アカヤシオツツジは、普通なら4月下旬から5月にかけて各地の山で見られるが、栃木県足利市には、3月中にアカヤシオが開花する低山があるという。
その名もずばり「ヤシオ山」。春の訪れの早い今年は3月中旬でもう咲いているとのことなので、行ってみることにした。
場所は仙人ヶ岳のある小俣地区で、ヤシオ山の近くには石尊山・深高山の登山口があるため、合わせて登ることにした。電車・バスでも車でもアプローチできるが、昨今の状況を踏まえて公共交通機関を使うことはせず、マイカーで行く。
ヤシオ山に咲くアカヤシオ [拡大 ]
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東北道から北関東道へ乗り継ぎ太田桐生ICで下りる。国道、県道を北上して行くと次第にのどかな山村風景が広がる。すっきりした青空だが風が強い。
叶花(かのうけ)地区に入ると正面に仙人ヶ岳の山稜、右側には石尊山が見上げられる。そして道路を挟んだ反対側にわだかまるのがヤシオ山。ここからすぐに登れてしまいそうな近い位置にある。
石尊山登山口の駐車スペースに車を置いて道路を渡り、大きな看板のある叶花カタクリ保護地へ向かう。ヤシオ山は保護地から登っていく。この保護地には前にも来たことがあるが、その時はヤシオ山の存在を全く知らず、石尊山に登っただけだった。
シカ対策のため張られた青いネットを横目に、登山道を辿る。道は穏やかで踏み跡ははっきりしている。最後のちょっとした急登で、すぐに落葉樹林の稜線に立てた。T字路となっており、ヤシオ山へは右折する。
稜線からもなかなかの急な登りが続いている。少々岩っぽいところを直線状に高度を上げ、ようやくアカヤシオのピンク色が視界に入った。と思ったらそこがヤシオ山山頂だった。
アカヤシオは山頂付近にしかなく、本数も数えるほどだが、どれもきれいに咲いていた。アカヤシオの花期は標高ではっきりと分かれている。奥武蔵や奥多摩の標高1000mクラスの山では4月下旬から5月、隣りの仙人ヶ岳は600mで4月に入ってからだと思った。標高が300mちょっとしかない低い山だからこそ、こんな3月から見られるのだろう。
右手にもう一つピークがあったので寄っていく。そのピークからはさっきのカタクリ保護地に向かって尾根が伸びており、下りられそうに思ったが、一応ここは引き返すことにした。
ヤシオ山の左手には姥穴山という372mのピークが見え、ここからも登山道が伸びているようだ。このあたりには一般にはあまり知られていない山がいくつか連なっており、つなげて歩くことができる。また、白葉(しらっぱ)峠を経て仙人ヶ岳に登るルートもある。ひとつひとつは小さい山でも、これらをつなげて歩けばなかなか歩きがいのあるルートとなりそうだ。
カタクリ保護地に戻る。ネットの内側を覗き込むとカタクリはそれほど多くない。ただネットの外側にはみだして咲いているカタクリもかなりあった。
歩き始めから1時間と少しで石尊山登山口に戻ってくる。ヤシオ山は思った以上に小さな山だった。接写用のカメラレンズを車に置いてから、今度は反対側の石尊山への登りに入る。
杉林の中の登山道はところどころで丁目石が置かれており、昔から歩き継がれてきたと思われる歩きやすい道が続いていた。
13年前の初訪の際の記憶があまりないが、見晴らしの良い岩場を過ぎるあたりに来ると、何となく思い出してくる。ただ、右手(南側)に見える大きな採石場と人工池のようなものは13年前にもあったかどうか、記憶がない。びっくりしたのは左側、仙人ヶ岳方面の山稜の斜面が皆伐されていたこと。山肌が広くあらわになっている。
背後見えるヤシオ山の高さを越えていくくらいになると、風が強くなった。上空の雲の流れが早く、太陽が隠れては顔を出すを繰り返すので、登山道はそのたびに明るくなったり暗くなったりする。
石尊山神社本宮に入る。社には2つの天狗お面が祀られている(1つは烏天狗)。建物で北風がさえぎられるので、急に暖かくなった。本宮から再び稜線に上がると見晴らし台となっている芝地で、ベンチがある。尾根の背なのだが不思議と風は吹いておらず、暖かい。北西側に赤城連山の形がいい。
目の前の石尊山までは、穏やかな落葉樹林の中を登っていく。その石尊山山頂はあまりピークという感じはしない。樹林に囲まれているが意外と見通しはきく。
東に見えるゆったりした櫛形の山が深高山だ。そこまでは登り勾配だが標高差の少ない穏やかな稜線歩きとなる。
尾根が広がり、足首まで潜るほどの深い落ち葉溜まりの道である。両脇の樹林帯はコナラ、ヤマザクラ、リョウブ、ツツジと落葉樹が多くを占めており、雰囲気も明るい。ここはもう1ヶ月くらいすればきれいなライトグリーンロードになりそうだ。
ここの稜線がこんなに季節感あふれる場所だとは、一度歩いていたとはいえ気づかなかった。仙人ヶ岳ばかり何度も足を運んできたが、やはりいろいろな山をあるいてみるものである。
深高山山頂に着くとかわいいピンク色のスミレが咲いていた。ヒナスミレだろうか、丸っこい形をしているので違うかもしれない。せっかく覚えた見分け方も、1年経つと忘れてしまう。
深高山山頂も樹林の中で眺めは芳しくない。このご時世、山を歩く人はいつもよりかなり少ないのだが、山頂には夫婦が一組だけいた。
深高山からは急坂の下りが続く。ロープもかかっている。人工林に入ると平坦になり、意外と早く車道が見えてくる。が、登山道はもう少しある。日の当たる場所にはカタクリの葉があったが、花はない。
人工林の中を歩き猪子峠へ。松田地区への下山路、仙人ヶ岳への登路を分けて小俣北町バス停目指して下りることにする。バスで車のある石尊山登山口に戻る。バスは2時間に1本ほどしかないが、少し頑張れば下山時ちょうどに発車するバスに間に合う。小走りに下るが今一つスピードアップできず、結局間に合わなかった。
小俣北町バス停付近には民家が数軒、早咲きのサクラが満開で春の訪れを感じさせてくれる。次のバスまで時間がありすぎるので、仙人ヶ岳登山道である生不動尊コースに少し入ってみる。
30分ほど歩くと沢をまたぐようになり、ユリワサビやハナネコノメを見ることができた。ハナネコノメは赤と黄色のしべがまだ残っている。他にもエイザンスミレ、カタクリなどこのコースはたくさんの花に出会える。
2時台のバスに乗って、石尊山登山口に戻る。今日はアカヤシオや豊かな雑木林の尾根、春の花をたくさん見られて収穫の多かった1日だった。風も収まってきて、午後の日差しが明るい静かな山村を後にする。