この土日もまた、天候の安定しない週末となった。でも、少しでもいいのでお日様の登場を期待して谷川岳へ向かう。
夜中の3時前に家を出て6時過ぎに土合橋着。今日は久しぶりにロープウェイを利用する。土合口駅まで15分弱歩く。ロープェイの運行開始時間は7時で、何と自分がこの日の最初の乗客だった。さらにその一番めのゴンドラを独り占めしてしまった。
オジカ沢ノ頭はヤセ尾根の尖峰
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天神平に上がると、爽やかな青空が待っていてくれた。山で青空を見たのは久しぶりの様な気がする。今日は気分のよい歩きが出来るかもしれない。午後には雷雨の予報もあり天気次第ではあるが、快調に足を運ぶことが出来れば、茂倉岳から土樽に下り、電車で土合に戻るプランでいきたい。
まだ自分以外に誰もいない中、スキーゲレンデを見ながら歩き始める。東に笠ヶ岳から朝日岳の稜線がたおやかな姿で横たわっており、進行方向には青空をバックに、谷川岳の2つの耳がくっきりと見えていた。尾根の背に出ると、西側の主脈稜線も青空と境をなしていた。
木々の緑はそろそろ色あせ始める気配。天神峠からの道を合わせ、しばらくして熊沢穴避難小屋に着く。鎖のついた岩場を登っていくにつれ、樹林の背が段々低くなっていき、やがて周囲は一面の千島笹の原へ移行する。谷川連峰ならではの景観である。このあたりは強い日差しを受け、汗が吹き出す。
天狗の留まり場で休憩していると、ひとりの男性がいつの間にか後ろから来ていて、すぐに通り過ぎていった。自分は天神尾根の2番目の登山者になった。
中ゴー尾根のほうに小さな雲が湧く。谷川岳の肩あたりもだんだん白っぽくなってきたようだ。一度こうなってしまうとあとは早い。上昇気流に乗って雲はどんどん成長し空を覆い始める。
ちょっと脇見しているうちに周囲はすっかり白に。岩場の急階段を登りきり肩の小屋に着くころには、トマノ耳はガスで隠され気味になっていた。天気の急変ぶりはいつものことだが、今日は特に変化が激しい。
トマノ耳山頂に着くと、山名標柱が縦に裂けて半分になっていた。後でわかったが最近雷が落ちたようだ。
北側に続く稜線はガスに飲み込まれ、となりのオキノ耳も見えない。茂倉岳方面はまだ青空だったのだが、あれを越えていくのが何となく憂鬱に思え、肩の小屋まで下りた。
今日はこのまま来た道を戻るか。早発ちしていてそれはもったいない。小屋の西に伸びる主脈稜線はまだ青空だったので、オジカ沢ノ頭まで往復することにした。
肩からこのオジカ沢ノ頭、さらに俎(まないた)ぐらから川棚ノ頭にかけては切り立ったヤセ尾根で結ばれており登高欲をそそる。俎ぐらへは登山道はないが、万太郎山から仙ノ倉山へ至る主脈縦走路は、古くから歩かれているその名の通り谷川連峰のメインルートである。
自分も過去2度歩いたが、中でも出だしのオジカ沢ノ頭までの間が一番の難路だった印象がある。ぱっと見た感じでは、コースタイムが1時間くらいあるとは思えない。
小屋の前で少し休み、出発する。最初は緩い下りがしばらく続く。今までの天神尾根と違って、登山道は太くなったり細くなったり、凹凸があったりしてワイルドである。
また天神尾根ではあまり見られなかった高山植物が、ここではけっこう見られた。ハクサンフウロ、ウメバチソウ、ヤマハハコなどが多い。中ゴー尾根の分岐を過ぎ、登り返しになり次第にヤセ尾根に。いくつかのコブを越えていくが、尾根が狭いので急傾斜で高度感がある。
ピークが近づくにつれ登山道は険しさが増してくる。始めはどこと言って特徴のないピークに見えたオジカ沢ノ頭は、このあたりから見ると天に挑みかかるように尖がっている。
ピークから左(南)側へ、俎ぐら~川棚ノ頭へ続く吊り尾根のような稜線が特徴的だ。振り返ると谷川岳が堂々として大きく、肩ノ小屋もよく見える。
登山道はいったん平坦さを取り戻す。暑さからも開放され、谷川連峰の大景観に囲まれた快適な尾根歩きがしばらく続く。やがて「谷川岳から1000m」の標柱を見る。マツダランプの広告が懐かしい(と言っても自分はその時代を知らない)。
すぐにヤセ尾根の急登となる。ギャップの大きな登りが続き、鎖のついたガレ場がそれに続く。雨で濡れているとやっかいな所だ。
このあたりで雲が多くなってしまい、少々肌寒くなった中、オジカ沢ノ頭へ到着する。展望はもちろん360度。この先には主脈縦走路がさらにうねうねと続き、振り返れば谷川岳から茂倉岳への稜線、飯士山の特徴ある山容、足元にはいく筋もの深い谷が刻まれている。
そして南には壁のような俎ぐら。山頂にいたる登山道がないのが大変に惜しい。尾根はなだらかに見えるのだが、実際は登山道もひけないほど険しい地形なのだろう。
谷川岳の山頂には人があふれかえっているのが見えるが、こちら主脈縦走路まで足を伸ばす人は非常に少ない。今回出会ったのもせいぜい3、4人といったところだ。
できればこのあと万太郎山まで登って土樽に下りるコースも歩いてみたいが、日帰りでは時間的に無理そうだ。これで来た道を引き返すことにする。
空模様は悪化する一方で、怪しげな黒い雲も近づいてきた。肩の小屋への登り返しに入るころ、ついにポツポツと雨が来てしまった。上空では雷も鳴り始めた。これはまずいと思い、急ぎ足でしゃにむに登る。
肩の小屋に戻るまで幸い雨は強くならず、雷も2度鳴っただけだった。しかし小屋前にいる人たちはみなレインウェア姿である。
やがて、雨は少し強くなってきたので自分も着ることにする。白馬岳のあとレインウェアを新調したので、今日はその試し着となる。
それなりにいいものを買ったのだが、やはり雨をしっかりはじく分、体面に蓄えられた汗や熱をうまく逃がしてくれない。お世辞にも快適とは言えず、降りが弱まったらすぐに脱いでしまった。
大勢の登山者と行列をなしながら、天神尾根を下る。初心者も多く、岩場を下るのに苦労している。少し高度を下げると雨は止み、武尊山などの周囲の山並みが再び見え始めていた。熊沢穴避難小屋の先から降りかえりみる谷川岳は、上半分を雲にすっぽり覆われていた。
観光客で賑わう天神平へ戻る。下ってきてももはや日差しはないので、暑さがぶり返すことはなかった。乗る予定のなかった帰りのロープウェイの片道切符を購入し、土合口へ下る。
谷川岳は、天神平からの往復だけだと物足りない向きには、好天であればぜひオジカ沢ノ頭に立ち寄って、谷川連峰ならではのスリルある尾根歩きを味わってほしいと思う。