2014年の山は、御嶽山の噴火をはじめとして自然災害と結びつけて語られることが多かった。
昨今の登山ブームに乗って人はどんどん山に入るようになった。人々が自然の恵みを求めて山に立ち入ろうとすればするほど、そのしっぺ返しも多くこうむる結果となっているのは皮肉なことである。自然との共存のありかたが改めて問われた一年だったように思う。
雲取山へは1999年の初登頂以来、少なくとも1年に1回は登っているが、今年は危うくそれが途切れるところだった。2014年も最後の最後、大詰めの一泊二日山行である。
なお、今回が記念すべき30回目の雲取山登頂となった。
6時50分、石尾根上部から真っ赤な日が昇る
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今年の10月より、奥多摩駅7時25分発の「小菅の湯」行きバスが留浦(とずら)を経由してくれるようになったので、これを利用する。これによって今までより1時間近く早い時間に登ることができる。
留浦から鴨沢まで車道を歩く。路面が凍結しており、転ぶところだった。1時間早いと日は差し込んでいないので、こういうこともあるのだろう。
小袖乗越にある駐車場は「丹波山村営駐車場」と看板が立てられていた。ここは私有地だったはずのだが、村が買い取ったのだろうか。
小袖登山口から堂所まではいつもの風景。途中で見上げる石尾根の稜線は、千本ツツジや日陰名栗ノ峰のカヤトの部分だけが白くなっていた。鴨沢からの登山道は南面であるせいか、標高1300mを越えた堂所を過ぎたあたりからようやく雪が現れる。風は冷たいのだが日差しが変に強く、何となくムシムシした空気で足取りが重い。
七ツ石分岐から巻き道に入る。今年2月の大雪で流されたという橋は復旧され、新しいものがかかっていた。「平成26年豪雪」時、2m越えの積雪を記録した雲取山への登山は事実上不可能だった。それくらい雪の深い雲取山に登ってみたいとも思うのだが、あまり雪が多いと自分の体力では登れないかもしれないので、ほどほど、30cmくらいがちょうどいい。
今日はこのあたりでも10cmもないのだが、どうも足が進まない。年をとるにつれて、冬の雲取山もずいぶん体力を消耗するようになった。
ブナ坂に上がると、石尾根は一面が薄雪に覆われていた。昨日の午前中に降雪があった関係で、飛竜など奥秩父の山々も、樹林が雪を抱き軒並み白くなっていた。ここでサングラスを装着する。
頭の上は青空だが、南方を中心に雲が多く、富士山の眺めはない。奥多摩小屋前にはテントが2張りあった。
登山者は多くはないが、それでも前後に人の姿は絶え間なく見え続ける。ヨモギノ頭からは針葉樹林帯の静かな雪道となる。小雲取の肩への急登は完全に息が上がってしまい、何度も立ち止まる。小屋泊まり装備なのにザックの重さが堪え、腰がだるいを通り越して痛くなった。
雲取山の山頂部を見据えてからは、息を整えながら一歩一歩ゆっくり進む。甲武信岳や国師岳もよく見える。1年ぶりの雲取山山頂に到着。やはり眺めは素晴らしい。先週浅間尾根から見上げていた大岳山・御前山・三頭山は、今日は見下ろす位置にある。長沢背稜の山など、奥多摩の1500m前後の山稜には雪は見えず、今回の雪は高い所限定のようだった。
雲取山荘へ下る道は北斜面のため、雪はやや多い。しかし凍結はしておらず、このままアイゼンなしで下る。小屋手前の祠に小屋の人だろうか、年始のしめ飾りをつけていた。
この日の宿泊者はそれほど多くない。同じ部屋に、雲取山が初めての登山という若者がいてびっくり。でも装備やコースの下調べはしっかりしていて、付け焼き刀ではないようなので安心である。他の山のこともいっぱい聞かれた。
こういう、登ってみたい山が近くにいっぱいあるうちは楽しいだろうな。自分にも10年ほど前、そんな時期があった。最近は、コースや季節を変えるなりいろいろ工夫して、マンネリを避けるのに腐心しているのが正直なところだ。
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翌朝、山頂で日の出を見るために早出しようと思い、朝食は頼まなかった。しかし小屋の朝食は日の出の1時間も前だったので、食べていっても十分間に合った。結局小屋の前の自炊棟で軽く食べ、6時20分に出発する。
標高2017mへの北斜面の登り。寒いときは手袋を重ねていても指がしびれるくらいなのに、この日の朝はそれほどでもなかった。6時50分、雲取山山頂に到達。三角点付近には大勢の人がいる。避難小屋の先の展望場所に着くと、ちょうど太陽が顔を出し始めた。この時期、雲取山からの朝日は石尾根のちょうど上から出てくる。富士山もほんのり赤くなってきた。
今日はその石尾根を奥多摩駅まで歩く。昨日のへばり具合からするとちょっと心配だったが、一晩寝て体力は回復した。
奥多摩小屋までは巻き道を使う。石尾根の稜線は昨日より雪は減っているが、朝日を受けてキラキラと輝く。富士山を眺めながら七ツ石山への急登をこなす。一泊した登山者は鴨沢に下りる人が多く、石尾根を行く人はあまりいないようだ。
大きなザックのテント泊縦走者と抜きつ抜かれつで千本ツツジを越える。再び巻き道に入ると、ところどころ土の道も現れ始めた。人気の石尾根も、冬枯れの季節は総じて静かだが、大晦日ともなればさらに静けさが際立つ。
鷹ノ巣避難小屋のベンチで休憩する。小屋外の寒暖計は0度を指していた。寒くはないのだが、風が強くてお湯がなかなか沸かない。コーヒーで温まろうと思ったのに、お湯が沸く間に体が冷えてしまった。
体力は回復して、亀足ながら鷹ノ巣山への登りも順調である。振り返ると雲取山や奥秩父、大菩薩嶺など南関東・甲信を代表する峰々が勢揃いしている。鷹ノ巣山の展望はこの西側の斜面からがいい。気温が高いせいか、富士山は霞んできた。鷹ノ巣山山頂で浅間尾根や榧ノ木尾根を確認して、石尾根の縦走を続ける。
水根山、城山付近は、今年夏に歩いたときよりも倒木が増えた感じがする。大雪や台風などによる一時的な現象ではなく、森林破壊の前触れではないのか気がかりである。
道は南に面した部分が多くなり、雪を踏む箇所もずいぶん少なくなった。アイゼンを外していく。六ツ石山北面の登り返しは雪が残っているが凍結はしていない。六ツ石山山頂へも寄っていく。
大きなザックの人が数人。今日は鷹ノ巣避難小屋に泊まるそうだ。ここまで、けっこう多くの人とすれちがってきた。雲取山荘で年を越す人も多いのだろう。山荘の今夜の宿泊予定者は何と250名だそうである(山荘の定員は200名)。
六ツ石山の肩まで戻り、石尾根を再び下る。日の差さない、檜の植林帯を抜けると雪はなくなった。心配していたぬかるみもなく、足まかせに下っていく。いつしか御前山が見上げる位置にあった。三ノ木戸山北面も凍結はなく、時々振り返って六ツ石山の巨体を確認しながら下る。
同じようなパターンの尾根道を歩いていく。ようやく羽黒神社の奥宮へ。ここまでくればもう終点も近い。普段着の人がお供えを持って登ってきた。やはり大晦日である。地元の人にとって、山の神へのお供えは年末の習慣なのだろう。地域で交代で行っているのだろうか。
石尾根登山口に下り立ち、羽黒神社でスパッツを外す。2014年の山もこれにて終了である。奥多摩駅近くのもえぎの湯は、狭くてせわしないのが玉にキズだが、香りよいお湯で1年分の山の汗を流す。
缶ビールを買って電車に乗り込む。電車での酒盛りはお行儀が悪いが、年末ぐらいは大目に見てもらおう。
ホリデー快速で新宿に戻る。