弔事のため、しばらく山を控えており、この3連休から再開することにした。
一昨日は高尾山に登ったが、1か月半も空いていたせいか最後はバテバテでの下山となった。コロナ禍で感染者急増の3連休、しかし高尾山は早朝から多くの人であふれ、お昼ごろになると1号路は大混雑だった。
そして今日は高水三山に登る。
柚子の香り漂う沢井の里道 [拡大 ]
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今年の3月以降、どうも電車に乗るのがいやでずっと車でアプローチしている。電車だと自分の場合、山手線で渋谷や新宿駅を通らなければならない。早朝は飲み明かした若者が大挙乗車してくるのでこれだけは避けたいのだ。また、座るにしてもお尻の横を他人と接することになるので、これがいやだった。神経質すぎるかもしれないが、感染を防ぐためだったら手段をあまり選びたくない。
そして今日も車で来た。高水山登山に車なんて、普通なら考えられない。だいたい駐車場はあるのだろうか。調べると、軍畑駅周辺に無料の駐車場があったので利用させてもらう。
吉野街道沿いにある柚木苑の駐車場に行くと、早朝のため閉まっていた。軍畑園地駐車場に行ってみる。こんな時間からすでにほとんど満車で、何とか最後の1スペースを確保する。
川沿いのこの駐車場はラフティングや釣り客で、朝早くから埋まってしまうそうだ。
軍畑大橋を渡って、高水山に向かう車道歩きとなる。青梅線の赤い鉄橋をくぐる。鉄橋のすぐ横が軍畑駅だ。いつもはこの高台にある駅から出発するが、今日はそこまで上がらない。
平溝橋を左折し、川沿いの道を歩く。周囲の木々はすでに落葉したものも多い。1か月半歩いていなかった自分にとっては、季節がタイムマシンのようにワープして進んでしまった感がある。今年は高山も低山も、紅葉の盛りに登ることができなかった。
高源寺横の坂道を上る。栗や柚子のなる木を見ながら歩き、登山口に至る。しばらくは薄暗い人工林下の登りとなる。尾根に上がり、ベンチのあるところで振り向いたが、いつも見えていたスカイツリーは見えない。木がずいぶんと成長し、展望地と呼べなくなった。
その後も見通しは悪いが、晩秋の静けさとひんやりとした空気が心地よい。同じ森の中でも、やはり山の空気は下界の森林公園のそれとは違う。
高水山常福院の手前に、大きなブナが立つ。2本のうち1本は倒れてしまっているが、根元にたくさんの実(どんぐり)を落としていた。周辺を見てもブナはここにしかなく、この先の岩茸石山にかけてもありそうにない(イヌブナはある)。山頂が信仰の地なので伐られずに残されたのだろう。
1本2本でも、奥多摩の標高700m程度の山でブナが見られるのは珍しい。
紅葉に敷き詰められた石段を上がり常福院。その裏手を登っていくと、南に相模湾が見えた。大岳山や御前山も大きい。赤黄のイロハモミジやコハウチワカエデが季節の移り変わりを演出している。
高水山山頂からは樹林越しながら、筑波山や北関東の山々の眺めが得られる。風もなく物音ひとつない。ここは静かな山の代表格のような場所だ。
急坂を経て、落ち着いた雑木林の道になる。日光の山が見える場所が2つほどあったと思うが、今日は通り過ぎてしまう。樹林の葉がまだ少し残っているので見過ごしてしまったか。
奥多摩でも人気のコースなので、時々人に出会う。それでも一昨日の高尾山に比べれば人の数は10分の1、いやそれ以下だ。岩と木の根の露出した登りをこなして、岩茸石山山頂に立つ。
冬と違ってススキの穂が若干眺めを遮る部分もあるが、大展望の山であることは変わらない。筑波山や日光、奥武蔵の山が勢揃いしている。西側には川苔山、雲取山など奥多摩の山に大菩薩嶺も。ちょっと遠く見えづらい日光の山は別として、雪で白くなっている山はまだないようだ。
高水山の山頂の上にはスカイツリー、その右側に都心の高層ビル群が居並んでいた。
下部の谷から犬の遠吠えが聞こえてくる。奥多摩も狩猟の時期になったか。山頂には次から次へと登山者が登ってくる。そんな中、1匹の犬もやってきた。どうも飼い主は山頂にいないようだ。猟犬のような筋肉質の犬なので、もしかしたら狩猟の最中ではぐれたのだろうか。
惣岳山に向けて出発する。平成26年豪雪の時、1m以上の積雪の上を歩いたことを思い出す。さっきの犬がついてきた。やはりはぐれ犬だったようだ。心細いので人の後をついてくるのだろう。
登山道はところどころ岩の突き出た部分があるが総じて穏やか。左手が開けた箇所が何度も出てくる。この辺りは大きな伐採が入っているようで、ずっと下の斜面まで山肌があらわになっていた。おかげでさっき出発した岩茸石山、高水山ともにいまだ全貌を現している。
ゆっくり歩いているので、犬はしびれを切らして先に行ってしまった。
惣岳山直下の斜面は岩の急登で、このコース唯一の要注意箇所である。東側が伐採で真下まで見えているので、少しスリルも味わう。社のある惣岳山は杉林の薄暗い山頂だった。
小休憩ののち下山とする。いつもなら御嶽駅に下るのだが、今日は軍畑に車を置いてある関係で、できるだけ東のほうに下りたい。惣岳山から沢井駅に下山するコースもあるので期待したが、伐採作業中で通れないようになっていた。
御嶽駅に向けて南下する。人工林下の道は長く続く。けれど静かで、奥多摩らしい山深さが感じられる。杉の木はどれもきれいに枝打ちされていて、スラリとまっすぐ天を突くように伸びている。こういうのは完満材といって、上から下まで径の揃ったいい材になる。枝打ちがなされないと太さの均一でない材が出来上がってしまうという。
人工林を歩いていると、低い位置に枝葉がなく、こずえのあたりにしか茂ってない杉をよく見る。変な育ち方だなと最初は思っていたが、良材を生産するためにあえてそうしているのである。
この高水三山は、最初は奥多摩の入門コースとして、初心者時代の20年以上前に最初に歩いた。その後は登山としては物足らなさも感じ足が遠のいたこともあった。しかし最近は棒ノ折山へのルートの組み合わせながら、3年ほど連続して歩いている。自分の体力の低下とともに、また舞い戻ってきたとも言えるが、純粋に奥多摩の山の雰囲気に浸れる、いいコースだと思う。
御嶽駅までもう少しというところで、左手に沢井方面に下る道があった。こちらに行ってみる。すぐに木の間から人家が見え、林道に下り立った。少し下ると惣岳山山頂にある青渭(あおい)神社の里宮がある。
正面に御岳山の支稜を見上げながら、のどかな里道を下っていく。斜面には柚子がたくさん植えられ、ほんのりと甘酸っぱい香りが漂う。この季節ならではだろう。青梅線沿いの道となり、沢井駅ももうすぐだが、ここまで下れれば歩いて軍畑まで戻れそうだ。
その前に、沢井といえば東京が誇る銘酒「澤乃井」である。小澤酒造の向かいにある澤乃井園に寄っていくことにする。ちょうど新酒の時期で、野外の飲食コーナーはたくさんの人で溢れていた。
運転のため今は飲めないので、720mlの新酒を2本買っていく。いいおみやげができた。軍畑の駐車場まで1km半くらい、頑張って歩いて戻る。