日本列島は年明けから、北日本や北陸中心に超一級の寒波に見舞われ各地で大雪となった。
最近は、初夏や夏に雨が降らず水不足となる中、突然豪雨に見舞われ被害が出るなど、以前に比べて極端な天候が多くなったのだが、冬の天候も同じような傾向がある。群馬県みなかみ町の天神平スキー場は3日間で2メートルくらい一気に積もり、除雪が追いつかず一時営業見合わせとなった。ただ、トータルの積雪量としてはまだ例年並みかまだ少なめなのだ。
雪や雨は同じ量が降るのでも、長い期間をかけて少しずつ増えていくのと、一度に降るのとでは、社会に与えるダメージは違う。もちろん後者のほうが影響が大きい。単に月間降水量の数字だけを比べて論じるのはあまり意味がないのである。
スキー場にしろ山登りにしろ、自然を相手にする商売や趣味は、近頃こうした極端現象にも気を配らねばならず、やっかいものがまた一つ増えた感じだ。
大ダワから大マテイ山へ、トレースのはっきりしない雪の斜面を登っていく
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今回の寒波は、山を越えて太平洋側にも影響し、西日本や奥多摩など各地の山でも積雪となったようだ。西高東低の気圧配置は一般に南関東・甲信地方は好天になるが、低気圧の進行方向によっては雪雲がこのエリアにも進入してくる。
中国の山脈や能登半島の存在がそのあたりの天気傾向の複雑さの要因となっているようだが、詳しいことは気象専門分野のことでありよくわからない。
日曜にいったん家を出て中央線まで乗ったのだが、西の山並みの上に大きな雲がかぶさっており、今日は登山の日ではないと判断し帰宅した。
あらためて翌月曜日、奥多摩の最奥地にある鶴寝山を目指す。地味な山であるけれども標高は1400m近くある。積雪量はおそらく、一年最初の雪踏みとしてはちょうどいいくらいだろう。
電車から見る奥多摩の山は、今日も雲は出ているが昨日ほどではない。しかし気温が低いのは変わらず、東京都の朝の気温は今日も氷点下だった。
冬の平日の青梅線、登山者はほとんど見かけず、奥多摩駅では学生が多数下りた。小菅の湯行きの西東京バスも、自分以外に登山の格好の人は一人だけ。その人は留浦で下車したので雲取山か。大きなザックはテントだろうか。今夜のテン場は氷点下10度くらい軽くいきそうだ。
奥多摩湖畔は至るところで雪が残っており、小菅に向かう途中の金風呂やキャンプ場周辺の山肌はすっかり白くなっていた。
小菅村役場前バス停で降りる。役場が改築されてウッディな建物になっていた。養魚場横の川久保登山口までは指導標がなく少々わかりにくい。登り始めに、小菅村を前景に鹿倉山が大きく見えた。
登山口から道は雪で白くなっているが、トレースは太いのでよかった、と思ったらそのトレースはすぐ脇の民家の玄関へ続いているものだった。その先に続く登山道には足跡が一つもなく、この土日で誰も歩いていないことがわかる。
最初の、わさび田を見ながらの植林下の登りは、多くて10cmくらいの雪だったので、ノートレースでも問題ない。しかし高度を上げ、上部に自然林が見えるようになる頃には足首が潜るくらいの積雪になった。重くて滑りやすい雪質で足が前に出ない。
標高1000mを越え、見通しのいい自然林になると傾斜も緩み、少しゆとりができた。モロクボ平で小菅の湯からの道を合わせる。そちらにはトレースがあった。下りの足跡だったのでおそらく土日に大菩薩峠から牛ノ寝を歩いてきて下山した人が複数いたのだろう。
今日のバスは小菅の湯まで行く便だったので、小菅の湯から歩き出してもよかった。
モロクボ平からは積雪量は増えたがトレースもついて歩きやすくなる。自然林の尾根は展望が開けることはないものの明るく、雲取山や奥秩父山塊を見ることができる。
尾根の東側を巻く部分では雪が溶け土が見えている。反面、高指山を西側から巻く日の差さない方に入るととたんに雪が増え、吹き溜まりでは50cmくらいになった。トレースはずっと太いように見えていたのだが、実際は2名程度のもので、雪が深くなるとだんだんと頼りないものになってきた。
山入沢方面への分岐を見送り、さらに進む。雲取山や飛竜山、三頭山どれも雪をしたため、雁坂峠方面は雪山になっている。
周囲の見通しが良くなって、大ダワに着く。牛ノ寝の稜線との合流点で棚倉とも呼ばれる。以前はここから雲取山や飛竜山がよく見えたのだが、ここも樹林の背が高くなってしまった。
登山道はこの辺りで積雪30cmくらいで一面が白い。大菩薩方面からのトレースが細々とやってきていたが、鶴寝山や松姫峠の方向は足跡がない。しかしここまで来たのだから、すぐ先の大マテイ山までは登っておきたい。
ラッセルかと思い雪の少なそうな斜面を探しながら進む。と、再び一筋のトレースが復活した。どうも今日はトレースがあったりなかったりである。部分的に風で雪が舞いトレースをかき消していたのかもしれない。
指導標にしたがって山頂を目指す。方向が何度か変わり、局所的はあるがこの辺りは地形が複雑だ。
一旦平坦になり山頂かと思わせるも、さらにその先があった。標高1400mを越え、樹林の中の大マテイ山に到着する。雲が多くて富士山は見えず、すぐ近くの稜線上の山しか見えない。ベンチでゆっくり休憩する。気温は低いのだが、風は弱いので凍えるほどではない。
鶴寝山方面へ細いトレースは続いていた。このあたりは鬱蒼とした自然林の中のだだっ広い平坦地になっており、特に今日のように一面が白くなっていては、テープやトレースないと迷いそうだ。
大マテイという山名は、「大きく惑う」から来たという説があるようで、今では山稜一帯が牛ノ寝の登山ルートとして整備されているが、以前は夏も冬もわかりにくい山だったのだろう。
ここまで予想以上に体力を使ってしまった上に、展望も得られなさそうなため、鶴寝山へは行かないことにした。今日はここで来た道を下ることにする。
自分のつけたトレースを利用して下っていくので、登りに比べてかなり楽である。この調子で下り、温泉にゆっくり浸かっていきたい。
大ダワから下っていくとき、今までは巻いてばかりだった高指山のピークを踏んでいこうと思い立ったのが運のつき。
登山道から分かれる支尾根の登りはアシビの混じる緩やかな斜面で雪も少なく、簡単に登れた。しかし高指山山頂と思われるところは山名板もなく、展望もない狭い場所で期待はずれだった。
山頂から進行方向に下っていくのは急坂になることは地図を見てわかっていたが、実際山頂から見下ろすと想像以上の急斜面である。取付いた場所に戻ろうかとも思ったが、このまま進むことにし、念のためアイゼンを装着する。
しかし、水分の多い雪がまだらにつくやせた尾根が続き、肝を冷やす場面が連続する。木につかまりながらなんとか下り登山道に復帰したが、かなりの時間を要してしまった。雪がなければそれほどの難しさはなかっただろう。
うそのように歩きやすくなった登山道を歩き、モロクボ平に着いた。
小菅の湯に直接下る道に入る。標高が下がって雪もかなり少なくなったためアイゼンを外す。田元橋への道を分け、植林をジグザグに下り田元の集落の外れに下り立つ。
民家や民宿の建つ中を歩いていくが、人の気配を全く感じない。今日は山の中でも誰一人として会わなかった。
里道を少し登り返して小菅の湯に到着した。高指山からの下りで苦労して、温泉にゆっくり入る時間の貯金を吐き出してしまったのが残念。だが今日は意地でも温泉に入っていく。
平日の冬の日、小菅の湯はガラガラで大きな内湯を独り占め状態だった。
30分後にやってきたバスで奥多摩駅に戻る。帰りのバスもガラガラで登山者はずっと自分一人。途中、病院前で地元のおばあさんを一人乗せただけたっだ。登山ブームに湧き立つ奥多摩も、冬の平日は昔の姿に戻っていた。