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●雪降る石尾根をひたすら行く 翌朝はどんよりとした曇り。昨晩はあれほど満天の星空だったのにわからないものだ。 山荘のテレビではモーグルの里谷選手が銅メダルを取ったと伝えている。
朝の雲取山頂へ。富士山は行方不明。周囲の山々も初めこそは見えていたが、だんだんと灰色のベールの中に溶けていってしまう。しばらくすると小雪がちらつき始めた。 避難小屋は盛況だったようだ。出てきた人から「里谷が銅メダルだそうですね」と話しかけられた。 小雪の舞う中、石尾根を下り始める。展望がなければ、おとなしく鴨沢に下ることも考えたが、今日は調子がいい。行けるところまで行こう。 雪の山道は何度か歩いているが、降っている中を歩くのはこれが初めてかもしれない。一度しまったカメラを取り出した。 小雲取、奥多摩小屋と通り過ぎ、七ツ石山への登りへ。けっこう人が歩いている。いつもは息が切れる登りも、今日はすいすい行く。 降る雪は少し強くなって来たようだ。七ツ石山からの展望は、石尾根の白い防火帯がかすかに浮かび上がって見えるのみ。
千本ツツジの稜線の方にはトレースがないので巻き道を行く。峰谷分岐を過ぎ高丸山、日蔭名栗ノ峰の下部を巻く。これが長く感じる。 鷹ノ巣山避難小屋に着く。降り続く雪はもはや「小雪」とは呼べなくなった。ただし歩くのに難儀するほど視界は閉ざされていない。 小屋前の寒暖計はマイナス8度を指していた。中で食事にする。まだ寝ている人がいた。 さあここで峰谷に下るか。しかし足は鷹ノ巣山山頂に向く。スキーで滑り降りてくる人とすれ違う。山頂は展望なし。 東側からゆっくり登って来る人がいた。奥多摩駅からずっと登って来たらしい。見るとかなりの軽身だが、どこに泊まるのだろうか。 3ヶ月前はカラマツの黄葉が印象的だった、東側の稜線を下る。トレースは明瞭、積雪は少し減ったか。しかし、昨日はあちこちで見られた土の露出した箇所は、今日の降雪で再び白くなっている。 風がさほど強くないのも、まだ先を歩く気にさせてくれている。
アイゼンが外れてしまった。雪質はいいので、そのまま付けずに下ることにした。 相変わらず雪は降り止まないが、六ツ石山の北面の巻き道あたりになると、左手の長沢背稜方面の視界が効いてきた。後ろを見ると、雲取山のほうは上空に青い空が見え始めている。 水がなくなったので、六ツ石山山頂で雪を火にかけて水を作る。やっと視界が効きはじめたと思ったら、周囲からもうもうと霧が立ち込めてきた。気温が上がって来たからだろう。 さすがにくたびれてきた。ここで水根に下ろうか。いやせっかくここまで来たのだから、奥多摩駅まで歩こう。 防火帯の急な下りを過ぎると、石尾根はそののびやかさを失い、単調な植林帯の道となる。ここへ来て初めて、凍結した地面の上を慎重に歩く。積雪はまばらになり、降る雪のほうもいつしか止んでいた。 羽黒神社を過ぎ、奥多摩の町が見える。除雪された舗装道路に下り立つ。今日だけで20km歩いた。民家の庭には梅が咲き始めていた。 |