~芽吹きの森と山の湯~
2009年5月2日(土)~3日(日)
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平坦と緩い登りを何度か繰り返す。左手はカラマツの林となる。カラマツは今が新緑のきれいな時期だ。 右手は常に自然林と枯れ笹の広場となっている。尾根歩きというよりも、天平という言葉のように、どこか高原の台地を歩いている気分だ。しかし樹林があるので草原の開放的な雰囲気とは違う。
おそらくここは、昔は樹林も少なくススキや笹の茂った伸びやかな草原だったのだろう。カラマツは植林で、背後の自然林も近代になって増えてきたものと思われる。奥多摩の西部や奥秩父にはそういう場所が多いと聞く。笹尾根や飛竜山・雲取山間がその例だ。 天平尾根の今は、内省的で地味な尾根である。でもこういう雰囲気も悪くない。もう少し新緑が進んだ頃や、紅葉の季節もいいだろう。 丹波天平の山頂に着く。標柱がなければ通り過ぎてしまいそうな、平坦な場所だ。少し休憩する。 ここから丹波へ下る道を指導標は示しているが、どこを指しているのかよくわからない。 さらに尾根は広くなる。ウグイスの声が響き、1ヶ月ほど前の低山を歩いていたときにタイムスリップした気分になる。他にもいろんな野鳥のさえずりを耳にする。
両側に笹が現れ始め、再びカラマツが増える。 左手のちょっとした高まりを、標識が「展望台」と指し示している。そんな場所があるのかと言ってみると、そこには「丹波山」との表示があった。 「丹波山村」というから、どこかに丹波山というピークがあるのだろうと思っていたが、どうもここらしい。しかしとってつけた山名のような気もする。なお展望だが、はっきりいって無い。「左手に丹波山村が見下ろせます」と書かれているが、たしかに少しだけ見えた。 見覚えのある祠と看板、サオラ峠へ到着する。今日の最高点はここである。展望は無いが樹林を透かして大菩薩嶺が見える。ここには何度か来ているが、昔の雰囲気を思い起こさせてくれる、いつもながらの静かな峠だ。
しかし今日はちょっと違った。丹波から何人もの登山者がやって来たのだ。全部で10人くらい登ってきただろうか。この場所にこんなに人がいるのも珍しいと思う。 明日は飛竜山からここへ下りてくる予定だ。そのときも賑わう峠になっているだろうか。 三条の湯へ足を向ける。ところどころ細い部分はあるものの、峠道の風情で歩きやすい。 サオラ峠からさらに山奥に入っていくにもかかわらず、意外と植林帯を歩く場所が多い。御岳沢の手前に来ると、岩場にイワウチワが咲いていた。 さらに少し下ったところで、下方の沢あたりに動くものが見えた。タヌキのようだが白い顔をしているのでテンか、オゴジョのようだ。テンなら初めて見た。こんなところに、こんな時間に行動しているのだ。しかしこのところ、猿やらリスやら、やけに動物の姿を見る。 道は小さなアップダウンを繰り返し、権現谷の沢(国土地理院の地形図ではカンバ谷と表記)を越した後はちょっとした登りに転じる。このあたりから自然林の色濃い山稜となる。ヤマザクラの大木に風が舞い、桜吹雪になった。 樹林越しに三条の湯の赤い屋根が見えてきた。高度は1100mまで下げてきたが、芽吹きの程度はそう変わらない。 日照時間の少ない谷間の地のため、春の到来が北国並みに遅いのであろう。三条の湯付近の新緑は5月中下旬ごろがよさそうだ。 3時少し前に三条の湯に到着。宿泊者の受付には列が出来ていた。テントの申し込みをし、ビールと入浴料も払う。日帰り入浴料は500円だが、テント泊者だと300円とのこと。 川沿いのテント設営地まで下りる。もう3時とあって、あまりいい場所は残っていなかった。それでも久しぶりに山の中に泊まることが出来る安堵感がこみ上げてくる。 テント設営後、三条の湯に入る。ここは2回目。沸かし湯なのだが、硫黄のいい香りと肌に優しいなめらかなお湯がとてもよい。山奥のお湯のよさを再認識する。 丹波山村といえばのめこい湯が有名であり、東京周辺では珍しく、沸かし湯ではないしかも硫黄泉なのだが、この三条の湯と比べてしまえばやはり、山の湯と麓の湯の違いと言うことになってしまう。 小屋脇にある、木の切り株に腰を下ろして山の眺めを見ていると、急に眠たくなってきた。食事をして早々と床に就く。硫黄の香りがずっと残っていた。 |