奥多摩駅からの東日原行きのバスは、増発して2台となる。別に川乗橋行きの臨時バスも出ていて、そちらにも多くの人が乗車した。
今日は朝からはっきりしない天気だが東日原では青空も覗いていた。
霧深い一杯水避難小屋
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久しぶりにヨコスズ尾根を登る。三ツドッケに登った後は東の都県境尾根方面へ行く。
滝入ノ峰分岐点でトチノキの大木が倒れ、道を半分塞いでいた。その先は人工林と新緑の雑木林との間につけられた直線状のトラバース道となる。この部分は長く同じような景色が30分ほど続く。
見通尾根からの踏み跡が合流し、ようやく人工林から離れる。カエデやミズナラの林はすでに緑が濃くなりつつあった。青空はなくなり、高度を上げるとガスがかかってきた。ずっと晴れた山を歩いてきたので、こういう天気は逆に新鮮でもある。
ヤセ尾根でトウゴクミツバツツジを見る。最初に目についた花がおしべが5本しかなかったので、ミツバツツジかと思った。ただ他に10本の花もあったのでトウゴクだろう。同じ木に5本と10本ものが混ざっている。
トウゴクミツバツツジはオシベが10本と言われているが、開花したてのころは5本で、そのうち後から5本伸びてくるのだろうか。違うかもしれないが、少なくとも10本のおしべの伸びる早さは違うように思う。
シロヤシオもヨコスズ尾根にはあるのだが、花芽を2,3見たのみで、開花しているのは全く見られない。一カ所、白い花を満開状態でつけている木があったので、近寄ってみたらオオヤマザクラだった。
アシビも今が花期のようだし、今年の山の春はやはりここ数年と比べて、ひとサイクル遅れている。トウゴクミツバツツジも咲いてはいるが花はかなり少ない。
ブナも大木含めよく見るが、どちらかというとミズナラが主の尾根である。
枯死したツガの大木を見て、一杯水避難小屋に着く。ガスで見通しが悪く、三ツドッケに登っても何も見えないだろう、と思って登るのをやめようかと思ったが、とりあえず稜線まで行くことにする。
小屋の裏手の急坂にはブナの大木が点在していた。このあたりは芽吹き前の木も多い。稜線上に出る。やはり山頂まで行くことにする。2つのコブを越え、急登して登りついた3つ目のコブが三ツドッケである。
北方向にいまだ未踏の北峰が見える以外は、四方乳白色の眺めだった。肌寒く、手が冷たくなってきたので手袋をする。
避難小屋には下りず、尾根通しに進む。尾根通しだと一杯水の水場は通らず、川俣方面への分岐を示す指導標のあるところで、都県境尾根の登山道に合流する。合流はしたが、今日は登山道をそのまま行くのではなく、尾根筋を辿ることにする。
三ツドッケから日向沢ノ峰にかけての都県境尾根は、登山道は尾根の南側を通っている部分が多い。全体的に歩きやすいのだが、始めのうちは変化に乏しく単調なきらいがある。尾根通しは薄いながらも踏み跡が続いており、迷うようなところもない。すぐ下に登山道が見えているところも多い。アカヤシオなどツツジを見るなら尾根筋のほうがいいだろう。
登山道だとカエデなど南面の柔らかな広葉樹の森が見られるのだが、尾根通しはブナの巨木が多い。他の山域に比べ、樹齢のまだ若そうな直径10㎝くらいのブナもあちこちで見られ、葉をつけていた。
数十年前、昭和のころにはある程度、実生更新があったのかもしれない。三ツドッケより東側にもこんなにブナが多くあったのかと、驚いた。
しかし倒木や枝折れも多い。。登山道が尾根上になるところで今までも見ていたブナの大木は、太い枝が折れて地面に横たわっていた。この枝折れは見た感じでは数年前からのものと思われたが、ほかは新しいものも多く、おそらく昨年の台風で倒れたり折れた木が多かったのだろう。
天候はある程度回復し、明るくなってきた。小さなピークに上がると「棒杭ノ頭」の表示がある。意外と距離は進んでいない。
枯れかかった笹原を過ぎて、仙元峠に着く。ここまで、登山道のコースタイムの2倍近くかかってしまった。尾根通しだとアップダウンの連続なのでやはり時間がかかる。目を見張るようなブナが多かったことも歩みを遅くした原因だろう。
今日はこれ以降、日向沢ノ峰から有間山まで行くつもりだったのだが、時間が足りなくなりそうだ。次の蕎麦粒山から鳥屋戸尾根で下山することにした。
蕎麦粒山から南に向きを変える。鳥屋戸尾根は数年ぶりで、そのときは一斉に笹が枯れていた光景を目にしたが、今日はその枯れ笹そのものもきれいさっぱりなくなっている。
こんな、跡形もない状態に変わってしまうのだから、今の姿を見て過去はどうだったなどと簡単に推測するなどは、ほとんど無意味に等しいとも言えるだろう。
鳥屋戸尾根にもブナの巨木は多い。少し標高を落とすとイヌブナがたくさん見られ、双葉の赤ちゃんも地面の落ち葉から顔を出していた。
しかし、一昨年の同時期に満開だったシロヤシオはほとんど見られない。全く見られないのではなく、たまに見る。それも1本の木に1輪だけ咲いているようなあんばいだ。縁の赤い葉だけが変わらず、空間を隙間なく埋めるようにいっぱい展開している。
松岩ノ頭、塩地ノ頭と小さなピークを越えていく。標高を下げるとようやく、複数の花をつけたシロヤシオが見られる。笙ノ岩山周辺には満開近い木が1本だけあった。奥多摩のシロヤシオは3年に1回当たり年となるらしい。
少し前から履き続けている靴の状態がよくなく、足に合わずかかとやくるぶしに痛みを感じる。靴のせいにするのはよくない。足の筋肉が落ちてきたのか、最近は歩き方が乱暴だったりちょっとした段差を越えたりすると、ショックが吸収できずに負担が足に残ってしまう。
ただ、ソールの柔らかい軽登山靴では自分の体を支えられなくなってきたようだ。日帰りの軽い山でも、それ相応のしっかりした靴にしたほうがいいかもしれない。
痛い足を引きずるように、鳥屋戸尾根下部の急坂を踏ん張って下る。4時台のバスはとっくに諦めた。
川乗橋へ下山する。バス停前には誰もおらず、タクシーが1台停まっていたが、自分が乗らないとわかったらすぐに去っていった。1時間半後のバスで奥多摩駅に戻る。
怪しい空模様がずっと続いたが、最後までで降られなくてよかった。ツツジの少なさと、都県境尾根のブナの多さが印象に残った1日だった。