旅館の朝食を6時半に早めてもらい、7時出発する。
野反(のぞり)湖周辺の山は、数年前に白砂山に登っている。山深く展望に優れていて好印象を持った。今回はその時一緒に登った八間山を含めてエビ山、弁天山と縦走する。夏はニッコウキスゲなどの高山植物が多く咲き、登山者などで賑わう。樹林帯も見もので、標高の高いところはシラビソなどの針葉樹が多いが、湖岸から1700mあたりまでは広葉樹が豊かだ。
10月3週の土日、昨日の草津白根山の様子から見て、紅葉は若干ピークを過ぎているかもしれないが、今年は全体的にやや遅めな分、期待するものもあった。
展望の稜線を歩いてエビ山へ
|
野反峠に着く。きりっとした朝の空気がおいしい。目の前に野反湖、右に八間山、左に三壁山からエビ山、弁天山の笹の稜線。この眺めだけで来てよかったと感じる。まだ太陽の位置が低く、回りの木々に光が当たり切っていないため、紅葉の様子ははっきりしない。
駐車場のすぐ近くに八間山登山口の標柱が立っている。風があるが、最初から急登のようなので一枚重ね着せずに行く。
展望のいい登りが続く。途中でコマクサの群生地があるという。説明板を見ると、地元の子供たちが植えたものらしい。高度を上げてイカ岩ノ頭に着くと眺めは一気に開ける。エビ山の後ろに昨日の本白根山の湯釜、さらに浅間山、榛名、赤城も。
いったん下って八間山の高みが見えてくると、一気の登りとなる。広大な笹原の斜面を登っていく。自然の大きさを感じる。ニュージーランドに行ったことのあるメンバーが、現地とよく似ていると話す。
稜線のダケカンバはもう落葉していたが、見下ろす斜面はきれいに色づいている。急坂を登りきり、樹林帯を少しだけくぐると八間山頂上に着く。周囲を低い笹に覆われてはいるが、展望よき頂である。
やはり北面の白砂山に目が行く。そして白砂山から派生する伸びやかな稜線。アップダウンの連続となっている。八間山から白砂山に向かう登山道がうねうねと、アップダウンの連続になっているのもよく見える。他のメンバーも白砂山への稜線は印象に残った様子だ。また、西側に見える三角錐は鳥甲山のようである。
ただ、今日は北日本から寒気が降りてきているため、日本海側に近いほど雲が多い。
八間山からの下りは、初めのうちは急で滑りやすい。野反湖が見えてくるようになると落葉樹帯となって紅葉が復活する。カエデの赤の色つきがとてもいい。真っ赤である。空と湖の青と赤、黄の葉の色がよく似合う。
日当たりのいい場所にはリンドウが咲き残っていた。ダケカンバの黄葉もなんとか残ってくれている。
車道に出る。この先もう一度山道に登り返して、野反湖の駐車場に下りるのだが、湖岸の紅葉が見事なので車道を行く。これから登るエビ山の登山道がはっきりと見える。
どんどん高度を落とし、右手の笹の斜面に真っ赤なカエデが点在する様は絵画的だが、もしかしたら植えたものなのかもしれない。
車道は大きくジグザグに下っていくので、登山道を行ったほうが時間的には早いであろう。見覚えのある野反湖駐車場と売店の前に下り立った。
紅葉を見に来た観光客も多いが、売店はひとつだけで静かな湖畔である。ここ野反湖は大手気象会社の紅葉情報マップにも載っていないし、紅葉の穴場といっていい。
ダムを渡って対岸に歩を進める。赤と黄色のカエデが並んで立っている。ビジターセンターの脇から野反湖第二キャンプ場に至る道に入る。ウッドチップの足に優しい道を、キャンパーがリヤカーを引いて戻ってくる。野反湖キャンプ場は、キャンプ用具一式をこうしてリヤカーで運ぶようだ。
エビ山の登山道は野反湖第二キャンプ場から始まる。見通しのよい笹原の斜面を登り、雑木の尾根をジグザグに行く。野反湖が見えるところで小休止しながら進む。
さらに高度を上げると主稜線に出る。八間山などを一望できる場所で、ここを見晴台と呼んでいるようだが、休憩できるスペースがないため先に行く。エビ山の山頂部がもう見えていて、展望がよさそうだ。緩く下って登って、そのエビ山山頂に着く。笹が刈られた広く平坦な山頂で、周囲に背の高い樹林や笹もなく、腰を下ろしても展望は360度である。
背後には今回時間の関係で登頂を諦めた三壁山から高沢山、そして浅間山、榛名、赤城も見える。そして近くに八間山の堂々とした山容。車を置いてある野反峠も見えている。素晴らしい眺めである。風がなければ、ゆっくり昼寝するのに適した山頂だ。
エビ山からは、終始眺めのいい稜線を辿っていく。このあたりは紅葉が盛りのようで、カエデやダケカンバが見事な色づきを見せていた。特にカエデの赤はここでも最高に赤い。
急坂を下り、湖畔から上がってくる太い登山道と出会う。登山者にポツリ、ポツリと出会う。こんなに紅葉がいい山なのに人が少ない。エビ山山頂でも2,3のグループに会ったのみだ。
振り返ると、笹とダケカンバに彩られたエビ山の斜面が伸びやかだ。ダケカンバ帯は、斜面に弧を描くように生えていて不思議な造形である。これは、日当たりが均等になるように自らが編み出した形なのだろうか。昨日草津白根山で見た円形のハイマツ帯と、なんとなく通じるものを感じた。
登り返して弁天山を目指す。山頂付近が赤くなっている。近づいていくと、登山道は岩っぽい様相に変わっていった。赤かったのはカエデではなく、岩場に多いツツジだった。これも今紅葉の盛りで、真っ赤に色づいている。
指導標には来た方向を「恵比山」と示していた。エビ山の語源は海老ではなかったようだ。弁天山と合わせてエビス様と弁天様といったところかか。幸運をもたらしてくれる山だといい。
弁天像の立つ弁天山で最後の休憩をし、野反峠に戻る。エビ山からも、弁天山からもレストハウスと駐車場が見えていた。笹原の斜面を下る。日が高くなり、湖周辺のダケカンバがきれいに色づいているのがわかった。野反湖周辺の山は、ダケカンバが実に多い山域だった。
風が強く肌寒ささえ感じる時間だが、レストハウスはけっこうな賑わっている。ここ六合(くに)地区の特産物で、昨日の旅館の食事でも出た花まめを買っていく。
今回の群馬の山旅は、紅葉のピーク期は若干逸したものの、色づきは最高で、展望もすばらしかった。昨今、百名山を筆頭に人のお尻を見て登ることを強いられるような山が増えてきたが、まだこういう静かな山も各地に多い。
今回登れなかった三壁山も含め、今度はニッコウキスゲの時期にぜひ再訪したい。