~秋声山に満つ、爽やか奥秩父路~ 2002.8.31.(土)~9.1.(日)
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東京に生まれ東京で育った自分にとって、雲取山はやはり身近なふるさとの山。いつ登っても楽しい山である。 8月に登ったのはこれが初めて、これで登ってないのは3月と10月、12月になった。 雲取山頂から
●東京都で最も高い所へ 夏の奥多摩の山は比較的空いているが、奥多摩駅は混んでいて臨時バスも出るほどだ。 8時半発の丹波行きバスで鴨沢へ。鴨沢へ行くバスはもう少し早い便に乗れるといいのだが、2001年4月のダイヤ改正により、都心を早朝発でもこのバスにしか乗れなくなってしまった。鴨沢からの歩き出しが9時になってしまうので、この季節は登り始めの最初の1時間くらいが暑くてつらい。
玉のような汗をかいて小袖乗越へ。植林帯のゆるい登りになると、暑さもやわらぐ。やがて上方に見えて来た石尾根の稜線は鮮やかな緑色になっている。 堂所を過ぎ、傾斜が強まりスイッチバックするように尾根を乗っ越す。この地点は、天気のいい日は富士山が望めるのだが、今日は南方の空は厚い雲で覆われていて見えない。 七ツ石小屋への道を分け、ブナ坂へ向かう。途中の水場で顔を洗うが、盛夏の時期に比べ水量が意外と少ない。 ブナ坂に着く。石尾根縦走路を歩き出すと、斜面にはマルバダケブキの黄色い花が一面に咲いている。しかし見られる花はマルバダケブキ1種類だけである。 自分がこの稜線を歩き始めて5年そこそこであるが、それでも以前は秋口にノアザミやヤマオダマキ、ホタルブクロなど見られた。今まったく見られなくなってしまったのは、やはり鹿の食害によるところが多いのだろうか、温暖化の影響なのか。
MTBの人と多くすれ違う。今回は避難小屋で、MTBの人と話をする機会があった。大ダワから登って来たと言う。ここも傾斜が比較的緩やかで自転車で登るにはいい、と思うが聞くとそうでもないようだ。傾斜よりも道の狭いのが走りにくいとのこと。 いずれにしても、広いなだらかな防火帯が続く石尾根は、MTBにとってはかっこうの気持ちいいフィールドであろう。 ヘリポートまで緩やかに登り、右手に小雲取山・雲取山の姿を捉える。緑の防火帯が気持ち良く伸びている。 奥多摩小屋の入口にかかっている寒暖計を見ると、気温30度。標高1900m近いのにまだまだ暑い日差しが残っている。 小屋からは巻き道を行く。駅での混雑ぶりに比べ、山の中に入ってしまうと意外と静かである。太陽が雲の中に隠れる時間が多くなり、ようやく涼しい中での行動となる。カラマツ林の急登、背後に大きく展望が広がる。しかし富士山は相変わらず雲の中。
小雲取の肩を抜けると、雲取山頂まで直線状の緩い登り。石尾根で一番標高の高い、最も気持ちいい部分である。「日本百名山」のビデオでは、「東京都で最も高い所で見る青空です。雲取山に登って他に何を望むというのでしょうか」という下りがあるが、ここに来ると必ずその言葉を思い出す。 約半年ぶりの雲取山頂(2017m)。苦しい登りも、立てば必ず報われる頂である。この開放感を味わいたくて、今まで10回登って来た。 ●夕闇に駆ける鹿の群れ 避難小屋に荷物を置き、水を汲みに雲取山荘まで下りる。山荘の外にあるトイレは水洗できれいだ。外にありながら土足は厳禁で、立ち寄り登山者はここで靴を脱がなければならない。破ると百叩きの刑!ということで、手型をした鞭がかかっている。 缶ビールを買って、水は3.5リットル汲む。1泊の量としては多い気もするが、明日の行き先である飛竜山方面は水が得られないので、明日の分も込みの量である。 避難小屋はこの日、10名ほどが泊まった。単独行の人が多く静かな夜を過ごせそうだ。 夕方、雲が取れ始めてきた。次第に空は茜色に染まり、幾重にも連なる山並みの向こうに富士山が姿を表わす。日が落ちるにつれ、周囲の山々も闇の中へ沈んで行く。雲取山ならではのドラマチックな眺めだ。昨年の8月後半の八ヶ岳を思い出した。晩夏の山の夕暮れは、一種独特の雰囲気がある。 あたりが暗くなったとき、ピーッと鹿の鳴き声が響き渡った。見ると、1頭の鹿がこっちの方を見ている。そして山頂の方を振り向くと、今度は鹿が4頭、走り去って行った。雲取山の山頂で鹿を見たのは初めてだ。あの鹿たちは、おそらく人が餌をくれるのを待っているのだろう。小屋には鹿の餌付けをやめてほしい、との貼り紙がある。 遠く東の彼方、ポツ、ポツと明かりが灯り始める。東京都心の眺めだ。今日は土曜日、あのネオンの下で活動している人々の1日は、むしろこれからなのであろうが、ここ山にいる人の1日はこれで終わりである。 |