飯綱(いいづな)高原は大学生時代、スキーに来たことがある。一昨年高妻山に登った際、戸隠山など周辺の山を調べているうちこの飯綱という名が懐かしく感じられた。
この山域でまず思い浮かぶのはやはり戸隠山だろう。修験道の山を地でいくこのナイフリッジの山稜はまだ挑戦していない。隣りの高妻山は一筋縄ではいかないきつい山だった。
飯縄山は黒姫山と同様、この付近では格好の1日ハイキングの山となりそうだ。
なお、同じイイヅナでも飯綱は地名で、山のほうは飯縄山と表記するのが正しいようだ。
土日の天気があまりよくなさそうなので、休みを取っていた金曜日に登ってしまうことにした。
色づき始めた稜線を伝って山頂へ
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平日の高速はETC割引率が低いのだが、長野インターを夜中12時過ぎに出ることで深夜料金適用となり、休日割引より安くなった。インターのすぐ外で仮眠する。
金曜の朝、空はどんよりとした曇りだった。バードラインを一気に標高1100m以上まで上がる。戸隠中社の横から細道に入り200mほど進むと、神告げ温泉(日帰り入浴施設)とちびっ子忍者村の広い駐車場がある。この温泉には高妻山のとき立ち寄った。まだ朝早いので閑散としている。
樹林帯につけられた林道をしばらく歩いていくと忍者村の入口、そしてその先にもうひとつの駐車場があるようだ。登山口はその駐車場には至らずに、左手の斜面に登山道が始まっていた。
幅広の歩きやすい、なだらかな坂道が続く。天気の影響もあるが、平日の山は極めて静かである。最近はあまり平日に登っていなかったので、何となく新鮮な感じだ。
荒れ気味の林道が横切り、木の鳥居を見ると登山道は次第に傾斜が増す。石のゴツゴツした路面が歩きにくい。空は依然として乳白色。先週の谷川岳のような、雲海を突き抜けたら青空というパターンは、今回さすがになさそうだ。ただ天気予報を信じるなら、時間が経てばある程度回復しそうではある。
周囲は色づきはじめた低潅木帯となる。登山ガイドでは飯縄山への稜線が見えはじめるとあるが、それはかなわない。ガスが霧雨っぽくなってきたころ、ちょっとした展望台のような場所に到着する。とは言っても何も見えないので単に風の通る場所でしかない。以後しばらくは、右手が常に開けた稜線歩きとなる。天気がよければ大パノラマが楽しめそうだ。
右から南登山道が合わさる。今自分が歩いているのは西登山道というらしい。上から何人か下りてきた。昨日登った戸隠山もこんな天気だったとのこと。
さらに登る。頭の上でしきりに大きく動くガスの間から、太陽が見え隠れするようになる。鉄製の鳥居を見ると、傍らにツリガネニンジンやマツムシソウが咲き残っていた。
そのすぐ先で平坦な小広い台地に出る。これは登山ガイドでいうところの「ニセピーク」だろう。右手に一段下りてみると飯縄神社の小さな小屋があった。真っ白な景色に目をやるとガスが切れ、一面に大きな雲海が現れた。前方に飯縄山の頂上部も見えてきた。紅葉の木々が点在している。
気分のいい稜線を緩く下り登りして、飯縄山山頂に到着する。岩がゴツゴツした広い台地で、太い標柱と展望盤がある。標柱には飯ヅナ山のツナの字が縄の字に書き直されていた。もとは綱だったのだろう。
全方位が開けており、東に四阿山や横手山が雲海から頭を出していた。眼下には町並みと小さな湖が見られた。後から登ってきた人によるとうちひとつは霊仙寺湖とのことだ。
西のほうも一部青空が覗いたが、今日の天気では北アルプスなど山の連なりは拝むことはできない。山頂が広く周囲は低潅木が茂っているため、360度の展望を楽しむには一カ所に留まってないで、あちこち移動する必要がありそうだ。まあ今日はほとんど雲海だけの眺めなので、これは負け惜しみ的想像でしかない。でも山の雰囲気はよく、のんびり休みたい場所である。
平日にもかかわらず、けっこうな数の登山者がやってくる。大勢の子供の元気のいい声がだんだん大きくなってきた。おそらく地元の学校登山だろう。山頂が混む前に瑪瑙(めのう)山方面への下山ルートに入る。
すぐに霊仙寺山への分岐があるが草深く、刈り払いされていないようだ。ひとしきり急な下りとなるが、カエデなどの紅葉がきれいなところである。再び雲海の中に潜ったか、前方が見づらくなってきた。霧に煙る紅葉を見るにはまだ時期が早すぎる。
やがて再びあたりが開け、岩角のテラスのような場所で、目の前に瑪瑙山と思われるどっしりとした塊が立ちはだかった。ただ周囲のガスの流れるのが早く、たちまちのうちに真っ白に。瑪瑙山の写真を撮りたくてしばらく待ったがなかなか姿を現さなかった。
開けた登山道を歩いて登り返しになるがそれほどきつくはない。登り切ると道は二手に別れ、右に進むと瑪瑙山の山頂である。振り返ると飯縄山が見えるはずだが大きな雲が隠していた。
瑪瑙とは難解な字だが、鉱物の一種らしい。山頂のすぐ下はスキー場のリフト降り場で、ここからしばらくはスキーゲレンデを下ることになる。
ゲレンデを歩くのは単調で面白みに欠けるので、先ほどの山頂直下の分岐に戻り左の道を行ってみたが、結局はゲレンデの中を歩くことになってしまった。戸隠中社に下山するので、中社ゲレンデを示す標識に従って芝生の真ん中を下る。ヤマウルシが真っ赤に紅葉していた。
下るにつれ、ゲレンデの樹林帯の上に戸隠連峰の「壁」が見えるようになってきた。稜線上部は雲に隠されているが、今日初めてのまともな展望であった。
怪無山の緩いピークを正面にして鞍部に下りたところは十字路になっていた。右折すると越水ゲレンデを経由していく下山路。ここは左の樹林帯に入っていく。
怪無山とはすごい名前の山があるものだと思っていたら、これは「かいむ」ではなくて「けなし」と読ませるらしい。飯縄山、瑪瑙山、怪無山とこの一帯の山名はどれも難しく、初めから正しく読める人は皆無であろう。
樹林帯の中の道は落ち着いた雰囲気で、いかにも山の道といった印象だ。単調なゲレンデから脱したのでよけいそう感じたのかもしれない。
急坂ののちに分岐となる。左は飯縄山とある。今朝登った道に合流するのだろうか。右折すると静かな水の流れに出会う。それからは水路を右に見ながらのゆったりした道が続く。日差しも戻って気持ちがいい。水辺にシラヒゲソウがたくさん咲いていた。
樹林帯の道が終わると、中社ゲレンデの下に出る。戸隠連峰が稜線付近まで姿を現していた。下のほうは中社付近の家並み、そしてその上には何と、北アルプスがズラリと並んでいた。
もう少し早い時間に、山の上でこの眺めを得たかったがこれも時の運であろう。下山時であっても北アルプスが見れたことはよしとしよう。
ゲレンデを下るとすぐに、朝通った道に出る。少しの歩きで神告げ温泉の駐車場に戻れた。
さああとは、温泉と戸隠そばである。入浴とそばセットで100円割引になっている。ちょうど、平日には珍しい団体客が出て行った後で、施設内はガランとしていた。ゆっくり入浴し新そばを食べた。
天気予報によれば、翌日は朝から雨でほぼ決まりのようだったので、このまま東京へ帰るつもりでいた。ただ温泉は人が少ないせいか、何となくまったりした気分になって、帰ってしまうのがもったいない気がした。
温泉の人に、すぐ近くの民宿に電話してもらい、今日は一泊していくことにした。もし万が一天気予報が外れでもしたら、黒姫山に登ろうと考えた。
翌朝、雨は降っておらず曇りの天気。ただおそらく山の上は雨であろう。
右足の腱あたりに痛みを感じ、山を歩くのはちょっと不安に思ったので、黒姫山は結局またの機会とした。
早朝の戸隠中社の荘厳さにふれてから、お昼前に帰京する。帰りの日が土曜日になったのでETC休日割引が適用された。