない水根沢林道が分岐してからはやせ尾根の登り返しとなる。
雪面に差し込む日は、心なしか先週までのものより強く温かみが感じられた。大寒を過ぎて立春を前にしたこの時期、季節の転換点である。
榧ノ木山を巻き下り傾向となる。石尾根稜線の方は風が音をたてて吹きすさんでいる。杉林をかすめて緩やかな登りに転ずる頃は尾根道も広がって、倉戸山に到着する。
木の間から富士山が見える。以前の倉戸山は富士山がよく見え、桜の木もあるのでいいお花見の山となっていたようだが、近年は樹林が伸びて富士山は見づらくなった。自分も展望の良い倉戸山は知らず、木の枝越しとはいえ富士山を見ることができたのは初めてかもしれない。それほど今日はいい天気だった。
トレースのない女の湯方面ではなく倉戸口へ下る。急な下りと穏やかな尾根歩きが交互におとずれる。東西方向に伸びる尾根道では、右側の南斜面は日がさんさんと照りつけ雪は全くないのに、反対の北側はまだ雪で真っ白で対照的だ。
大方は南に面しているので落ち葉を踏みながら下るが、日陰は完全に凍結している。奥多摩湖を正面に見ながら急坂を下るところでは完全にアイスバーンになっており、迷ったがそのままの通過は危険と思いアイゼンを付け直す。今日は尻餅をつく場面が多かったので用心深くなっているが、冬の低山こそ油断は大敵である。
結局20mほど先でアイゼンは不要になった。余裕だと思っていた16時台のバスは、アイゼンの着脱などに時間を取られた結果、間に合うか微妙になってきた。倉戸口への道は短いようで長い。
それでも程なく倉戸神社に下り立ち、バスに間に合う目処がたった。倉戸口のコースは短い中にも変化があり、葉の落ちた時期だと奥多摩湖を見下ろすことができるが急坂の下りには要注意である。
倉戸山登山口には山野井さんが描いたとの噂の絵が飾られていた(山野井さんの自宅はこの近くらしい)。数分で倉戸口バス停に着く。
雪道であることを差し引いても、今までにないくらいの時間を要した鷹ノ巣山山行だった。齢とともに足が弱ってきているとは考えたくないが、もう認めるしかない。冬の奥多摩の山は今後、もう一回り余裕をもった計画にしたほうがよさそうだ。