先週末に続きこの土日も台風がやってきて、関東甲信の山には登れそうもない。少しでも台風の進路から離れている日本海側に行く。今回も遠征となるが、このまま紅葉のシーズンが終わってしまうのはつまらないので、3回続けての車中泊山行に出かけた。
新潟と長野の県境に、信越トレイルという全行程80kmの登山道が伸びている。信越トレイルの中心となるのは標高1000m前後の関田(せきだ)山脈である。関田山脈は海岸線0mから隆起して1000mにもなったという、日本でも稀な山ということだ。
今回登るのはその関田山脈の2座で、ブナの発達した山として知られている。東京からは遠いが標高も手ごろであり、紅葉の時期にぜひ登ってみたい山だった。
ブナが色づく巨木の谷
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上信越道のPAで仮眠し、朝5時に出発。涼しいを通り越して寒くて震えるくらいだ。豊田飯山インターで下り国道、県道を縫うように行く。
飯山市と名前は市だが、長野県最北のこの地はひと時代、いやふた時代前に見たような街並みが続いていた。栄村に入り、道路標識には野沢温泉や志賀高原の文字が並ぶが、観光地には遠い雰囲気である。
静かな住宅地から県道95号を登っていくと周囲の山々はどんどん色づいていった。巨木の谷の駐車場に着く。眺めが開けて、斜面のブナ林は今が紅葉の見頃のようだ。巨木の谷から先、関田峠までの車道は台風21号による崩落で通行止になっている。
まず、鍋倉山のブナ古木として名のある森太郎・森姫を見にいく。しかし登山口がなかなか見つからない。車道を何度か往復しているうちに、藪で隠された踏み跡が伸びているのに気づく。入ってみるとすぐに案内板。この豊かなブナの森を保護するため必要以上の道整備をしていないので、巨木の谷から森太郎へは地元の人の案内で歩いてほしいとのことだ。登山口にあえて標識を立てていないのもそのためだという。
新潟の山のガイドを見ても、森太郎を紹介しているにもかかわらず、そこへの登山コースが地図で示されていない(掲載の地図上には方角を表す矢印だけ)理由がはじめてわかった。
登山道に入ってしまえば指導標は至るところにあって、迷うところはあまりない。ただ路面が滑りやすく、谷側が切れ落ちたトラバース道が続きなかなか歩きにくい。何箇所かで足を滑らせ滑落しそうになった。
緩やかに高度を上げ、山頂への近道を分けて森姫のあるところへ。森姫はブナの巨木だが、登山者の踏みつけによって枯れてしまったと案内板にある。周囲のブナは元気よく生育しており、森姫だけが枯れ折れた太い幹を見せていた。
なおも歩きにくい緩斜面を登っていくと小沢があり、その先に森太郎が立っていた。こちらのブナもやや枯れぎみである。ロープがあって近づくことはできない。このあたりは木々の枝を透かして眺めがきき、紅葉したブナの森が見下ろせた。曇り空で今ひとつきれいに見えないのが残念だが、今日は天気について文句は言わないことにしよう。
少し傾斜がきつくなり、さっき分かれた山頂への近道と合流する。標高1000mを超すと紅葉した木もまばらとなった。この上もまだブナの森が続くだけにちょっと残念。しかも上の方は強い風が吹きすさんでいる。
久々野峠に到着。鍋倉山と黒倉山間の鞍部で、ここも眺めがいい。鍋倉山へは尾根筋一本、すでに葉もほとんど落ちた木々を縫いながら登る。10分ほどで祠と三角点のある鍋倉山山頂に着いた。信越トレイルはこの山頂を通っており、立ち木にコース案内の小さなプレートがつけられている。
にわかにガスが周囲を舞い始め、西の方角にそびえる妙高・火打と思われる高山も見えたり見えなかったりになってしまった。風が強く寒いので、フリースを着込んで小休憩する。
峠に戻り、今度は直進する。すぐに到着した黒倉山山頂は開けており、日本海の海岸線が意外なほど近くに見えた。新潟の山なら見慣れた眺めなのだがここは長野県の山でもある。このくらいの標高で、山頂から海が見える長野県の山というのは、ありそうで結構珍しい。海岸線に沿って目を追った先には、端正な山容の米山がよく見えた。
しばらくは快適な稜線下りとなる。風が強くフリースのフードを被っていく。矮小化したブナがほとんど真横の方向に、地を這うが如く幹を伸ばしている。まるでハイマツのようだ。日本海からの風をまともに受けるせいだろう。しばらく歩くと道は海側の山腹につくようになり、風は途端に止む。紅葉も飛ばされずに残っている。
5、6名のグループと行き違う。今日はここまで、ほとんど登山者に会っていない。やはり関田峠まで車で上がってこれないのが原因だろう。例年なら秋の紅葉シーズンを終えて冬季閉鎖となるそうだが、今年はもうこのまま通行止で終えるようである。
筒方峠を過ぎ、しばらくして茶屋池方向へ右折、ブナに囲まれた茶屋池は風も弱く、静寂が支配していた。紅葉は少しピークを過ぎたものの、台風の影響がなければここも多くの観光客で賑わっていたことだろう。
池の淵を歩いて休憩所のある車道に行き着いた。道路崩落の影響だろう、紅葉がきれいなのにここにも誰もいない。
ここからは車道を下っていく。青空が全くなかったのは残念だが、この車道も眺めがよく、紅葉もいいので歩きがいがある。鍋倉山のたおやかな山容を正面にして、下の方にもう見えている駐車場を目指す。
通行禁止の看板の先に、崩落した現場があった。谷側にある下り車線が数メートル分、スパッと落ちてしまっている。山側に一車線分の幅は残っているので物理的には車の通行は可能だが、いつ崩落するかわからない。
しばらくして車が一台やってきて、その通行止の看板を脇にのけて強行突破していった。登山者ではなく、おそらく反対側から上ってきて通り抜けを図ったものだろう。だが、すぐ引き返してきた。この先にもう一箇所通行止表示があって、そこは施錠付きのロープで通れないようになっていた。これはさすがに突破できなかったようだ。
巨木の谷駐車場に戻る。車が10台ほど駐車していたが、通行止を知らずに茶屋池での紅葉狩りにやってきて、諦めて帰っていく車が何台かあった。山歩きならここからなかなかいい一周コースが取れる。今度はもっと天気のいい日に再訪したいものだ。
まだ時間はあるので、予定通りハシゴ山行といく。次の天水山登山口までは車で1時間ほど。カーナビだと遠回りのコース選択にとなってしまうので、あらかじめパソコンでルート検索していた通りに補正する。
明るい里の道を下って千曲川や飯山線沿いの国道を行く、ドライブにはいいコースである。