破風山はいろいろなコースがあるが、南麓からの道をいくつか歩き残していた。しかし、以前運行されていた、南麓の登山口に通じるバスは廃線となってしまった。皆野駅から車道を歩くには少し長いアプローチとなる。
調べていたら、西武秩父駅から吉田元気村に行くバスが水抜登山口の近くを通っていることがわかった。発車時間が少し遅いけど、歩程の短い山なのでこのバスを使って通算6度目の破風山に登ることにする。
秩父の山並みを背に馬頭尊堂からの登路を行く
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西武秩父駅で9時発のバスに乗る。バスは荒川沿いに北上し、やがて西に向きを変えて川を渡ると「馬頭尊前」バス停。ここで下車する。すぐ先に平石(ひらなめ)馬頭尊堂がある。
水抜登山口は県道を戻るように東へ、10分ほど歩けば到達できるようだが、この馬頭尊堂の前の小道に入ってもよく、途中で水抜登山口からの道と合流するようだ。予定を変えてこの道を行くことにした。
小道の脇には「江戸巡礼古道」という小さなプレートがつけられている。この道は秩父札所33番の菊水寺から破風山の尾根を越えて、34番札所の水潜寺へとつながる巡礼道となっている。水潜寺は秩父札所巡りの結願寺であり、ここを歩くお遍路さんにとっては思い出深い道なのであろう。
しばらくは日の差さない車道を歩く。「水潜寺→」という小さな案内標識が行く方向を示している。やがて右手の丘のような高まりに上る山道がつけられているので、それに入る。庭園風の民家の庭を横目に、明るい雑木林の中を緩く登る。
小さな尾根を乗っ越すところに石標があった。いかにも「巡礼古道」らしい。
舗装道路に戻り、民家が見えてくると水抜登山口からの道に合流した。頼母沢という地区だろう。秩父の山里らしい静かな集落である。大きな屋敷が何軒もある。雨戸が閉められていて誰も住んでいないようにも見えるが、外に置かれているプロパンガスが新しいので、おそらく正月で家族や親戚の家にでも出かけているのだろう。
少し高度を上げて、再び山に入る道へ。破風山の登山道入口となる。登山者カウンターが設置されていたのでカチッと押してから登る。しばらくはコナラ、クヌギの明るい雑木林の道で、傾斜も緩い。こういう、肩の力が抜けるような山道を歩くのも久しぶりだ。
やがて檜の人工林に入る。「巡礼道」というよく見かけるプレートが木の枝からぶら下がっている。
水場を過ぎるとにわかに急登となるがそれも短い。右下に廃屋がある。ふつうの民家のように見えるが、こんなところに人が住んでいたのだろうか。このすぐ上がもう札立峠だった。峠から南面を見下ろすように立つ一本の老樹は何だろうか。木の根元付近にはイチョウの葉がたくさん落ちていた。
「江戸巡礼古道」はここから直進して水潜寺へ下っていく。左の尾根筋は大前山へ通じており、展望のよい岩尾根があるが今日はこのまま破風山へ、右の稜線を行く。
広葉樹のヤセ尾根で見通しがいい。株立ちしたサクラが立つ。木の向こうに秩父の山並みや盆地の眺めが広がっている。歩いている場所は穏やかだが、下のほうは音を立てて風が吹いている。山頂から30名くらいの大パーティが下りて来た。山頂で居合わせなくてよかった。最後の急な登りを終えると破風山山頂となる。
目の前の大展望はいつ見てもすばらしい。奥武蔵北部の比企三山や武甲山、二子山、奥多摩の山、そして奥秩父の両神山まで、埼玉県の主だった山がかなりの数が見えている。
背後には樹林の切れ間から群馬県との県境にそびえる城峯山。この破風山は来るたびに見晴らしがよくなっている気がする。
山頂は日の光を十分に浴びて、むしろ暖かいくらいだが、下のほうでやはり風の音がする。北側の登山道を登ってきた人も、下はあんなに風がすごかったのにここは別世界みたいだ、と言っている。山頂だけ風がないというのは意外とよくあることだ。
今日もコンロ持参だ。サッポロ一番味噌ラーメンにキャベツ、玉ねぎと半熟玉子をトッピングする。カップめんと違い、袋のラーメンはザックに入れて運ぶと中が割れてしまうのが玉にキズだが、味はやはりいい。粉末スープは火を止めてから入れるよりもむしと、早めに入れてぐつぐつ煮たほうが好みである。
下山は秩父温泉である。北側の雑木林は日が差さず寒い。猿岩を過ぎ、人工林に入ってしまうと穏やかな低山歩きとなりそのまま風戸の集落上段に下り立つ。展望台を兼ねたあずまやができていた。そのまま道なりに下り、登山口に出る。秩父温泉の源泉所があり、お湯の販売をしていた。
2時間しか歩かなかったが、南から登って北へ下る破風山もいいものだった。満願の湯で汗を流して今日の山を締める。