昨年荒沢岳に登ったとき、八海山はぜひとも早いうちに登ってしまおうと考えた。これで新潟県中越地方で一般に知られている主な山は、ほぼ登り尽くすことになる。
しかしこの山は難関である。いくつものピークが屹立するこの山塊の最高峰は入道岳だが、一般には、八ツ峰と呼ばれる岩峰群の「大日岳」に登頂することで八海山に登ったとされる。八ツ峰には大小30本以上の鎖場が設置されている岩場で、こういうのが苦手な自分にとっては「本当にどうやって登るのか?」なのである。
不動岳を下り、いよいよ八ツ峰縦走が始まる
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7時に旅館を出る。八海山ロープウェイの運航開始は8時だが、混雑が予想されるため少し早く出発した。
昨日と打って変わって新潟の空は一転の曇りのない快晴。こんなに晴れ上がるなら、少しは昨日の巻機山の天気に分けてくれればいいのにと思う。しかし今日の難関の山は、昨日以上に天気に不安のない状況で登りたいのも本音である。
山口の民家を過ぎ、八海山神社の鳥居を見る。広い駐車場に行き着くがさらにもう少し車で上がって、八海山ロープウェイの駐車場に着く。乗り場にはすでに行列が出来ていたが、一番最初の便に乗ることが出来た。なお、運行間隔は20分なのだが、この日の朝のように混雑する場合は臨時便として時間をおかずに動かすようだ。
満員のロープウェイは7分で標高1100mの山頂駅に着く。ここですでに展望満点で、昨日の巻機山も真正面に大きい。
一段上の尾根に上がり、展望台のある場所からいよいよ千本檜小屋、そして八ツ峰に向けて歩き出す。初めのうちはゆるい登り下りを繰り返す。なお同行者の友人は膝痛をかかえているが、とりあえず歩いてみると言う。しかしすぐに遅れ気味となったため、今日は別行動とした。
今日のコースは大変な反面、尾根上の一本道でもあるし、最終的に車のところに戻ればいいので気が楽だ。自分は先に行かせてもらう。
こぎ池への分岐を過ぎ、正面に女人堂のピークを見るあたりから道は急傾斜となり、石のゴツゴツした段差のある登りとなった。これは膝の悪い友人は登るのに骨が折れるだろう。登り着いたところが避難小屋の立つ女人堂で、一気に周囲の眺めが開けた。左に大きくせり出してきた峰は越後駒だろうか。進む方向には薬師岳も大きい。
ここからは高木が減って、周囲の眺めを楽しみながら登る部分も多くなる。目の前の薬師岳は意外な高さで迫っている。
ヤセ尾根の急登を詰めていくと、斜面に小さな湿地帯がありオレンジ色に紅葉していた。ただ今の時間は日が差してこないので、写真は帰りにする。振り返ると女人堂がもう見下ろす位置に。森の中に屋根がうずまっていた。六日町の町並みも一望のもとだ。
小さな梯子を超えていくと突如、一枚岩に10mはあろうかという鎖が下がっていた。いよいよ来た、という感じである。しかも同じくらいの長さの鎖が数本連続しており、人が多い時間は渋滞になりそうだ。素手で鎖をつかむととても冷たかったので、この先の鎖場に備え手袋をしていくことにした。
鎖場を通過して、低潅木の道を少し登るとあたりは一気に開け、薬師岳山頂に着く。4本の石標と鐘、小さな鳥居の奥に日本武尊の石像が奉られていた。越後駒ヶ岳がもう手に取るような位置にあり、中ノ岳に続く緩やかな稜線もよく見える。少し低い未丈ヶ岳はつつましやか。
そして駒のすぐ後ろに先っぽだけ見える、尖った峰は荒沢岳だ。さらに遠くには守門岳。もちろん右側の巻機山や上越国境の山々もパノラマである。
この先も360度展望が続くのだが、心から眺めを楽しむのはここまで。いったん鞍部に下って千本檜小屋へ登り返すときは、目線は小屋よりもその先の岩峰群にいっている。
千本檜小屋に到着。登山者が大勢休憩している。ちびっこハイカーもいて、どうやらこの小屋をゴールとして八ツ峰を登らない人もかなりいるようである。むしろそちらのほうが多い。どちらかというと展望が目的の山なら、それで十分だ。
昨日の巻機山の様子から、標高1500m~1700mのあたりの紅葉は見頃かと期待していたが、ここ八海山は少し遅れているようである。
小屋を後にし、八ツ峰に向かう。一段上に上がって目の前に屹立する岩峰の右側とトラバース。この部分だけで、今までの登山道と格段に違う険しさを感じる。
この道は迂回路コースともなっており、すぐ先で岩峰に登る道が分岐していた。最初から梯子、鎖と急傾斜。下ってくる人から「濡れているから注意して下さい」と声をかけられる。岩棚の上に立つと、少し戻ったところがさっき見えていた岩峰の地蔵岳。八ツ峰を縦走せず、ここだけにして引き返す登山者もいる。
自分は地蔵岳は踏まずに先を行く。次の岩ピークである不動岳には注意書きの看板が立っている「落ちたら助かりません」の文字に緊張する。さっそく岩につけられた7m、10mの鎖が連続する。垂直で下が見えない。最初ということもあって足の置き場にまごついている間、数人の登山者に先に行ってもらった。その人の動作を真似て、リズムをつけて何とか下る。
西上州の二子山を思い出した。いやそれ以上の迫力である。
間をおかずにすぐに急な登りとなる。登りの鎖場は何とかなるがやはり下りが問題だ。何しろ足の置き場が見えないし、そもそも置き場がない。岩肌にスリップしないように足を置き、それこそ後ろ歩きするようにリズミカルに下りていくしかない。
小さなピークをいくつも越え、鎖を何本も登り下る。かなりいい所まで来たかと思ったが、着いたところが白川(河)岳。まだ3分の1しか来ていなかった。順番的には不動岳の次は七曜岳、さらに白川岳となっているが他にいくつものピークが並んでいるようで、「五大岳」というのもあった。
これはかなり時間がかかりそうだ。なお、時刻はまだ10時台と早かったためか、前の登山者の通過に待たされるようなことはほとんどなく、逆方向を歩いてくる人も少ない(いないわけでなない)。
岩峰をいくつも越えていく間に標高が上がり、眺めも高くなってくる。怪異な岩の塔、摩利支岳に到着。まだ鎖場は続くが腕が疲れてきた。下りでは腕力を使うため、なるだけ時間をかけずにさっさと下ったほうがいいのはわかっている、途中で躊躇したりすると腕の力がなくなってくる。感覚が麻痺して落ちてしまうと大変だ。筋力が落ちているのを実感した。
無我夢中で登り着いたところが、とりあえずこの岩峰群の最高点だった。ピークはこの先にも続いており、自分の地図には大日岳が最終ピークのように書かれているので、まだかと思ったらちゃんと「大日岳」との石柱が立っていた。八ツ峰の縦走はあっけなく完遂した。