~奥秩父の森に何が起こっている~
2007年6月1日(金)~2日(土)
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●甲武信小屋で1年ぶりの幕営 シラビソの原生林の登リとなる。5年前はこの急登に参った。今回も同じくテント持参だが、一度歩いた道だとやはりぺースはつかみやすい。 時折下山してくる人もいるが、風と小鳥のさえずりだけが耳に残る、静かな登路だ。稜線にかかる雲は風に乗り、大きな動きを見せている。 傾斜が緩くなり、白ザレの展望地に出る。眼下に広瀬湖が見下ろせる広い眺めだ。国師岳から黒金山への稜線は雲に隠されている。 さらに登っていくと残雪が現れ、ほどなく縦走路に合流する。戸渡尾根の長い登りもここまでである。久しぶりの奥秩父主脈縦走路。シャクナゲと針葉樹のしっとりとしたこの雰囲気。山深く入ったことを強く実感出来る。 木賊山(2469m)への登りでは、足元は10センチほどの残雪道が続く。多いところでは30センチくらいあって、誰かが踏み抜いた跡がいくつもついている。 6月にこれほどの残雪は、ここ最近では多いほうと思う。今年は季節の進みが速くなったり遅くなったりで、また地域によってもかなり差がある。 ガレ場の下りで甲武信岳の大きな三角錐を正面に見据える。やがて人の声が聞こえ始め、甲武信小屋の前に出る。 宿泊者や休憩する人で賑わっている。平日のこの時間でも、入口で宿泊申し込みをする人が後を絶たない。 1年ぶりにテントを張る。甲武信小屋前のテント場はきれいに整地されていて使いやすい。しかも1張り300円である。八ヶ岳のように今は1000円取られるところもあるが、ここは5年前と変わらない値段だ。 ペグを忘れてきたのに気づく。シーズン最初のときは必ず何かしら忘れ物をする、以前テントのポールを持ってこなかったことがあった。今日は風もないので、ペグがないくらいなら設営は問題ない。 隣りで設営していた人は、雲取山から縦走してきたという。昨日は雷と雹(ひょう)で大変だったそうだ。 7,8分下った水場で1日の水を確保した後、テントの中で一眠りする。仕事もテレビもパソコンも、音楽プレイヤーもない、何もしなくてよい時間を久しぶりに過ごす。 夕方になってから甲武信岳に登る。雲が多いながらも、5年ぶりの広い展望を堪能する。 思ったほど夜は寒くならず、テントが結露することもなかった。夜半、鹿の悲しげになく声が夢うつつの中響いていた。
●鹿の食害が酷すぎる原生林 朝は曇りがちの天気。それでも甲武信岳にもう一度登る頃から青空が覗き出す。 雲海に浮かぶ富士山、南アルプス、八ヶ岳、奥秩父の山々の順に日の光が射し始める。 シャクナゲウィークの土曜日、今日は小屋も縦走路も混雑するだろう。早めにテントをたたみ6時過ぎに出発する。とりあえず目指すは雁坂峠である。 稜線のシャクナゲは咲いていない。今回気がついたが、この稜線に咲くのは、葉が丸まっているのでアズマでなくハクサンシャクナゲのほうかもしれない。 笹平付近は樹林も途切れカヤトの平坦地。このあたりまで展望が広かったがやがて稜線はガスに包まれてしまう。西破風山(2318m)のこれでもかという岩尾根の急登は、前回同様ガスの中で眺めが得られない。
岩がちの斜面を上り下りしていくうちに道はおだやかになっていく。再び針葉樹林が現れると思わぬ光景を目にする。樹皮という樹皮が根こそぎ剥ぎ取られていて、木々は人間の肩から腰当たりの高さのところが丸裸になっているのだ。 これは鹿が食べた後であろう。樹皮が剥ぎ取られているのは、どの木も鹿の首が届く範囲である。 場所によっては視界に入る樹木のほとんど全てがやられている。思わず顔を背けたくなるほど見ていられない光景だ。奥秩父のシンボルでもある針葉樹の原生林であるが、あまりの悲惨な姿に気が動転する。 このつらい光景は雁坂嶺、雁坂峠まで続いていた。 鹿が樹皮を食いちぎるのは、おそらく食料とするためであろう。通常なら笹や草花などを食べて樹木に被害がいくことはあまりないはずだ。 南関東・甲信越に住む鹿はここ数年で急激に数が増えた。その結果、木の皮を食べなければならないほど食べ物に困っているのだろう。 ちょうど時を同じくして、丹沢の鹿が多数餓死して発見されたというニュースがあった。 甲武信岳周辺には被害を受けた樹木はそうなかった。だがここもおそらく、やられるのは時間の問題であろう。昨晩聞いた鹿の鳴き声は、記憶では雲取山以西の奥秩父では、夜は初めて聞いたものである。 雁坂嶺(2289m)に着く頃は再び青空が出てきて、展望もそこそこ楽しめるようになる。 やがて樹林から脱して雁坂峠の広い草原に飛び出す。6年ぶりの雁坂峠だ。草原はまだ黄色のままで、周囲の山肌が新緑に包まれるのもこれからだ。笛吹川方面の展望が霞んで遠望できる。 |