~季節移ろう上越の秀峰~ まきはたやま(1967m) 2006年8月20日(日)~21日(月) 清水~井戸尾根~避難小屋~巻機山 |
●井戸尾根を巻機山へ
沢コースを分け井戸尾根に入る。合目を示す標柱が立てられている。すぐに二合五勺の標柱。桜坂が二合目ということだろう。しかし合目標柱に勺の単位まで書かれているのは初めて見た。 三合五勺あたりまではなだらかな登りで、暑いがそう苦行ではない。四合目を過ぎ傾斜がだんだん増してくる。石がゴロゴロして歩きにくい。ザックの重みを感じるようになる。 周囲はブナなどの混合林が続く。登山道整備か、間伐作業をしている人たちを見かける。登山者の踏みつけなどで登山道が荒れた巻機山は、地元の人の手で植生を回復中とのこと。山をいたわる人々の姿がある。 暑い日差しが背中をあぶり始める。樹林は密でなく、森林限界上に達していないのに頭上が開ける箇所が多い。 列車で眠りが浅かったせいもあって、睡眠不足がジワジワと効いて来る。急登ののちあたりが開け、五合目の平坦地に着く。正面に米子沢の滝、振り返れば谷川連峰の大源太山の尖峰が見える。 一息つこうとザックを地面に下ろしたら、どっと疲れが出てきた。以後比較的穏やかなブナ林の登りになるのだが、暑さと睡眠不足で完全にバテてしまった。数年前の茂倉新道のように、途中で引き返すことも考えた。 このあたりはスラッとしたブナが多いが、枝のほうを見ると、葉があまり茂っていないので明るい雰囲気がある。立ち枯れとも思えないのでこの付近の山の特徴なのだろうか。 五合目から上の標柱は、それまでの五勺ごとではなく五合三勺、五合七勺と刻みが細かくなる。 ずいぶん高度を上げた気がするのにまだ三勺しか進んでいないのを知り、がっかりしてまた休憩する、といったことの繰り返しとなる。 六合目で左に天狗岩、そして割引岳の姿が望める。ヌクビ沢はまだ雪が多く残り、よく見ると雪に穴が開いていて、トンネル状になっている。 檜など針葉樹を少し見た後は潅木が目立つようになる。ようやく森林限界から脱した印象の七合目(物見平)に着く。登山者が数人単位で行き交っている。 正面上には緑鮮やかな前巻機の山体が大きい。ここからはその前巻機を目指し気持ちのいい登りが続きそうだが、ともかくここは腰を下ろして、ヘトヘトになった体を休めることにする。 避難小屋泊まりと思われる、マットをザックに縛りつけた人が下りてきたので、水場の状況を聞いてみた。雪解け水で少し泥が混ざるが水量は問題ないとのこと。2つある残雪のうち、奥のほうがきれいだと言う。 展望は霞み、大源太山、七ツ小屋山は輪郭でしかない。左方には朝日岳から続く稜線が近づいてきた。ガレ場の急登に続いて笹の中をジグザグに登っていく。 このあたりから木道や木段が始まる。木段の周りには土砂流出防止のための土留めも設置されている。 ハイマツが現れようやく九合目、そこからすぐに前巻機(1861m)のピークとなる。「ニセ巻機山」の山名柱が立っているが、前巻機という名前のほうがいい。草原にはイワショウブの白い花が目立つ。 そしてここからは、いよいよ巻機山本峰のたおやかな稜線が目の前だ。ここまで来ればあとは避難小屋までの短い下りを残すのみ。ほっとする瞬間である。 本峰から下りてきた人とすれ違う。稜線はここよりずっと涼しいと言う。標高はこことそう大きく違わないのに不思議だ。
下って巻機山避難小屋に着く。2年前に改築された小屋は、木の香が残り大変きれいだ。非常用の無線電話やバイオトイレもあり、いい意味で今風の小屋である。 今日はもう行動はやめようかと思ったが、荷物を小屋に置いてしまうと、やっぱり今日のうちに稜線に上がっておきたくなった。 水場で水を補給し、笹とハイマツの緩い登りを行く。ニッコウキスゲが咲き残り、池塘のあるところにはハクサンコザクラ、イワイチョウが点在する。
稜線に上がったところには「巻機山山頂」の標柱が立っている。ただし本当の山頂は少し右に行ったところで、今いる場所は御機屋という場所のはずた。御機屋から右手には、笹原越しに本峰と牛ガ岳の台地状のピークが望める。少し移動すれば、左側に割引岳の三角錐が形よい。 涼風を頬に気持ちよく受けながら、本峰への平坦な稜線を行く。稜線上にはたしかに、今までの道とは違う空気が流れている。寒いくらいに爽やかな気候だ。 エゾリンドウが咲くが盛夏の花は見られない。黄変しつつある草葉も目立ち、稜線は夏の終わり、というよりもむしろ秋の入口、といったイメージである。
巻機山本峰(1967m)には山頂標識やベンチすらなく、通り過ぎるのみ。少し行くと朝日岳への道が分岐し、ノハナショウブが2輪咲いていた。 ハクサンフウロやコガネギクを見ながら木道を緩く下る。ガスが濃くなってきた。登り返したところが牛ガ岳(1962m)だが、周囲はすでに一面のガス。展望もないままに御機屋に戻る。 割引岳は明日往復することにし、避難小屋に戻る。小屋の整備(見回り?)をしていた2人がいなくなると自分ひとりになってしまった。どうやら今日は貸切のようだ。ラジオで高校野球の決勝(引分けで再試合となる)を聞きながら眠るとする。 7時を過ぎ暗くなった頃、1組の夫婦が小屋に到着する。ヌクビ沢を登ってきたが予想以上の難路でこんなに時間がかかってしまったそうだ。雪のトンネルは意を決してくぐったとのことである。 ご夫婦は1階、自分は2階で夜を明かすこととなる。 |