2016年6月4日(土) 前夜発 | |||
◇ | 練馬IC | 20:45 | |
関越自動車道 赤城高原SA泊 |
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◇ | 湯沢IC | 5:15 | |
県道540, 541号他 | |||
6:00 | 茂倉新道登山口 | 6:10 | |
7:30 | 檜廊下 | ◇ | |
8:25 | 矢場ノ頭 | 8:30 | |
9:10 | 1680m点 | 9:15 | |
9:50 | 茂倉岳避難小屋 | 9:55 | |
10:10 | 茂倉岳 | 10:33 | |
11:25 | 笹平 | ◇ | |
11:57 | 武能岳 | 12:05 | |
12:42 | 蓬峠 | 12:55 | |
13:57 | 中ノ休場 | ◇ | |
14:20 | 東俣沢出合 | 14:30 | |
15:05 | 林道 | ◇ | |
15:40 | 茂倉新道登山口 | 15:45 | |
県道541,540号他 岩の湯立寄り |
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17:35 | 湯沢IC | ◇ | |
関越自動車道 | |||
19:50 | 練馬IC | ◇ |
登山道で「新道」と言うと、旧道に比べて急峻で登るのが大変なイメージがある。茂倉新道もその口で、茂倉岳まで標高差1300m近くあり、登りっぱなしのきつい道である。以前雨模様の中登頂を途中で諦めて、尻もちをつきながら下山したことがある。
谷川岳に登った後の下山路としてその後何度か使ったが、やはり一度は登りで歩いてみたい。
土樽の登山口から茂倉岳、さらに蓬峠まで縦走しての周回ルートは日帰りとしてはやや長いが、日の長い今の時期なら、天気がよければ展望と高山植物の楽しめるいい山行となる。
ハクサンコザクラ(茂倉岳下) |
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前夜赤城高原SAで車中泊し、翌朝4時半に出る。今日は午後から曇る予報なので、朝早いうちから行動したい。しかし前日仕事から帰宅してからの出発ではこれが精いっぱいである。
湯沢ICを下りて登山口に向けて県道を走っていくと、毛渡川橋が工事中で通行止めだった。迂回路の説明図が貼られているが、どこから入るのかよくわからなくて、途方に暮れる。
一旦戻ってカーナビの地図を頼りに川の向こうの林道の方向に進むと、迂回路の案内がありその先で工事関係の人が誘導していた。やれやれホッとしたが、林道は細く長かったので予定より30分以上も遅れて土樽の茂倉新道登山口に着いた。
登山口は土樽PAのすぐ横にある。ここにスマートICでもあれば高速を出てすぐに登山口に立てるのだが、現状は湯沢ICまで行ってから戻ることになる。
先着の車は2台だけ。歩き始めは6時過ぎになってしまった。歩行9時間のコースを歩ききれるだろうか。気持ちの良い青空のもと、とにかく出発する。
茂倉新道はのっけから樹林帯の急登である。しかしここで急がず、体が慣れるまでじっくり行く。背中からは高速のシュー、シューという車の音が絶え間なく聞こえてくる。やがて周囲はブナ林となり、比例して傾斜もどんどんきつくなってきた。
補助ロープをたぐり寄せながら高度を稼いでいくと右手の眺めが少し開ける。台形の仙ノ倉山、三角形の万太郎山が青空にそびえていた。
急登が続く中、道はヒノキの大木がはびこるヤセ尾根状に変化。茂倉新道を特徴づける檜廊下である。場所によっては太い木の幹を回り込むようにして通過する。
北関東や新潟の山というと、全山ブナなどの落葉樹に覆われ瑞々しいイメージがあるが、標高2000m前後の亜高山クラスになると、中腹にこうした針葉樹林が見られるケースが意外と多い。巻機山、火打山などがその例である。苗場山も一部あったように思う。
また、谷川連峰でも白毛門にヒノキノウロという巨樹があるし、ブナで有名な群馬県玉原高原の尼ヶ禿山、福島県会津の二岐山、博士山では山中でアスナロやネズコの大木が見られる。
ヒノキといっても南関東の山にある人工林のヒノキとは全く違い、枝ぶりや根、幹の太さにインパクトがあって、存在感はブナの巨樹とひけをとらない。特に茂倉新道の檜廊下は「奇樹」の見本市のようで見ていて飽きない。またこれらの巨木の間を縫って登っていく登山コースもなかなか面白いのである。
檜廊下はやがて左側の見通しもよくなって、巻機山だろうか、残雪のわずかに残る優美な山容がよく見える。檜廊下を終えると一段と展望が開ける。雄大な眺めを前に、谷川連峰に今年もやってきたという実感が湧く。
矢場ノ頭への直登で初めて、茂倉岳の大きな山体を目にする。足元にはアカモノ、コイワカガミ、ゴゼンタチバナなど高山植物が次々と登場する。
矢場ノ頭で小休止。ここで引き返しても悔いはないくらいの、360度の大展望である。振り返れば湯沢の街並みと関越がはるか下に。あの高速の車の音はいつの間にか聞こえなくなっていた。
進む方向には茂倉岳に至る稜線が、まだ険しい姿で待ち構えているので、この先もペースを乱さないことを心がけて行く。
低潅木の尾根をどんどん登っていく。ほどなくその潅木帯も終わり一段と展望が開ける。
ナエバキスミレやミツバオウレンを見て、次の小ピークに立つとそこはハクサンイチゲの群落地だった。まだ花が若く、真っ白な萼片が美しい。この先の岩がちの尾根筋からも谷川岳をバックにたくさんのハクサンイチゲが見られた。一見地味めに映る茂倉新道も、今の時期は花いっぱいのコースになっていた。自分以外誰も歩いていないのが不思議である。
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遠く高かった茂倉岳もだんだんと近づき、前にシラネアオイの咲く茂倉岳避難小屋に着いた。
ここまで来ればもうひと登り。開けた草尾根を急登して茂倉岳に登り着く。群馬側、さらにその先の尾瀬や奥只見の山々の眺めが加わる。日が翳ってやや肌寒く感じる。だが灼熱の山頂でなくて、ここまでの登路も比較的涼しかったので、運がよかったと言えるだろう。
山頂にはザックが4つデポされていたが、一ノ倉岳までのの往復だろうか。このあたりではここが最高点なので、どういう寄り道ルートにしても天候急変に備えてザックは担いでいた方がいいように思う。
このまま予定通り、蓬峠経由の周回ルートで行っても、時間的に問題なさそうだ。茂倉岳からは急坂を下る。次の目標は、茂倉岳からは穏やかな扇型に見える武能岳である。
下りの道も展望満点なのだが、逆コースだと相当にきつい登り返しとなる。この日も馬蹄形を左回りで縦走している人に何人も会ったが、皆この登りに参っていたようだった。しかも日帰りの人ばかり。自分は6年前に無人小屋1泊で馬蹄形縦走したが、行程のきつさを考え、2泊にしようかと思ったくらいだ。
茂倉岳から少し下ると、しばらくは穏やかな平尾根状となる。ハクサンコザクラやハクサンイチゲが競うように咲き乱れ、ここがこの日一番のお花畑になっていた。以前6月下旬にここを歩いたときはそれほどでもなかったように思う。シラネアオイ、コイワカガミ、ナエバキスミレも咲き、花の色もバラエティに富んでいる。
道脇に小さな残雪を見て、さらにどんどん下る。武能岳は見上げるような位置になり、さっきは丸っこく見えた山が、ここからは尖った山頂部を空に突き出している。見る角度によって形が全然違う山の代表である。
標高1600m台の笹平の最低鞍部まで下りきり、その武能岳へもかなりの急登となる。秋空のような絹雲を見上げながら少しずつ高度を上げ、再び展望の頂に立った。東西に細長い武能岳山頂からは蓬峠への千島笹の稜線、振り返れば茂倉岳まで伸びる荒々しい山稜が見ごたえあり、朝日岳や越後方面の眺めもいい。谷川連峰の中でも特に展望の楽しめる山である。
一人、二人と登山者がやって来る。反時計回りで歩く人がやはり多いようで、蓬峠方向へ行くのは今からだと時間的にも峠から下山することになる。その蓬峠までは千島笹の中に伸びる一本道を気分よく下る。ミヤマキンポウゲを今日初めて見る。
蓬峠に立つ蓬ヒュッテは昨年建て直されたが、外観は前とあまり変わっていない。以前のようなような水色や黄色の配色はなくなり、今は全面が茶色い建物になっている。
管理人さんが出てきたので花が多かったことを話すと、あの茂倉岳下の棚にはオゼソウも咲くと言う。トキソウは咲かないのかと聞くと、同じ湿地性の高山植物でも、その土壌の湿り具合によって咲くものと咲かないものが出てくるので、トキソウはないのではないか、とのこと。そう言われて納得した気になったのだが、あのあたりで以前トキソウを見ていたのを思い出した。聞く方も聞く方である。管理人さんはそんな話をしながら、目の前の広大な千島笹に向かって、人目もはばからず豪快に男の専売特許である生理現象をやってのけた。
展望に後ろ髪を引かれつつ、峠から下山とする。水場までは5分から10分ほど。「最後の水場」と書かれている。口に含むとこれがまたおいしい水なのである。手持ちがまだ500mlほど残っていたが、同じくらい汲んでいく。登山道にはアカモノ、ムラサキヤシオ、ツマトリソウ、タニウツギなど上にも下にも花は咲き続いている。
ちょっと歩きにくいガレ場を過ぎ、ブナ林の急降下に入る。ここを下りにとるのは初めてである。中ノ休み場を経て、東俣沢出合まで下り着くまでは結構長く感じた。沢にはロープが張られていたおかげで、靴をほとんど濡らすことなく渡渉できた。
もうきつい下りも登りもないのだが、出合から先は一部、草が深くかぶっていてわかりにくいところもあった。多くの人で賑わう谷川岳も、裏側に入れば越後の山深い山となる。こういう二面性もいかにも谷川連峰らしい。
林道終点にたどり着く。舗装道路を歩き、やがて土樽PAの建物が見えてきた。車の置いてある茂倉岳登山口へ少し登り返す。駐車場の車は朝から1台だけ増えて3台になっていた。
今日は梅雨入り直前の瑞々しい山を、1日かけて存分に楽しめた。迂回路の手前では、誘導係の人に会釈をして帰路につく。