五日市線を、終点の武蔵五日市駅以外で下りたのは初めて。武蔵増戸駅から南側の山地目指して歩き始める。山地というよりも丘陵といったほうがいいかもしれない。
先週の青梅市に続いて、今日も東京都下のあきる野市の山に登る。
小峰公園のカタクリ |
住宅街を抜けて少し行くと、大きな橋(山田大橋)に出る。少し遠回りになるが、眺めのいいこの橋を渡っていくことにする。空が広くて気持ちがいい。
車道を離れ、キャンプ場への小道を分けると周囲は畑が増え、のどかな郊外のたたずまいとなった。石仏が立ち、大きな門構えの民家もある。うぐいすが鳴き、朝から暖かくて春を感じる。
山の方向を示す標識が目立たないところに立っているので、少し迷ったが、駅から30分ほどで赤い鳥居のある弁天山登山口に着く。
緩い坂を登っていく。道は整備されて歩きやすい。やがてミツバツツジと思われる木が多くなるが、まだ蕾もつけていない。神社を過ぎると「洞窟」という看板があるので、先へ進むと、一段上がった所に洞穴のようなものがある。中を覗き込むと白い観音像が安置されていた。
後ろから軽装のご夫婦がやってきた。「この山はいろいろあって面白い」と言う。たしかにそんな印象だ。また、4月になるとミツバツツジが一斉に咲き出して見事とのことだ。
雑木林の多い登山道を歩いていくと、ほどなく弁天山山頂。北側の眺めが開け、住宅街が広く見渡せる。もうひとり、空身の人が登ってきた。どうもこの山はザックを背負ってない人が多い。小さな里山なので、近所の人にとってちょっとしたウォーキングには最適なのだろう。
山頂から一段下がったところの展望台に行ってみると、さらに眺めはいい。桜の木があって、もう少しするとミツバツツジとともにこの山をきれいに彩るようだ。
先は長いので、腰を下ろさずに進む。ぬかるんだ斜面を下り、落葉樹の多い道を行く。新しい丸太の階段の直登となる。これが案外きつい。いったん緩むがさらにまた階段。息を弾ませて着いたところが網代城山の山頂であった。
休憩に適した小広い平坦地で、周囲を樹林に囲まれてはいるが明るく、見通しはよい。ここは名前の通り、中世の時代の豪族の城があったらしい。この近くには戸倉の城山や八王子城跡など「城山」いくつかある。
城山からは再び、丸太の階段の下りとなる。こちら側は杉、檜林の中である。長いものではなく、やがて畑地の脇に出る。春霞の景色の中、民家の屋根越しに大岳山がそびえていた。山頂部に雪はもうなさそう。そして山里をとりまく大気ももう春のものである。
》
車道を歩いて小峰公園へ。ビジターセンターを右に見ながら坂を登っていくと庚申塔があり、その右手の小道を下りていく。紅梅、白梅とも見頃をやや過ぎている。
人は意外と少なく、散歩に来た高齢者を見るのみ。桜が咲いて湿地に植物が顔を出すのを皆待っているのかも。杉の木広場の斜面は日当たりがよく、今年初めてのカタクリを見ることができた。どれも開花したばかりで花弁が初々しい。
先ほどの庚申塔まで戻り、登りの続きに入る。この緩やかな尾根は桜尾根といい、ソメイヨシノやヤマザクラの咲く4月が小峰公園の一番の見所になるようだ。遊歩道化した登山道だが周囲は雑木林で明るい。
あずまやのある展望台に着くと、ダンコウバイが花をつけていた。さらに稜線を歩き、もう1本の尾根道と合流したところが小峰公園の最高点だ。小峰公園は単に花を見れるだけでなく、2本の尾根道に取り囲まれており山歩きも楽しめる。
ここからさらに西に伸びる尾根道を行くと、今熊山に接続する。奥多摩の山との接続点にあたる場所だ。半日コースとしてここで下山するのもありだが、今日はもちろん先を行く。
登山道は穏やかで、杉林の中を歩く場面が多くなる。左側には変電所の大きな建物と、砕石で削られた山の稜線が見え隠れしている。指導標にしたがいその変電所の横にいったん下りる。周囲の山の風景にそぐわない、メタリックな巨大建造物である。ところどころで通電のバチバチッという音がして気味が悪い。
東京や埼玉の低い山を歩いていると、こういう変電所とか廃棄物処理場などの大きな建物が突然現れ、いっぺんに現実に引き戻されてしまうことがよくある。まあ、大きい建物だからこういう広い場所に建てるしかないのだろうけれど。
再び山へ入る目印の止水栓を確認し、今熊山への登山道となる。やはり山が突然深くなった気がする。沢沿いの道から尾根筋に上がる当たりでシュンランを見つけた。
山腹をへつるようにつけられた登山道は自然林豊かで清々しい。金剛の滝からの道を合わせると、道は次第に今熊山山頂目指しての急登となる。少し高度を上げると今度は常緑広葉樹の多い道となる。
下山してくる人と何人もすれ違う。変電所から高度差200mをこなし、今熊山奥ノ院の裏手に出た。回り込んで今熊山山頂の広い平坦地に着く。
ここには実に12年ぶりである。戸倉の山のうち臼杵山や市道山はよく歩くが、今熊山、刈寄山はずいぶんご無沙汰していた。
都心方面が開けて、居心地のいい山頂である。空気が澄んでいればスカイツリーも見えるらしいが、もう日が高くなったので、スカイツリーも春霞に溶け込んでしまった。できれば今日は逆コースにして、天気のいい朝のうちにこのスカイツリー展望を拝んでおきたかった。登山者もソロの人を中心に時たま登ってくるが、静かな山頂であることには変わらない。
大休止し腰を上げる。ここで下山してもいいのだが、やはりもうひとつ行こう。刈寄山もこの12年間登っていない山である。
縦走路に入ると、樹林を透かした左手に大きな採掘現場を目の当たりにする。武甲山の東斜面を見ているようで、12年前も採掘はされてはいたが、まだこれほど大規模ではなかった気がする。左手に見える入山尾根はもはや完全に採掘現場と化し、自分のいる場所よりさらに高い稜線に重機が停まっていた。
採石場の存在は気になるものの、歩いている尾根道は自然林が豊かで眺めもよく、低山の醍醐味を味わえるコースである。4月下旬の新緑の時期もよさそうだ。
小さなコブを何度か越える。刈寄山に近づくにつれ、高度がだらだらと上がっていく。ここもトレイルランをしている人と多くすれ違う。山岳耐久レースまであと半月、この尾根道はコースになっているので、走る人だらけなのもうなずける。
市道山への道を分け、あとは刈寄山への1本道である。比較的大きなコブをいくつか乗り越えていくので、かなり体力を使うコースだ。いったん伐採で開けたところに出て、さわに急下降・急登と続く。
今熊山から1時間ほど、あずまやのある刈寄山山頂に到着する。ここも伐採が入ったのだろう、以前と比べて眺めが開けた感じだ。
10名くらいの男性グループが休憩していた。何人かは鎌を持っており、反対側の尾根道(登山コースではない)を下っていった。何かの調査だろうか、それとも新登山道作成中かもしれない。
今熊、刈寄とも山の雰囲気がよい。今まで12年も登ってなかったのがもったいなかったくらいだ。
下山は北方、檜の植林をしばらく下り、やがて刈寄川の源流に下り着いた。小さな橋や飛び石伝いに、何度か沢を渡る。もしやと思って川面を覗き込むと、数は少ないがハナネコノメを見ることができた。今日見たかった山野草はひと通り見れたので満足である。
刈寄山登山口に下り、あとは刈寄林道を沢戸橋まで歩くだけ。ひと仕事終えた気分になって充実感に浸る。
東京郊外の里山から自然公園を経て奥多摩の山まで縦走する今日のコース、我ながらなかなかいい選択だった。春から初夏の山巡りに向けて、いい準備運動になった1日である。