2019年10月14日(月) |
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練馬IC |
4:00 |
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関越自動車道 |
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昭和IC |
5:35 |
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県道255号, 4号 |
7:30 |
新坂平駐車場 |
7:35 |
8:50 |
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鍬柄山 |
◇ |
9:15 |
大ダオ |
◇ |
9:37 |
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鈴ヶ岳 |
9:50 |
10:15 |
大ダオ |
◇ |
11:10 |
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深山分岐 |
◇ |
11:55 |
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出張峠 |
◇ |
12:05 |
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林道 |
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12:15 |
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沼尻 |
◇ |
12:45 |
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新坂峠駐車場 |
12:50 |
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県道4号 赤城神社, 富士見温泉立寄り |
15:50 |
赤城IC |
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関越自動車道 |
17:25 |
練馬IC |
◇ |
台風19号が東海から関東甲信、東北地方にまで大きな爪痕を残していった。
千曲川や阿武隈川の決壊をはじめ箱根、奥多摩など各地の山村も生活道路の崩落などで孤立化し、大変なことになっている。高尾山行きの京王線や中央線大月方面の電車は不通となり、中央自動車道も通行止め。紅葉時期を前にしてこの方面への登山どころではなくなった。
こういうのは東日本大震災や平成24年豪雪以来だが、中部内陸地域に限定すると、被害はその時以上かもしれない。
この週は奥多摩の御前山を考えていたが、バスが動いていないようで諦めた。比較的被害の少なそうな北関東へ行くことにする。
ブナ大木とシャクナゲ(鈴ヶ岳北側)
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久しぶりにブナをじっくり見たいので、群馬県北部の白毛門を目指す。ただこの日も空模様が思わしくなく、上越国境稜線付近は朝方、厚い雲がかかっていた。白毛門は早々に諦め、玉原高原の鹿俣山に変更。
しかし高速を下りて県道を走っていると雨がパラパラ降ってきた。晴れは期待できないが、せめて濡れながらの山行は避けたい。気持ち空の明るいもう少し南の方向に転進する。赤城の鈴ヶ岳は未踏のまま残っていたので、これを機会に登ってみることにする。
赤城はブナの少ない山域だが、狙いを絞って行けば小さなブナ林は見られるというので、下調べをしておいた。
赤城山目指し車道を上っていくと、だんだんと色づいた木々が見られるようになる。新坂平が鈴ヶ岳の登山口で、大きな駐車場があった。
紅葉シーズンとはいってもまだ色づき始めたばかりで、朝早いせいもあろうが観光客、登山者の姿はまばらだ。鈴ヶ岳方面の山稜に目をやると、ダケカンバの白い幹が目立つ。
その鈴ヶ岳への登山道は有刺鉄線沿いにあり、入り口はクマザサに覆われていてた。赤城連山の中でもダントツで登る人の少ない山である。道がはっきりしないところがあっても不思議ではない。
クマザサは極端に密集することもなく、少し注意深く歩いていれば問題ない。やがて尾根らしくなり、シラカバやダケカンバ、リョウブ、ツツジの目立つ緩やかな樹林の道となった。「姥子峠」とかかれた指導標が立っている。ブナは全く見られない。
高度を少し上げるとミズナラが多くなる。特徴ある鋸歯の葉が目線の位置にまで茂っているが、どんぐりが全くなっていない。前週の天女山~三ツ頭(八ヶ岳)も下部はミズナラが多く、どんぐりをたわわにつけていた。赤城のミズナラの結実は時期的にもう少し先なのだろうか。
依然として斜度のない道が続く。登山道はわかりにくいところはないが、黒檜山や荒山に比べればやはりトレースは薄く、笹が被ったところも現れる。平成登山ブーム以降の各地の山の登山道は、人が集中するところと全く歩かれていないところの差が激しくなったように思う。人気のコースは硬いくらいに踏み固められている一方、路面が柔らかく、笹や下草に阻まれて通路が狭くなったところも多い。鈴ヶ岳は後者である。
樹林越しに大きな山が見えてきた。鈴ヶ岳の前衛、鍬柄山だろう。いったん鍬柄峠に下ってから登り返すと、背後に荒山や鍋割山と思われる赤城連山が見えてきた。
樹林の背が低くなるとみるみる展望が開け、鍬柄山の山頂となる。大沼や黒檜山が大きく、武尊山も見える。上越国境稜線付近の天候は朝から回復したようだ。
鍬柄山からは岩の突き出たヤセ尾根をしばらく下る。その後登山道は安定するがさらに大きく高度を落としていった。
大ダオと呼ばれる鞍部も峠状になっており、鈴ヶ岳の外輪につけられた道が交差している。カジカエデの大きな葉がカナダの国旗を連想させる。
ここから鈴ヶ岳は直進し、大きく登り返すことになる。起伏の多いコースである。新坂平の標高がおよそ1420m、本日の最高点である鈴ヶ岳まで、単純な標高差は150m足らずなのだが、今日歩くコースの累計標高差は何と600mもある。それだけアップダウンの激しい行程であり、鈴ヶ岳登頂後もまた急降下と大きな登り返しが待っている。
その鈴ヶ岳へは一本調子の急登となった。大きな岩の間をすり抜けていく。ここへきて、ミズナラの林の中に時折ブナを見かけるようになる。
鈴ヶ岳は過去の噴火によって誕生した寄生火山のひとつだそうだが、その歴史は赤城連山の中でも古く、荒山や黒檜山や大沼とは違う時期の噴火でできたものらしい。周囲の連山と自然条件や岩石の侵食・風化の進行度合が違うため、独自の山容と環境を持ち「赤城の異端児」と言われている。
急な登りがついえ、鈴ヶ岳の山頂に着いた。石碑の立ち並ぶその地は周りを樹林に囲まれている。過去の登山ガイドだと展望がいいと書かれているが、樹林越しに黒檜山が望めるくらいで眺めはあまりよくない。折しもこのとき周囲をガスが覆いはじめており、乳白色に包まれた中での登頂となった。
鈴ヶ岳山頂への登山道は1本のみ。したがって来た道を大ダオまで下る。そこからは北東方向、沼尾川のほうへカラマツ林の中を下る。この道はさらに歩かれていないようで、シダの生えたぬかるんだわかりにくい道を、踏み跡を探しながら下っていく。
水の流れる音が近づいてきた。鞍部のような場所に降り立つとミズナラやカエデに混じってブナが何本も立っている。中には直径70cmの大木も。
ここ沼尾川源流域は赤城連山の中でも数少ない、貴重なブナ林の見られる場所である。しかも林床にはシャクナゲが生育している。ブナとシャクナゲが同じところにあるというのも珍しい。
さらに高度を落として沼尾川の沢筋まで来ると深山分岐で、未舗装の林道に行き当たる。標高はすでに、登山口の新坂平より250mも低い。
上流方向に林道をしばらく歩く。大沼へはこの沼尾川に沿っていけば大沼に出られる。地図だと川に沿って細い点線が描かれており、林道をそのまま使えるかと思ったが、どうもそんな風ではなく、川を越えて隣の尾根筋に乗るルートをとるしかなさそうだ。
沼尾川はやはり台風の後で増水し、水の流れるスピードも尋常ではない。橋は問題なく渡れたので助かった。
鈴ヶ岳の登頂は果たしたが、まださらに登らなくてはならない。この最後の登り返しの道が長く辛かった。休み休みでなんとか出張峠まで登り着く。この先、この五輪尾根を歩いて薬師岳に達することができるが、今日はここで尾根を外れて下山する。
しばらく下ると舗装林道が見えてきて、ようやく森から脱する。白い大きな建物があり、赤城の観光地の一角に入った。少しの林道歩きで大沼の沼尻に出ることができた。
すでに空模様はどんよりした曇りで肌寒く、黒檜山は大きな雲を被っている。少し雨も降ってきた。沼尻から車のある新坂平へはまだ高度50mほど車道を登らなければならなかった。最後の力を振り絞り新坂平に登り着くと、いよいよ本格的な雨模様となる。山中で降られなくてよかった。
今日は、赤城のもう一つのブナ林を見に行く。大沼の北の赤城神社だ。小鳥ヶ島という出島になっており、ここに神社が建っていて季節を問わず多くの参拝客が訪れる。自分も黒檜山に登る時に近くを通るが、ここにブナがあるとは知らなかった。
赤城神社前の駐車場に車を停め、社殿の方に行ってみる。社の裏に小さな林があり、スギヤマツに混じってたしかにブナがある。大沼のすぐ水際である。巨木はないのでそれほど古いものではなさそうだが、何本も固まって生えていた。植えたものではなさそうだ。
それに、葉を見ると大ぶりのものがある。また、日本海側の山地でよく見る、白くスラっとした姿のブナが多い。赤城は太平洋型ブナの北限地ということだが、一部日本海型のオオハブナの系統も継いでいるようにも見える。
隣りの玉原高原から武尊、谷川岳にかけては日本海型のブナとなる。赤城のある群馬県中北部は気候分布的にも、太平洋型と日本海型の分水嶺となっており、ブナ林のタイプにもそれが表れている。
もし大沼がなかったら、沼尾川の源流はこのあたりだったのかもしれず、今は沼の誕生で離れた場所になってしまったこの二つのブナ林は、何か共通した自然条件があるのかもしれない。
神社林と言えば杉林か照葉樹林であることが多いが、赤城神社は何種類もの樹種がある雑木林だった。おそらく、赤城連山によく登る地元の人でもこのブナの存在を知っている人は少ないだろう。
赤城のもう一つの見どころを知った。これからは、黒檜山がツツジに彩られる季節、このブナの新緑も目にしていきたい。