上野原駅のバスターミナルに着くと、sanpoさんに声をかけられた。同じく鶴峠から三頭山に登るというので、一緒に行くことにした。
sanpoさんは高尾山スミレオフで毎年ご一緒するが、以前にも三頭山や黒川鶏冠山で偶然会っている。行く山が似ているのでよく鉢合わせするが、最近は自分が新潟ほか遠方によく行くようになってからか、あまりバッタリがなくなってきた。
三頭山へは2ヶ月前、都民の森イベントに参加して都民の森のコースを歩いている。紅葉はやはり11月に入ってからがいい。
「ウェルカムのブナ」。向山分岐付近 [ 拡大 ]
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バスはほぼ満員で増発が出た。終点の鶴峠に着くと三頭山方面、奈良倉山方面と登山者が分かれるが、奈良倉山に向かう人のほうが多い。鶴寝山から牛ノ寝を歩き、小菅の湯に下れるのが奈良倉山コースの魅力だろう。
鶴峠から三頭山に向かう道は昨年の新緑時にも歩いている。ブナやイヌブナほか多種多様の樹木が見られ、都民の森よりもずっと静かである。長いがきつい登りは最後くらいしかない。
登山口に入る。尾根に上がるまでは杉やカエデ、ケヤキ、クリ、ホオノキなどの雑木林である。ホオノキは好む生育環境が杉と近いそうだ。そう言われてみると、たしかによく同じ場所で見ている気がするが、ホオノキは地域を問わず、標高の低いところならでどこにでもある。
尾根に出ると涼しい風が通った。この付近は標高1000m前後で色づいた木も見かけるが、まだ緑が優勢だ。イヌブナやブナ、コハウチワカエデ、イタヤカエデ、シデもある。登山道の両脇を彩る黄葉はコアジサイ。クリーム色に色づいた中高木はアオハダということが分かった。樹皮の内側が青緑なのでよくわかる。アオハダはこの先にもあちこちで見られた。
大きなハート形の葉も地面にたくさん落ちている。分裂していないカエデの一種、ヒトツバカエデだろう。
向山との分岐付近。倒木もなく、台風の影響はなかったか、あるいはすでに片付けられたのかもしれない。斜度のない歩きやすい道が続いている。
この鶴峠道は、ヌカザス尾根と結ぶ北面巻き道の合流点に来るまで、ほとんど標高を上げないため、頭上の紅葉もあまり変化が見られない。ただ、何となく樹木上の葉にボリューム感がなく、例年に比べてスカスカっぽい印象がある。これは先々週の御前山でも感じたことだ。台風や大雨で葉が飛び散るか落ちてしまったのだろうか。sanpoさんいわく「木に元気がない」。確かにそんな例えが当たっている。単に残された葉の量だけではなく、森全体の生命力が細いようにも見える。
緩い登りが続き、巻き道分岐の少し上、鶴峠道での最大のブナを見る。以前自分で実測したときは、幹回り420㎝だった。他の山でたくさんブナ巨木を見てきたので、初めて見た時の驚きは感じられない。それでもやはりこのブナは、他を圧倒する存在感がある。
ところで巨樹・巨木などと一般に使われる言葉だが、環境省(庁)は1988年に巨木の定義をしている。それによると、地上130cmのところの幹回りが300㎝あるものを巨木と呼ぶそうだ。また、一般には幹回り500㎝を巨樹と言っている(樹高は巨木・巨樹の判定には入っていない)。
幹回り500㎝とは直径160㎝なので、この鶴峠道最大のブナは「巨木」だが「巨樹」ではないことになる。杉やクスノキならそこそこあるとは思うが、ブナで巨樹と呼べるものは日本でもあまりなさそうだ。自分が今まで見た中では、伊豆山稜線歩道の「手引頭のブナ」が唯一のブナ巨樹に入る。
道は急登に転ずる。神楽入ノ峰までは遊びのない登りでつらい。でも今日のルートできついところはここだけ。周囲の木々は次第に落葉が目立ち始め、紅葉もピーク過ぎとなった。しかし目線を少し下にすると、まだ緑の部分も多い。今年は紅葉した後にすぐ落葉してしまっているよう。まさに元気がないという表現がぴったりだ。
神楽入ノ峰の狭い山頂に立つと、急な登りもようやく収まり、アップダウンを交えて緩やかに高度を上げていく。この辺りはブナに代わってミズナラが多くなる。
少し先の岩ピークからは富士山が見えた。分厚い雲から頭だけが出ている。三頭山の山頂もようやく見えてきたが、比較的大きなピークをひとつ越える。
冬枯れと言ってもいい中を最後のひと登りで、三頭山西峰に着く。今までの静かな道と比べ、山頂は人であふれていた。大人数のパーティーも多い。
切り開きからまだ富士山が見えている。樹林に囲まれた三頭山山頂も、葉が落ちた今の時期は意外と眺めが楽しめる。北側は木の背丈が伸び、以前は見えた奥多摩湖も見えなくなってしまった。石尾根や都県境尾根の山並みはよく見える。
下山は都民の森の西縁を歩く。避難小屋から大沢山を経て三頭大滝方面へ下る。この予定していたルートも、今日はsanpoさんと偶然同じだった。行く山だけでなく、最近はルート採りも似てきたようだ。
山頂からの下りはすっかり葉が落ちている。前歩いた時もそうだったが、ほかの尾根で紅葉がまだ見られても、ここの南面の登山道だけは落葉が早く、すでに冬の姿になっている。樹種の違いはあるのだろうか。
オレンジ色に色づいたヤマボウシ、クリーム色のクロモジがわずかに残っていた。クロモジは春の花をつけた時期だと容易に同定が可能だが、それ以外の季節は他の木と紛れてしまう。葉が枝先に集まってつているくらいが特徴だろうか。
この尾根は南側ということもあり、アシビやモミなど常緑木も見られる。
三頭山避難小屋を過ぎ、大沢山へ登り返す。大沢山山頂も西側の樹林が伐られ、富士山が見えるようになっていた。真っ赤に紅葉した低い木が目を惹く。赤い実をつけており、ガマズミの仲間かと思うがはっきりしない。
分岐で左折し、下っていく。モミの多い、ややゴツゴツした尾根道となる。都民の森のコースとしては少し異色かもしれない。ここでもブナの大木があり、三頭山のブナの生育範囲の広さがわかる。紅葉した木々の向こうに大沢山のきれいな三角錐が見上げられた。
日の傾くのも早くなり、日陰になる部分が増えてきた。ブナの路に合流する。沢に沿ったこの道は、都民の森の道の中でも自然度が高い。9月の都民の森イベントでも歩いたが、少し登ってみることにした。
サワグルミ、シオジ、カツラの大木が次々と現れる。樹高は数10m、どれも高木でもある。ハルニレの葉があった。イベントの時にオヒョウ(ハルニレの仲間)の葉を見つけたが、それかもしれない。いずれも南関東の山ではなかなか見ない。三頭山はやはり樹種が多い山である。さっき「オノオレカンバ」というカンバの木があったが、他の山で見たことがない。
三頭大滝に下る。ウッドチップの道を歩き、都民の森で今日の歩きは終了する。
バスは増発して2台になった。今日は樹木の話ばかりになってしまって、sanpoさんには申し訳なかった。ただバスの中でも図鑑を見ながら、今日見た木の話になってしまった。